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はみんぐ・ふれあ  作者: JING
第三章「文化祭は世界の継ぎ目で」
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15/52

第15話「はみんぐ・ふれあ」

オープニングテーマ「HUMMING」

https://youtu.be/azhMg2sRa5g

 絶対運命補完委員会が文化祭企画へ加わると、まず書類が増えた。


「企画概要、収支予算、安全計画、電力使用表、機材配置、避難動線、演武参加者の健康申告です」


 蓮が机へ七枚置く。


「演武するだけだぞ」


「観客を入れるなら必要です」


 鈴華が隣から八枚目を足した。


「京一が設備を破損した場合の予備費申請です」


「待て。オレだけ名指しか?」


「昨年度実績に基づきます」


 先輩が紙を裏返した。


「数字が細かすぎて読めん」


「あなたが壊した窓、床、舞台袖、体育倉庫の棚を金額へ直しただけです」


「オレの活躍記録だな」


「負債記録です」


 ひなたは教卓の前で両手を叩いた。


「はい。言い合いはあと。今日は企画内容を決めます」


 教室の机を端へ寄せ、中央に大きな模造紙を広げている。


 文化祭まで、あと三週間。


 クラス企画の中心は、天道宗の演武と気の光を組み合わせた参加型展示に決まった。


 決まった、はずだった。


「まず、ハミンと藍羽の演武」


 ひなたが書く。


「次に護身術体験。ハヨンちゃんの装置で、動きに合わせて光を出す。ここまではいい?」


「オレと藍羽の勝敗がない」


「演武だから」


「勝敗のない戦いに意味があるのか?」


「戦いじゃなくて文化祭」


「私が勝つ形ならいい」


 藍羽が言った。


「それは駄目だ」


「じゃあハミンが負ける形」


「同じだろ!」


「演出上、最後にどちらかが決め技を出さないと締まりません」


 蓮が工程表を見ながら口を挟む。


「ほら、蓮も勝敗が要るって」


「決め技と勝敗は別です。両者が構えを解いて礼をするところで終わればいい」


「すっきりしない」


「文化祭へ判定環は持ち込みません」


 オレは先輩を見た。


「おまえなら分かるだろ」


「最後にオレが二人まとめて倒す」


「西能寺先輩は警備へ戻ってください」


「委員会枠は?」


 ひなたが模造紙へ書き足す。


「西能寺先輩は棒術の型。時任先輩は照明と進行。閑崎先輩は音と予算」


「わたくしの二つ目だけ職務の種類が違いませんか」


「一番大事です」


「水守さん。よくお分かりです」


 鈴華が少しだけ微笑んだ。


 選闘で勝った条件により、委員会はこの企画へ協力しなければならない。


 そのはずなのに、蓮は最初から三種類の工程表を作り、鈴華は予算を削りながら光る布の見本を持ってきた。先輩は自分の出番を増やそうとしている。


 命令だからやっている顔じゃない。


「なあ」


 オレは聞いた。


「おまえら、選闘の条件がなくても手伝ったか?」


 蓮がペンを止めた。


「安全審査としては関わりました」


「それは仕事だろ。企画を一緒に作ったかって」


「オレはやる」と先輩。


「ハミンが出るならな」


「私的理由を正式回答に混ぜないでください」


 蓮は少し考えた。


「体育祭の異常停止を調べるには、観測器のデータが必要です。協力した可能性は高い」


「わたくしも」


 鈴華が言う。


「ただし、選闘がなければ条件も役割も、相談して決めました」


「勝ったから早く決まったと思ったけど、勝ったせいで相談を飛ばしたのか」


「そういう面はあります」


 ひなたがうなずいた。


「次は、勝つ前に誘って」


「前にも言われた」


「覚えてるなら実行して」


「分かった」


 鈴華のほうを見る。


「条件、返せるか?」


「すでに企画へ着手したため、いま返しても参加した事実は消えません」


「これから先は?」


「わたくしたちが決められます」


「じゃあ返す」


「勝者権の自発放棄を確認します」


 鈴華は委員章を開き、台帳へ記した。


 赤い選択印が薄くなる。


 先輩が模造紙を引き寄せた。


「では改めて。オレは参加する」


「僕も。予定はもう作りました」


「わたくしも参加します。ここで抜けますと、予算が京一の自由になりますので」


「信用がない」


「実績があります」


 命令は消えた。


 誰も席を立たなかった。


 胸の中が少し軽くなる。


「よし。じゃあオレと藍羽の本気の一本を――」


「入れない」


 全員の声がそろった。


     *


 文化祭の舞台を仮組みする日、ひなたと委員会の三人が初めて天道宗道場へ来た。


 坂の途中の木造門。その上の『天道宗』と、横へ並ぶ派手な札を見上げ、先輩が腕を組む。


「怪しいな!」


「だろ?」


「そこで意気投合しないで!」


 門を開けた藍羽の声が、坂の下まで響いた。


「オレも最初に来た時、そう思った」


「いまは違うって言って!」


 ひなたが札と藍羽を見比べる。


「『掃除も修行』は?」


「それだけは本当」


「怪しくない道場の説明になってないよ」


 藍羽に追い立てられ、全員で門をくぐった。


 天道宗道場の演武場へ、文化祭の舞台を仮組みした。


 白い布を張った低い壇。


 左右にハヨンの位相観測器。


 鈴華が選んだ細い金の照明。


 蓮の操作卓。


 おっさんは道場の奥で腕を組み、場所を貸す代わりに朝晩の掃除を二倍にした。


「何で企画をやると掃除が増えるんだ」


「客へ見せる床は、普段より己が映る」


「光る装置で床は見えないぞ」


「ならば余計に磨け」


 理屈が強い。


 ひなたが舞台中央へ立つ。


「最初から通します。時任先輩、お願いします」


「照明一。音、待機。演者、位置へ」


 蓮が時計ではなく普通のストップウォッチを押した。


 オレと藍羽が向かい合う。


 互いに礼。


 今回は本気で倒す型じゃない。


 おっさんが組んだ、天道宗の対練型。攻撃する側と受ける側が決まっていて、技の形を見せながら進む。


 決まっている。


 なのに、藍羽の目が本気だ。


「勝手に変えるなよ」


「ハミンこそ」


 最初の掌打。


 右から。


 受けて流す。


 足払い。


 跳ぶ。


 藍羽が回り、長い濃紺の髪が青い線を描く。


 観測器が気を拾った。


 足元から水色の光が立ち上がる。


「きれい」


 舞台袖でひなたが小さく言った。


 オレの番。


 崑崙で最初に習う、足裏へ重心を落として次の一歩へ渡す基礎歩法――踏星(とうせい)から紅燕歩。


 藍羽の攻撃を外へ流し、小さな身体を軸に回る。


 赤い光が輪になる。


 青と赤が交差した。


 ここで、二人同時に止まる。


 決めた型はそうだった。


 藍羽の右拳が、予定より一センチ深い。


 オレは肩を引く。


 予定と違う。


 なら、返す。


 左足を踏み込み、藍羽の肘へ手を添える。


 藍羽も笑った。


 型が一つ増える。


「止めて!」


 ひなたの声。


 拳を鼻先で止めた。


 藍羽の足も、オレの膝の横で止まっている。


「いま二人とも、決めた動きじゃなかったよね」


「ちょっとだけ」


「一センチ」


「格闘で一センチは大きいの!」


「でも、光は今のほうが強かった」


 ハヨンが画面を指した。


 予定どおりの型より、予定を外れた二人の応答で波形が高くなっている。


「気が増えた?」


「量は同じ。同期率が上がった」


 藍羽がオレを見る。


「決められたとおりより、相手を見て動いたほうが合うってこと?」


「格闘なら当たり前だ」


「演武は観客がいるの。勝手に増やさない」


 ひなたは頭を抱えた。


 おっさんは髭を撫でている。


「型とは、同じ答えを出すためのものではない。同じ問いへ立つためのものじゃ」


「父さん、格好いいこと言って二人を甘やかさないで」


「藍羽も変えたであろう」


「……一センチだけ」


「ほら」


「ハミンは三センチ変えた」


「測ったのか?」


「見れば分かる」


「藍羽さんの視認誤差は〇・七センチ」


「ハヨンちゃんはどっちの味方?」


「データ」


「一番手強いやつだな」


 稽古を最初からやり直した。


 今度は完全に型どおり。


 光は出る。


 きれいだ。


 でも、さっきより薄い。


 蓮が工程表へ二つの数値を書いた。


「自由演武の部分を三十秒だけ作ります。残りは型どおり」


「一分」


「三十秒」


「間を取って四十五秒」


「交渉する前提で時間を増やさないでください」


「四十秒」


「三十五」


「決まり」


「こちらが譲った形ですが」


「決まったならいいだろ」


 蓮はため息をつき、工程表を直した。


     *


 問題は、光だけではなかった。


 文化祭の舞台には音が要る。


 鈴華の鈴を使う案は、幻惑の危険があるため出力を下げることになった。普通の楽器も入れようとしたが、クラスに演奏できるやつが少ない。


「鼻歌でいい」


 オレが言った。


「よくない」


 ひなたが言った。


「楽器がなくても鳴るぞ」


「文化祭で聞かせられる鼻歌か、いま歌って」


「んー」


「却下」


「まだ一音だ!」


「一音で分かった」


 ハヨンが観測器を調整しながら顔を上げる。


「もう一回」


「ひなたは却下って」


「音程じゃなく波形」


「オレの鼻歌を音楽として見てないな?」


「歌だと思ってたの?」


 ひどい妹だ。


 オレは息を吸い、いつもの長さで吐いた。


 ん――。


 透明な輪の中で、赤い光が揺れた。


 低い音へ重なるように、床下から別の音が返る。


 照明が一度明滅した。


「待って」


 ハヨンが画面へ近づく。


「位相固定面に微小な発光」


「分かる言葉で」


「フレア」


「炎?」


「太陽のフレアに近い局所噴出。熱はない。お兄ちゃんの呼吸へ、装置が共鳴してる」


 藍羽がオレの横へ来た。


「私もやる」


「歌えるのか?」


「ハミンよりは」


「勝負するか」


「鼻歌で?」


「オレは何でも勝負にするぞ」


 二人で同じ音を鳴らした。


 藍羽の音は少し高い。


 合ってはいない。


 けれど、二本の光が赤と青に分かれ、途中で触れる。


 触れたところから金色の粒が散った。


「きれい……」


 ひなたが今度は大きな声で言った。


「これなら企画になる」


 先輩が舞台へ上がってくる。


「オレも」


「西能寺先輩、音程は」


「気合で合わせる」


「不安しかない答え」


 先輩が低い音を足した。


 まったく合わない。


 光は三色に分かれ、ばらばらに跳ねた。


 でも消えない。


 蓮は操作卓から控えめな声を重ねた。


 鈴華が小さく鈴を鳴らす。


 ひなたも笑いながら一音入れた。


 ハヨンだけ口を閉じている。


「おまえも」


「私は計測中」


「口は空いてる」


「音程に自信がない」


「いまさら全員ない」


「お兄ちゃんは特にない」


「なら入れ」


 ハヨンは眼鏡を押し上げた。


 ほんの少しだけ音を出す。


 七人ぶん。


 ばらばらの鼻歌。


 光は一つにまとまらなかった。


 赤、青、黄、白、緑。


 違うまま触れ、金色の粒を舞台いっぱいへ散らす。


「これだ」


 藍羽が言った。


「企画の名前」


「鼻歌七人衆?」


「絶対に嫌」


 ひなたが即答する。


「ハミンの鼻歌で、フレアが出る。みんなが触れ合って光る」


 藍羽は模造紙の端へ文字を書いた。


 はみんぐ・ふれあ。


「最後の『い』がない」


 ひなたが指摘する。


「フレアともかけてるから」


「ハミンも入ってる」


 先輩が得意そうに言う。


「おまえが考えたみたいに言うな」


「ハミン、ハミング、触れ合い、フレア。四つだ」


「本当に四つ入ってる」


 蓮が文字を見た。


「検索しても同名企画はありません。日程表へ入れます」


「決めるの早くない?」


「決まった時に入れないと、あとで重複します」


 鈴華も予算書へ書く。


「《はみんぐ・ふれあ》光響演武。装飾費は現行案を流用できます」


「鈴華まで」


 ハヨンが画面へ名称を入力した。


「データ名が必要」


「おまえも気に入ってるだろ」


「識別できれば何でもいい」


 赤いリボンの端が少し揺れている。


 気に入った時の動きだ。


「決まりだな」


 オレは模造紙を持ち上げた。


 ひらがなの名前。


 強そうではない。


 でも、悪くない。


     *


 舞台の台詞を入れることになった。


「演武だけだと、何をしているか分からない人もいます」


 蓮が台本を作った。


「最初に天道宗の説明。如月さんとハミンが型の意味を話す。西能寺先輩は棒術前に安全距離を説明。閑崎先輩が参加者へ鼻歌の合図」


「オレの台詞は?」


「『危険ですので線の内側へ入らないでください』」


 先輩は台本を見た。


「もっと格好いいのを」


「必要な説明です」


「『この棒が届く範囲は、オレの世界だ』」


「線の内側へ入りたくなるので却下」


「『ハミン、オレの人生の内側へ――』」


「何の説明だよ」


「重要な台詞」


「入れません」


 蓮が赤線で消した。


 本番を想定した通し稽古。


 ひなたとクラスの十人が観客役として座る。


 オレと藍羽の演武。


 先輩の棒術。


 鈴華の鈴。


 最後に全員の鼻歌。


 順調だった。


 問題は先輩の台詞だけ。


「危険ですので、線の内側へ入らないでください」


 台本どおり言う。


 棒を一回転させ、背へ収める。


「ただしハミン。おまえだけはいつでもオレの人生へ入ってきてくれ!」


 客席が静かになった。


 ひなたが台本を見る。


「そんな台詞、ないです」


「アドリブだ」


「客席全員へ向かって言いましたよ」


 先輩の顔が止まる。


 観客役の男子が手を挙げた。


「先輩、僕でもいいですか?」


「違う! ハミンへ言った!」


「女子全員が勘違いしてます」


「オレは一人だけだ!」


「それを先に言ってください」


 オレは舞台中央で笑った。


「先輩、人気者だな」


「笑ってないで返事を」


「オレの人生の外側へ出るな、って意味か?」


「逆だ!」


 藍羽が木剣の鞘で先輩を舞台袖へ押す。


「進行の邪魔。告白は自分の時間でやって」


「如月、いま大事なところだ」


「時任先輩」


「西能寺先輩の台詞をマイクから切ります」


 蓮が音量をゼロへした。


 先輩の口だけが動く。


 鈴華は採点表へ書いた。


「演武九十点。安全説明七十点。私的発言、予算外」


「点数の種類がおかしい!」


 マイクが戻った。


「はい、次」


 ひなたの手拍子で、最後の鼻歌へ移る。


 観客役へ、自分の好きな一音を出してもらう。


 最初は恥ずかしそうだった。


「何でもいい」


 オレが言う。


「合ってなくても光る」


「ハミンの音が基準なら、全員合ってなくても大丈夫」


 藍羽が余計なことを言う。


「オレは合ってる」


「何に?」


「オレに」


 ひなたが笑って、一音を出した。


 それに続く。


 全員の音が重なる。


 観測器の輪が光った。


 命令して同じ音を出させた時より、自分で選んだばらばらの音のほうが強い。


 金の粒が舞う。


 照明が消えた。


 いや。


 照明だけじゃない。


 窓の外で、木の葉が止まった。


 舞台袖から落ちかけた台本が、空中で止まっている。


 客席のクラスメイトは動ける。


 オレも、藍羽も、委員会も、ハヨンも、ひなたも。


 誰も挑戦していない。


 鐘も鳴っていない。


 選塔へ移されてもいない。


「正式選闘じゃない」


 蓮が時計を見た。


 秒針が止まっている。


「全員、声を止めないで!」


 ハヨンが叫ぶ。


「止めると固定へ引かれる」


 鼻歌を続ける。


 喉が震える。


 演武場の壁が薄くなる。


 向こう側に、白い床が見えた。


 雲上闘技場。


 その空には、逆さの星環学園が浮かんでいる。


 窓が何百もある。


 全部の窓辺へ、止まった生徒が立っていた。


 こちらを向いている。


 目だけがない。


「あれ、何」


 ひなたの鼻歌が震えた。


「見るな。音を続けろ」


 オレはひなたの前へ立った。


 逆さの校舎が近づく。


 観測器の赤い線が、一本ずつ白くなる。


 その時、道場の引き戸が開いた。


「随分と大がかりなリハーサルだね」


 目黒教授が入ってきた。


 教授が眼鏡を押し上げる。


 赤いペンで、空中へ一本の線を引いた。


 見えた気がした。


 逆さの校舎へ赤線が走る。


 景色が閉じる。


 台本が床へ落ちた。


 木の葉が動き出す。


 時計の秒針が一秒進んだ。


 客席から、全員の息が一度に漏れる。


「目黒教授」


「共鳴装置が選塔の基準音を拾ったようだ」


 教授はハヨンの画面を見た。


「心配はいらない。装置同士の干渉だ。いま切った」


「どうやって?」


 ハヨンが聞く。


「顧問権限で古い観測設備を休止した」


「赤い線が見えた」


 オレが言う。


「非常停止表示だろう。緊張時の知覚は、意味のある形へ情報を補う」


 いつもの教師の答え。


 正しいかもしれない。


「教授」


 蓮が時計を見せた。


「外部時間の経過は一秒未満です。選闘開始記録もありません」


「なら、選闘ではない。文化祭までに安全域を設定しよう」


 目黒教授は、ひなたたち普通の生徒を見回した。


「怖い思いをさせたね」


「……はい」


 ひなたが正直に答えた。


「それでも企画を続けたいかな?」


 ひなたは模造紙を見た。


 《はみんぐ・ふれあ》。


「安全にできるなら」


「できるようにするのが、教師と委員会の仕事だ」


 目黒教授は笑った。


 先輩が胸を張る。


「任せろ」


「西能寺先輩は、まず勝手な台詞をやめてください」


「そこからか?」


 演武場に笑いが戻る。


 ハヨンだけは画面を見たままだった。


 白くなった波形の間へ、金色の細い線が残っている。


「どうした」


「みんなの呼吸が違うほど、固定が弱くなった」


「同じ音を出したほうが強そうなのに」


「装置の出力は同じ。でも選塔の波だけ下がってる」


「使えるか?」


「何に?」


「また止まった時」


 ハヨンはデータを保存した。


「まだ分からない」


「じゃあ残しとけ」


「言われなくても」


 保存名が画面へ出る。


 HF―001。


「何の略だ」


「はみんぐ・ふれあ」


「気に入ってるじゃねえか」


「識別名」


「顔が嬉しそうだぞ」


「お兄ちゃんの観察精度は信用しない」


 赤いリボンへ触れる。


 やっぱり気に入っている。


     *


 その日の夕方、校門前へ企画の看板を立てた。


 ひなたが描いた丸い文字。


 藍羽の青い光。


 オレの赤い編み髪。


 先輩の棒。


 蓮の時計。


 鈴華の鈴。


 端に、眼鏡を押し上げるハヨン。


「私まで描いたの?」


「裏方も企画の一員」


 ひなたが答えた。


「研究協力員は学校の一員ではない」


「文化祭を一緒に作る人は一員」


 ハヨンは看板をしばらく見ていた。


「統計的根拠がない」


「そこは気持ち」


「非定量」


「たまにはいいでしょ」


 ハヨンは反論しなかった。


 オレは看板の上へ手を置く。


「いい名前だ」


 藍羽が隣でうなずく。


「私がつけたから」


「オレの名前が元だぞ」


「鼻歌は下手だけど」


「光ったからいい」


 校舎の窓へ夕日が当たる。


 七人の看板が、ガラスへ反射した。


 その奥へ、長い黒髪の女が一瞬だけ立った。


 振り向く。


 誰もいない。


 鈴華の鈴が、風もないのに小さく鳴った。

エンディングテーマ「たいようは約束」

https://youtu.be/vCsi3UhBpp8

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