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臨機応変の俺と猪突猛進の親友、医食同源の少女と世界を旅する ~四字熟語を背負う者たちの腹ぺこ放浪記~  作者: 凡夫 成


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27/47

27話 人馬一体

【前書き】


四字熟語が真名になる世界。


臨機応変のリン、猪突猛進のシン、医食同源のイオに加え、一騎当千のカズキも旅に参加。


新章は、命令で人を縛る四天王・絶対服従との戦いです。


バトルあり、料理あり、馬あり、たまに昼行灯あり。


よろしくお願いします。


 夜明け道の谷に、蹄の音が響いた。


 一頭ではない。


 二頭でもない。


 規則正しく、乱れなく、同じ歩幅で迫ってくる。


 朱羽軍の騎馬隊だった。


 赤い鎧。


 赤い旗。


 背に焼きついた赤い羽根。


 その先頭に、朱い装甲をまとった馬に乗る騎士がいた。


 騎士と馬の背には、同じ赤い羽根の印。


 その四文字は、赤く燃えるように浮かんでいる。


 人馬一体。


 リンは谷の入口を見据えた。


 夜明け道は狭い。


 左右は岩壁。


 奥には古い石灯籠。


 行灯の小さな火が、足元だけを照らしている。


 朱雀の塔からの鐘は届きにくい。


 それでも、人馬一体の騎馬隊は迷わずこちらへ進んでくる。


「来たな」


 シンが鉄棒を肩に担ぐ。


「数、多くねえか」


「多い」


 リンは短く答えた。


「でも広がれない。この谷なら、隊列を崩せる」


 イオは薬草袋を抱え、ハヤテの横に立っていた。


 黒馬ハヤテの背には、まだ赤い羽根の印が残っている。


 昨日より熱は引いている。


 イオの薬草油が効いていた。


 だが、完全には消えていない。


 強い命令が届けば、また焼けるように光るはずだ。


 カズキはハヤテの首筋に手を置いていた。


「無理はするな」


 ハヤテが鼻を鳴らす。


 その音を聞いて、カズキは少しだけ目を細めた。


「……分かってる。お前が苛立っているのは」


 シンが横から聞く。


「今の鼻で分かるのか」


「分かる」


「すげえな」


「ハヤテだからな」


 人馬一体の騎士が、谷の入口で馬を止めた。


 後ろの騎馬隊も同時に止まる。


 まるで一つの影のようだった。


 騎士は槍を立て、冷たい声で言った。


「一騎当千。女王陛下の軍馬を返せ」


 カズキが一歩前へ出る。


「ハヤテは軍馬じゃない」


「背に朱雀の印がある」


「焼きつけただけだ」


「印は役目を与える。役目なき馬は獣。役目なき騎手は徒歩の兵にすぎぬ」


 人馬一体は、ハヤテを見た。


「その馬は朱雀の軍馬として完成する。お前に従うより、女王陛下に従う方が正しい」


 カズキの手が槍を握る。


「ハヤテは、誰にも従って走っていたわけじゃない」


「ならば欠陥だ」


「違う」


 カズキの声が低くなる。


「俺たちは、互いに選んで走っていた」


 人馬一体の背の四文字が強く光った。


「騎手と馬に、二つの意志など不要」


 彼は槍をこちらへ向ける。


「人馬一体とは、命令の完成である」


 カズキが睨み返す。


「命令で一つにしたものを、一騎とは呼ばない」


 その言葉を合図に、騎馬隊が動いた。


 狭い谷道を、先頭の人馬一体が駆ける。


 後ろの騎馬兵たちも続く。


 蹄の音が重なる。


 揃いすぎている。


 美しいほどに。


 だが、カズキは顔を歪めた。


「あれは違う」


「何が?」


 リンが問う。


「馬が息をしていない」


 人馬一体の槍が迫る。


 シンが前へ出た。


「まず俺が止める!」


「傷つけるな!」


 カズキが叫ぶ。


「分かってる!」


 シンは鉄棒を横に構え、人馬一体の槍を受けた。


 金属音が谷に跳ねる。


 馬の速度。


 騎士の力。


 命令で一つにされた突撃。


 そのすべてが重かった。


「ぐっ……!」


 シンの足が滑る。


 岩の床に靴跡が残る。


「重っ!」


「横へ流して!」


 リンが叫ぶ。


「どっちだ!」


「岩壁じゃない方!」


「分かった!」


 シンは鉄棒の角度を変え、突撃の力を少し横へ逃がした。


 人馬一体はそのまま進路を変える。


 馬の首が強引に引かれる。


 その動きを見て、カズキの目が鋭くなった。


「やめろ」


 カズキが飛び込む。


 槍で人馬一体の槍を受け流す。


 徒歩のカズキと、騎馬の人馬一体。


 まともにぶつかれば不利だ。


 だが、カズキは馬の足元を見ていた。


「右へ行きたがっている」


 人馬一体の目が動く。


「何?」


「お前の馬だ。今、右へ逃げたがった」


「馬に判断は不要」


 赤い羽根が光る。


 朱い装甲の馬の首が、無理やり正面へ戻される。


 カズキの顔が怒りで歪んだ。


「痛むぞ、その曲げ方は」


「痛みは命令の妨げになる」


「ふざけるな」


 イオが後ろで薬草袋を握る。


「リン、煙を使う?」


「まだ。後続が詰まった時に」


「分かった」


 どんちゃんは石灯籠の横に座り、行灯を持っていた。


 昼行灯の三文字が、ぼんやりと光っている。


 その光の中では、赤い命令の線が薄く見えた。


 騎士から馬へ流れる命令。


 騎士から後続へ流れる命令。


 すべてが赤い糸のように張り巡らされている。


「リン」


 どんちゃんが言う。


「足元、ちょっと赤いよ」


「見えてる」


 リンは短剣を抜いた。


「シン、もう一度受ける。今度は押し返さないで、止めて」


「止めるだけか?」


「そう。止めるだけ」


「最近それ多いな!」


「できるだろ!」


「できる!」


 シンは鉄棒を地面に突き立て、再び人馬一体の突進を受けた。


 今度は押し返さない。


 進まない。


 退かない。


 その場で止める。


 朱雀編に入ってから、シンが覚え始めた戦い方だった。


「ぐおおおっ!」


 シンの腕が震える。


 人馬一体の騎士が冷たく言う。


「猪突猛進が止まるか。滑稽だな」


 シンが歯を見せる。


「止まる時も、俺が決めるんだよ!」


 その瞬間、リンが床へ短剣を突き立てた。


 赤い命令の線が一本、切れる。


 後続の騎馬隊がわずかに詰まった。


「イオ、今!」


「うん!」


 イオが薬草布を行灯の火にかざした。


 白い煙が谷に流れる。


 馬は驚かない。


 しかし、騎手たちが咳き込む。


 命令の声が乱れる。


 後続の騎馬隊の足並みが崩れた。


「乱れた!」


 リンが叫ぶ。


「カズキ!」


「分かっている!」


 カズキは人馬一体へ踏み込んだ。


 槍を振るう。


 狙ったのは騎士ではない。


 馬の装甲を固定する留め具。


 金具が弾け、朱い装甲が少しずれた。


 馬の首がわずかに自由になる。


 朱い装甲の馬が、大きく息をした。


 その瞬間を、カズキは見逃さなかった。


「ほらな」


 低く言う。


「馬は、息をしたがってる」


 人馬一体の顔が歪む。


「余計な意志だ」


「必要な意志だ」


 人馬一体が赤い羽根を強く光らせる。


 馬の首を再び縛る。


 後続の騎馬隊も立て直されていく。


 命令で乱れを消していく。


 リンは舌打ちした。


「戻りが早い」


「騎手を止める?」


 イオが聞く。


「止めたい。でも馬を巻き込めない」


 その時、朱羽軍の奥から鈴の音が響いた。


 ちりん。


 唯命是従だ。


 遠く、谷の入口に赤い法衣の男が立っている。


 彼の口から、朱雀女王の声が響いた。


「戻りなさい」


 ハヤテの背の赤い羽根が燃えた。


 黒馬が苦しそうに首を振る。


「ハヤテ!」


 カズキが振り返る。


 ハヤテの目から光が揺らぐ。


 命令が届いている。


 イオがすぐに薬草油を持って走った。


「押さえないで、声をかけて!」


「ハヤテ、俺を見ろ!」


 カズキが叫ぶ。


 ハヤテはカズキを見る。


 だが、赤い羽根がさらに強く光った。


 唯命是従の鈴が鳴る。


 ちりん。


「女王のもとへ」


 ハヤテが一歩、朱羽軍の方へ進んだ。


 カズキの顔が凍る。


 さらに一歩。


 ハヤテは苦しんでいる。


 戻りたいわけではない。


 だが、体が命令に引っ張られている。


「ハヤテ!」


 カズキが駆け寄る。


 人馬一体がその隙を逃さなかった。


「欠陥の相棒ごっこは終わりだ」


 騎士が槍を構え、カズキの背後へ突っ込む。


 シンが叫ぶ。


「後ろ!」


 リンが走る。


 間に合わない。


 カズキはハヤテへ手を伸ばしている。


 背後から人馬一体の槍が迫る。


 その時。


 ハヤテが止まった。


 赤い羽根が燃えている。


 命令はまだ続いている。


 それでも、黒馬は止まった。


 そして、カズキの方へ振り返った。


 人馬一体の槍が迫る。


 ハヤテはカズキの前に出た。


「ハヤテ!」


 カズキが叫ぶ。


 黒馬は人馬一体の突撃を正面から受けるのではなく、半歩だけ横へ動いた。


 人馬一体の馬の進路を、ほんの少しだけずらす。


 槍はカズキの肩をかすめ、岩壁に突き刺さった。


 火花が散る。


 カズキは息を呑んだ。


 ハヤテが、彼を守った。


 命令に逆らって。


 自分で選んで。


 人馬一体の顔が怒りに歪む。


「軍馬が、命令に逆らうか」


 ハヤテはその声を無視した。


 そして、カズキの前で背を向けた。


 カズキは固まる。


「……ハヤテ?」


 ハヤテが蹄で地面を打つ。


 一度。


 強く。


 乗れ。


 言葉はない。


 だが、カズキには分かった。


 分かってしまった。


「まだ無理だ」


 カズキは呟く。


 ハヤテがもう一度、蹄を打つ。


 赤い羽根が背で光る。


 熱はある。


 痛みもある。


 それでも、ハヤテは背を向けたまま動かない。


 カズキを待っている。


 シンが叫ぶ。


「乗れって言ってんじゃねえのか!」


「分かっている!」


 カズキの声が震えた。


「だから、怖いんだ!」


 一瞬、谷が静かになった。


 カズキはハヤテの背を見る。


 赤い羽根の印。


 まだ消えない命令。


 乗れば、ハヤテに負担がかかるかもしれない。


 また女王の命令が暴れるかもしれない。


 だが。


 ハヤテが選んだ。


 自分で、カズキを乗せることを選んだ。


 イオが静かに言った。


「カズキ」


「何だ」


「薬は塗った。熱は少し抑えてる。でも、無理かどうかは、私じゃ分からない」


 イオはハヤテを見る。


「ハヤテが決めてる」


 リンも言った。


「カズキ。命令じゃない」


 カズキは目を閉じる。


 そして、ゆっくり頷いた。


「そうだな」


 彼は槍を握り直した。


「お前が、そう選ぶなら」


 カズキはハヤテの背へ手をかけた。


 赤い羽根が燃える。


 朱雀女王の命令が引き戻そうとする。


 唯命是従の鈴が激しく鳴る。


 ちりん、ちりん、ちりん。


「戻りなさい」


 女王の声が響く。


「従いなさい」


 ハヤテの体が震える。


 カズキの手も震える。


 それでも、彼は乗った。


 黒馬の背に、カズキが戻った。


 その瞬間。


 一騎当千の四文字が、眩い光を放った。


 カズキの背から、ハヤテの体へ。


 ハヤテの蹄から、谷の床へ。


 光が駆け抜ける。


 赤い羽根の印が、その光に呑まれていく。


 ハヤテが大きく嘶いた。


 赤い羽根にひびが入る。


 朱雀の命令が、黒馬の背から剥がれていく。


 ぱきん、と澄んだ音がした。


 赤い羽根の印が砕けた。


 朱雀女王の声が途切れる。


 唯命是従の鈴が一瞬、鳴り損ねた。


 人馬一体が目を見開く。


「馬が……命令を破った?」


 カズキはハヤテの背で、静かに息を吐いた。


 彼の手は、手綱を強く引いていない。


 命じていない。


 ただ、ハヤテの首筋に軽く触れている。


「戻ったな」


 ハヤテが鼻を鳴らす。


 カズキの目が鋭くなる。


「ああ」


 そして、彼は槍を構えた。


「俺たちは、一騎だ」


 一騎当千の光が谷を満たした。


 シンが口を開ける。


「おお……!」


 イオが小さく笑う。


「戻った」


 リンはその光を見て、胸の奥が熱くなった。


 一人ではない。


 命令で一つにされたわけでもない。


 二つの意志が選び合い、一つの騎になる。


 それが、一騎当千。


 人馬一体は槍を構え直した。


「不完全な情で、軍勢に勝てると思うな!」


 彼が突撃する。


 後続の騎馬隊も続く。


 さらに歩兵隊も谷の入口に集まっていた。


 朱羽軍の赤い影が、谷を埋めようとしている。


 カズキはハヤテの耳元で低く言った。


「行くぞ」


 ハヤテが一度、蹄を鳴らした。


 次の瞬間、黒い風が走った。


 速い。


 それまでとは別物だった。


 谷の狭さなど関係ない。


 ハヤテは岩壁ぎりぎりを駆け、カズキの槍はその動きに合わせて流れる。


 一頭の蹄音のはずだった。


 だが、谷に響いたのは、千の軍勢が駆けるような音だった。


 一騎にして、千に当たる。


 カズキの槍が横へ払われる。


 刃は一つ。


 しかし、その軌跡は幾重にも広がった。


 朱羽軍の盾が弾ける。


 槍が飛ぶ。


 赤い陣形の線が裂ける。


 兵は斬らない。


 馬も傷つけない。


 ただ、命令で作られた隊列だけを壊していく。


「一騎当千――」


 カズキの声が谷に響く。


「千陣裂き!」


 黒い馬影が、朱羽軍の中央を駆け抜けた。


 赤い旗が裂ける。


 命令の線が切れる。


 騎馬隊が乱れる。


 兵たちは倒れたが、血は流れていない。


 武器だけが地面に散らばる。


 人馬一体の馬が怯えたように足を止めた。


 いや、怯えではない。


 初めて、自分で止まった。


 人馬一体が怒鳴る。


「進め!」


 馬は動かない。


「進めと言っている!」


 赤い羽根が光る。


 だが、先ほどカズキが外した装甲の隙間から、命令の光が漏れている。


 馬は首を振った。


 自分で、拒んだ。


 人馬一体の顔が歪む。


「馬が……逆らうな!」


 カズキとハヤテが、その前に戻ってくる。


 黒馬は息を荒げているが、目は澄んでいた。


 カズキも笑ってはいない。


 ただ、静かに人馬一体を見下ろした。


「聞こえただろ」


「何がだ」


「お前の馬の声だ」


 人馬一体は槍を構えようとした。


 だが、ハヤテが半歩動く。


 カズキの槍がその動きに合わせて伸び、人馬一体の槍を弾き飛ばした。


 さらにハヤテが横を抜ける。


 カズキの槍の柄が、騎士の胸を打つ。


 人馬一体は馬上から落ちた。


 地面に倒れる。


 朱い装甲の馬は、逃げなかった。


 ただ、その場で立っていた。


 人馬一体は起き上がろうとする。


「馬は……命じられて……」


 カズキは槍を向けた。


「違う」


 ハヤテが静かに鼻を鳴らす。


「馬は走る。騎手はその背を借りる」


 カズキは言った。


「二つあるから、一騎になる」


 人馬一体の背の赤い羽根が弱まる。


 完全に消えたわけではない。


 だが、その四文字の光は明らかに揺れていた。


 唯命是従の鈴が遠くで鳴る。


 ちりん。


 だが、朱羽軍はすぐには動けなかった。


 騎馬隊の陣形は裂かれ、歩兵の盾は飛び、命令の線もいくつも切れている。


 リンは叫んだ。


「今のうちに下がる!」


 シンが不満そうに言う。


「勝ったんじゃねえのか?」


「人馬一体は崩した。でも朱羽軍全部を相手にするにはまだ早い!」


「よし、次に殴るために下がる!」


「それでいい!」


 イオがカズキとハヤテに駆け寄る。


「ハヤテ、大丈夫!?」


 カズキはハヤテの首筋に触れた。


「少し疲れている。でも、大丈夫だ」


「本当に?」


「ハヤテがそう言っている」


 イオはハヤテの目を見る。


 そして、小さく頷いた。


「うん。たぶん、言ってる」


 シンが驚く。


「分かるのかよ」


「少し」


「俺だけ分かんねえのか」


 どんちゃんが眠そうに笑った。


「いい返事だったねえ」


「お前も分かるのかよ!」


 カズキはハヤテの背から降りなかった。


 もう乗っている。


 だが、支配しているようには見えない。


 ハヤテも、背負わされているようには見えない。


 一人と一頭。


 それで一騎。


 リンはその姿を見て、静かに息を吐いた。


 命令ではなく、選び合うこと。


 朱雀女王がもっとも嫌うものが、今ここに形になっている。


 朱羽軍の奥で、唯命是従がこちらを見ていた。


 その口から、女王の声が漏れる。


「一騎当千」


 声は、初めてわずかに冷たかった。


「自由に走る馬は、美しいですね」


 カズキは塔の方を見た。


「見る目はあるな」


 女王の声が続く。


「だからこそ、従わせる価値があります」


 カズキの表情が消えた。


「次にハヤテへ命令したら」


 彼は槍を握る。


「その声ごと裂く」


 沈黙。


 やがて、女王の声が遠のく。


「迷い子たち。まだ、夜明けには遠いですよ」


 鈴の音が鳴り、朱羽軍は一度後退した。


 人馬一体は兵に支えられながら下がっていく。


 その馬は、最後までカズキとハヤテを見ていた。


 命令ではない何かを、初めて知ったように。


 谷に静けさが戻る。


 シンは鉄棒を肩に担ぎ、大きく笑った。


「すげえな、一騎当千!」


 カズキは少しだけ口元を緩める。


「当然だ」


「広すぎだろ、攻撃範囲!」


「一騎で千に当たるからな」


「俺もそういうの欲しい」


「猪突猛進で十分だろ」


「もっと広く突っ込みてえ」


「壊れるからやめて」


 イオが即座に言った。


 リンは笑いながら、ハヤテの背を見た。


 赤い羽根の印はもうない。


 砕けた跡が、薄く残っているだけだった。


「ハヤテは自由になった」


 リンが言う。


 イオは頷く。


「でも、町の人たちや兵の印はまだ残ってる」


「ああ」


 リンは朱雀の塔の方を見た。


「次は、あの命令を町から外す」


 シンが鉄棒を握る。


「一進一退は俺がやる」


「まだ根に持ってる?」


「めちゃくちゃ持ってる」


 カズキがハヤテの首を撫でる。


「俺たちも行く」


 その言葉には、もう迷いがなかった。


 ハヤテが鼻を鳴らす。


 シンがすぐに聞く。


「今のは何て?」


 カズキが答える。


「当然だ、だ」


「本当かよ」


 イオが笑う。


「たぶん、本当」


 どんちゃんが行灯を持ち上げた。


「じゃあ、足元を照らそうかねえ」


 リンは頷いた。


 夜明け道の小さな灯。


 その先に、赤い塔がある。


 朱雀女王はまだ倒れていない。


 絶対服従の命令も、まだ町を縛っている。


 だが、一つの一騎が戻った。


 命令ではなく、選び合って走る力。


 一騎当千。


 黒馬ハヤテが、谷の朝風の中で静かに立っている。


 その背に乗るカズキの四文字は、もう揺れていなかった。

【後書き】


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


弱肉強食を越えた一行は、次なる四天王・絶対服従の領域へ。


命令に従えば楽になる。

けれど、本当に大切なのは、自分で選ぶこと。


リンたちの旅は、少しずつ世界の核心へ近づいていきます。


感想・評価・ブックマークなどいただけると、とても励みになります。

次回も、腹ぺこ一行の旅にお付き合いください。

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