ノック
――トン……トン
「うるせぇ! ババアッ! 必要な時以外、呼ぶなつってんだろっ!」
たくよ。
あれだけ言ってるのに分かりもしねー。
また、ぶん殴るか?
あー、ムカつく。
誰のせいで、部屋に引きこもるようになったってんだよ。
死ね、カス。
「って、まだ2時か夜はこれからだっての。あ〜、しょんべん……ふぅ」
ペットボトルもそろそろ溜まったし……まぁ、明日にでも外に出しておけば勝手に片付けんだろ。
「さて、ゲームの続きでもすっか。んで、寝て、またゲーム……はは……」
クソクソ――クソッ!
なんで俺がこんな目にあわなきゃ行けねーんだよ。
何年だ? 五年? 十年?
ずっと部屋に引きこもりっぱなし。
クソみてーに散らかった部屋。
足の踏み場もありゃしない。
「だめだ! さっきのノックでむしゃくしゃする」
頭痒いしよ。
はぁ……寝よ。
――――
――――トントン……和樹
「ちっ! またかよ! なんなんだよ! 何回言えば分かんだよ。クソババア!」
うるせー親父が死んだと思ったら、これかよ。
母親は母親やらしく、飯だけ作ってろ。
んで、親父の生命保険で金入ったんだろ? だったら、それで俺を養えっての。
「体、くそ痒い!」
痛ぇ。
皮むけたわ。
爪にめっちゃくっついてるな。
あー、それを取るのすらめんどくせー。
しかも、おぇ……やべー臭い……。
「腹減ったわ……って、まだ2時じゃねーか」
しかし、腹減った。
ポテチでも食って今日こそは朝までゲームだ。
――――
――――和樹……トン……トン……出てきて
「あ? マジでいい加減にしろよ? 殺すぞ? おい! 聞いてんの……か」
あれ? 待てよ……?
母親の声ってあんなんだったっけ?
声、違くね?
なんかもう少し高かったような……。
いや、気のせいか。
もう、何年もまともに喋ってねーから、忘れっちまっただけだ。
「あ……え? また2時?」
いつもこの時間……。
夜中だぞ?
あいつ、起きてる……?
今までこんなことなかったよな?
「ノック……本当に」
だめだ、考えるな。
俺の気のせいだ。
あー、なんか背中寒い……なんか、え? 後ろに……。
「気のせいか……」
あるのは散乱したゴミと、尿の詰められたペットボトル、それと、黄ばんだ壁。
それが、モニターの光で青く光ってるだけ。
なんもねーわ。
俺、ビビりすぎ。
「はは……忘れよ」
――――
――――和樹……ねぇ……和樹……トントントン……
「ちっ! また来やがった。うるせ……え。あれ?」
声、昨日と違がくね?
おかしい。
絶対におかしいだろ。
昨日は確か、掠れたように低かったけど、今日は野太い男のような声。
親父、死んだからそんなのありえねえわ。
母親以外に誰かいるのか?
「おい! そこにいるのは誰だ!」
返事……ねぇ。
マジ……なんなんだよ。
――――
――――出てきて……トン……トン……トン
「お前……っ!」
やっぱり……違う。
昨日とも違う。
声……今日、高い。
絶対に外に出ちゃだめだ。
分かるんだ。俺には……なんでだろう。
――――
――――トン……早く……おいでよ……トントン
辞めろ……。
扉をノックするな。
誰……なんだよ。
ああ、分かってる。
外に出るのを待ってるんだろ?
俺は絶対に出ないからな。
なにがあっても、お前の思い通りにならない。
「死ね死ね死ね……くそ! 死ね」
ふざけんな。
なんで俺がこんな目に。
――――
――トントントン……ねぇ? まだ?
無視だ無視。
俺が外に出なければ、奴は入ってこれない。
こっちはずっと引きこもりしてるんだわ。
お前の手にはならねーからよ。
「消えろ……カス……」
――――
――トントントントントントントントントン
くそ……マジなんなんだよ。
辞めてくれ。
――トン……トン……トントントントン
嫌だ……俺は出ないからな。
――トントントン……ねぇ……いるんでしょ……
…………。
怖い。
――トントントン……ドンッ!
怖い、やだ……来ないで。
ドンドン――ドンッ!
ひっ!
くるな……くるなくるなくるなくるな。
――――…………。
あれ? 今日はノックの音がしないぞ……。
諦めたのか?
ドアに耳を当てたけど……なにもない。
「はぁ〜。やっと諦めたか……俺の勝ち! ざまぁっ!」
ははは! なんか知らねーけど、引きこもり舐めんなよ。
馬鹿めっ! 二度と来るんじゃねーよ!
死ね! 死ね! はははっ!
「さてと……これで安心してゲームが……あ……」
"お前達"誰?
なんで部屋の中に……。
あ……真っ暗。
――――
「えぇ。このたびはご利用ありがとうございます」
軽快な声で、男が電話越しに話している。
「もちろんですよ。息子さんは二度と戻ってこないですよ。あ、はい。いえいえ、こちらこそ喜んでいただけてありがとうございます」
弾むよな声で受話器の向こう側の人物と話している。
椅子に座りながら、受話器のコードを指先にくるくると巻きながら話すそいつの顔は、声は楽しそうだが表情は能面のように感情がなかった。
「依頼料も多目にいただいて。はい。またのご利用お待ちしております」
そう言って、ゆっくり受話器置くとその口元が酷く吊り上がる。




