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シャワー

 「――んっ!」

 後ろを振り返るけどそこには誰もいない。

 「はぁ〜、よかった」

 テレビでやってたホラー番組を見てから、シャワーを浴びてると後ろが気になってしょうがないんだ。


 壁があるのに、誰か立ってる気配を感じるし。

 なんか、見られてるような気配もする。


 ――怖いよ。

 でも、後ろ気になっちゃうんだよ。

 だから、全部洗い流した後に必ず振り向いて確認するけど、今のところ全てが杞憂に終わってほっとする。

 今日もお風呂をさっとすませてしまうことにした。


  ――――

 

 「シャワーを浴びてる時に、後ろに気配を感じたら前にいるらしいよ」

 小学校でシャワーの話を友達にしてみたら、そんな言葉が返ってきた。

 たかしくんは、凄く物知りで僕の親友のような存在だけど、今回はさすがに恨んだよ。


 話すんじゃなかったと思ったが、時すでに遅い。

 今日から前も気をつけないとダメになったんだ。

 僕の怯えた顔を見て、たかしくんは嬉しそうに笑っている。 

 本当に、もう! からかって酷いよ!


 ――――


 これからお風呂だけど、たかしくんの言葉が頭から離れてくれない。

 服を全部脱ぎ捨てて、後は中に入るだけなのに扉の前で躊躇してしまう。

 曇りガラスの向こう側に、どうしても何かいるような気がするんだ。


 「う〜……」


 お父さんとお母さんを呼べば…

 でも、怖いからお願いって言うのは恥ずかしくてできない。


 「頑張る」


 手を一度ぎゅっと握って伸ばしてみれば、自分の指先が震えていることに気づいた。

 だけど、今さら手を引っ込めても変わらないと、意を決したように、唇を強く噛んでから勢いよく開ける。


 浴室の扉を開ければ、白い湯気がむわりと体を包んだ。

 できる限り怖いことを思い浮かべないようにって思っても、テレビで見た髪の長い女の人がこっちを見下ろすシーンが勝手に思い出されてしまう。


 「――ひゃっ! 冷たっ!」

 天井から落ちてきた水滴が、右肩に一滴落ちてきてその冷たさに肩が思わず跳ねちゃった。

 恐る恐る上を見上げると、今にも落ちてきそうな水の塊が何個も見える。

 

 そして、視線を上げたことで僕はだいじなことに気づいたんだ。

 下を向いた時に何かいたらどうしよう……。

 なんで、僕はこのタイミングでこんなこと思っちゃったんだろう。


 それを激しく後悔したが時すでに遅く、心臓の音が浴室に響いてるんじゃないかってくらい大きくなった。

 見える範囲で眼球を動かしてみるが、全部見えることはなく、死角にある闇の中に誰かがいるように思えてしまう。


 「――っ!」

 ずっとそのままでいるわけにもいかないし、ヤケクソ気味に顔を下げて見た。

 まだ、うるさく心臓は騒いでいたが。がむしゃら気味に浴室の隅々まで確認してみたけど何もなくて安心した。


 「はぁ……よかった」

 ほっと胸を撫で下ろすと、シャワーのハンドル部分に手をかけた。

 それをゆっくりと回し、擦れるような金属音の後にお湯が出始めた。


 そのお湯を頭の天辺からかける。

 染み広がるように顔の全てを覆い尽くし、目を強制的に閉じさせられた。

 瞳を閉じると瞼の裏に、血走った瞳で笑う女の顔が鮮明に映し出される。

 テレビで見たその顔は生々しくて、忘れようにも頭の中にずっと貼り付いているんだ。

 たかしくんのせいで、今度は前も危なくなった。

 温かいはずのお湯の感覚が薄くなるほど、胸の中の陰が徐々に広がる。


 「あ〜! もうっ!」

 恐怖を振り切るようにがむしゃらに頭を指先で擦って、シャンプー済ませてしまう。

 その間も僕を見ているような視線が、体の至る所を刺してくる。

 だけど、動きを止めず一気に洗い終えて、勢いのままに後へ振り返った。


 「……ほら、なにもいない」

 ほっと胸をなで下ろしたが


 ――前にいるらしいよ。


 たかしくんの言葉が頭をよぎり、勢いが削がれるように動きが止まってしまう。


 今度は前を向かなきゃ……でも。

 いつの間にか僕を見ている視線が移動したように感じる。

 今度は反対から誰かが……。


 体が寒いわけじゃないのにぶるりと震え、指一つ動かすことすらできない。

 なぜか僕が気づいていることが、相手に悟られちゃだめと思ってしまい、呼吸する肩の上下すら危ないと思い自然と吸い込む空気が少なくなる。


 ――ふぅ


 耳元で誰かの吐息を感じる。


 「――もう、やだよ!」

 次の瞬間、立ち上がりながら勢いよく振り返った。

 脈が激しく跳ね回り、骨を通って鼓膜を揺らす。

 鼻呼吸から口呼吸に変わり、走った後のように乱暴に息を吸い込んだ。


 「ほら、いない! どこにもいないじゃん! たかしくん、嘘つき!」

 ここにはいない親友の名前を呼んでから、八つ当たりするように文句を言う。


 「ふふーん。これは明日、たかしくんとっちめないとね!」

 一通り、浴室を見回したが僕しかこの空間には存在しない。

 すると、急速に僕を包んでいた恐怖の膜が弾けて、重苦しかった体が軽くなった。


 「さっ、湯船に浸かっちゃおう」

 浴槽の縁に手をかけて、片足を入れようとする。

 その間も、たかしくんへの愚痴が止まらない。


 「ほんとにもう! たかしくんっていつも意地悪――」


 ――女の顔が水中からこっちを見ていた。

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