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忘れ者

 ――これは友人の彰良(あきら)とその彼女の由希(ゆき)、そして俺の彼女の詩織と4人でダブルデートをした時の話しだ。

 ただ、普通にしているだけでこんなことが起きるとは思いもしなかった。


 「春斗(はると)、お待たせー!」

 スマホから顔を上げると、三人がそこに立っていた。 

 代わり映えのない4人。

 子供の頃からの付き合いで、変わったことと言えばお互いの関係だろうか。

 彰良は由希と自分は詩織と付き合いだして、幼馴染同士のカップルが成立したと言うわけだ。

 そんでもって、このメンバーでデート。


 詩織に握られた手からいつもの彼女のぬくもりは、秋の空気に晒されて指先が冷たい。

 それを暖め返すように握り返すと、わずかに振り向いて微笑みを返してくれた。


 「よし! いろいろ見て回ろうぜ!」

 彰良は張りのある声でみんなにそう言って、先頭を歩く。

 それについて行くように全員が後を歩き出し、駅の中を見て回ることにした。


 「あ、これ可愛い!」

 詩織の声のトーンが高くなった。

 それに吸い寄せられるように春斗が彼女の手元に視線を落とすと、黒猫をモチーフとしたぬいぐるみだった。

 精巧に作られて、まるで本当に生きいているよう。

 そのぬいぐるみのお尻のところから白いタグがぶら下がり、春斗がそれを見る。


 「げっ! 15000円! すごい値段だ……」

 大学生の春斗達にとって、万を越える金額は大金。

 だけど、詩織の笑顔が見れるならと財布を後ろポケットから取り出して中身を確認しようとした。

 「春斗はいつも優しいね。でも、大丈夫だよ。気持ちだけで嬉しいから」

 そう微笑みかけられて、ほんのり頬が熱くなる。


 「そう? それなら次のバイトの給料が入ったら買ってあげるね」

 「うん! 楽しみにしてる!」

 少しだけ見栄を張った。

 バイトの給料なんてたいしたことない。

 あの金額を使ったら、一ヶ月は食費を削らないとだめだろう。

 でも、詩織のためならとバイト時間を増やせないか交渉してみようと思う。


 「おーい! 2人ともこっちー」

 由希の声がした。

 声の方へと振り向くと、彰良と由希は帽子のような物を被っている。

 「なんだそれ?」

 カエルが潰されたようなマスコットが描かれている。

 ブサイクだけど憎めない愛嬌がある。

 それを由希が渡してくる。


 「ねぇねぇ! これ買おうよ! それでみんなでキャンプしよ!」

 由希はどちらかと言えばセンスがない。

 春斗と詩織が困ったように顔を見合わせ、もう一度前を向くと、由希の後に立っている彰良が手を合わせてお願いしていた。


 「うん! いいよ。買おうか。お揃いだね」

 「やったー! みんな仲良しだもんね!」


 そして、4人達はダブルデートを満喫して、彰良のアパートに移動する。

 

 ――――

 

 「由希って、本当に料理上手だよね」

 みんなで鍋を囲み箸をつつく。

 「まったくだ、詩織にも見習ってもらいたいよ」

 「えー? なんでよ。春斗、カレーいつも美味しいって食べてるじゃん」

 ムツくれる詩織を見て春斗が笑うと、彰良が追い打ちをかけてくる。


 「詩織、それは料理できない人が言うセリフな」

 その言葉に3人が大きく笑うと、詩織はそっぽを向いてしまう。

 「もう! みんな酷い! 私だってできるもん」

 「それじゃ、明日の料理当番は詩織な」

 「げっ……それはちょっとな〜」

 自信なさげに声が尻すぼみになり、彼女の声は咀嚼音に消えていく。


 「あ、俺、便所行ってくる」

 そう言う、彰良が立ち上がった。


 「あいつ、めっちゃビール飲んでるな」

 空になった缶が積まれたのを見て、春斗がそう呟いた。

 彰良が戻ってくるまでのあいだ、3人で会話を楽しんでいる。


 「ねぇ、由希はいつ結婚するの?」

 「え〜……決めてないけど、大学卒業したらすぐにでもしたいな」

 「そう言う詩織は?」

 由希の問いかけに目で訴えかけてくると、春斗の視線がわずかに泳ぐ。


 「って、感じ。だから、まだ先になるかな〜」

 由希が「なるほどね」と言うと、春斗は誤魔化すようにビールを口に含んだ。

 それを転がして飲み込むと少しだけ、味が薄く感じられる。

 あれ? ぬるいしなんか水みたい……。


 そう思ったが、酔っ払ってるせいか舌がおかしくなってるのだろうと、もう一口飲んだ。


 「てか、彰良遅くない? 大の方か?」

 「もうっ! 今、食事中だよ」

 詩織に注意される。


 ――ブーブー


 すると右のポケットに入れて、スマホが振動した。


 「あ? 彰良からだ。ははーん。トイレットペーパーなくなったんだろ」

 そう思って電話に出る。


 「もしもし――」

 「――春斗か!?」

 受話器の向こうの彰良の声はなにか焦っているようだった。


 「なんだ? そんなにトイレットペーパー必要なのか?」

 「トイレットペーパー? なに言ってんだお前。遅れてすまん……怒ってるなら許してくれ」

 最初、春斗は彰良の言っていることが理解できなかった。

 それを飲み込むのに数秒時間がかかる。


 「……は? 今、お前……トイレに」

 「トイレ? なに言ってるんだ? マジでごめんって」

 てか、あいつの声……トイレから……しない。

 はっ? 意味分からない。

 春斗の顔から血の気が引いていくと、詩織と由希が心配そうに見つめてくる。


 「なぁ……彰良トイレ行ったよな」

 「行ったけど……なんで?」

 「今、彰良から電話かかってきてるんだけど、声がトイレからしないんだ」

 そう告げた瞬間、2人の視線が彰良の消えていった廊下を向いた。


 「ちょっと、俺、見てくるよ……」

 「辞めたほうが……いいよ」

 詩織に呼び止められたが、春斗が立ち上がろうと前かがみなると。


 「――ばれちゃった?」


 耳元で彰良の声で囁かれる。

 それは、全員に聞こえたようで体が硬直してしまう。


 「――に、逃げるぞ!」

 詩織の手を取り立ち上がる。

 ただ、由希が動くことができない。

 カタカタと体が震え、大きく見開いた瞳で机の上を見つめていた。

 なにか、ぶつぶつと呟いて詩織と春斗の声にも反応しない。


 「詩織……先に逃げてて。由希を連れてくる」

 「……うん」

 詩織にそう言いうと、エレベーターに向かって下に降りていく。

 春斗は彰良の部屋に向き直る。


 人差し指からゆっくりとドアを握り、左に回す。

 ドア板の中の出っ張りが引っ込む音がして、扉を手前に引く。

 隙間から流れる重たい空気が鼻の穴を塞ぎ、肺が絶えず酸素を求める。

 だからと口で強く吸い込むが、締まった喉が空気の流れを遅くして、息が荒くなっていく。


 「――あひひぃいっ」


 扉を開けきると中から由希の笑い声が聞こえてくるが、それは狂ったように高く、春斗の背筋が凍りつく。

 彰良に合わせる顔がないと、恐怖を責任感が上書きして前に一歩踏み出す。


 「――由希っ!」

 一気に由希の元に駆け寄ると、手を強く引いたが力の抜けた人形のように、だらりと項垂れている。

 「あひ……ひひゃ、ひゃひゃひゃ……」

 春斗は由希の腕を取ると肩に回し、無理やり持ち上げるが顔がぐにゃっと上を向いた。


 「うわっ! なんだよこれっ!」

 上を向いた由希の顔に目を向けた時、思わず彼女を投げ捨ててしまう。

 軽くテーブルに頭をぶつけると、血の変わり出てきたのは白くてぷちぷちとした虫たちだった。

 そのまま滑るように体が上を向き、春斗の視界にはっきりと由希の姿が映つる。


 「あ……あぁぁ……」

 漏れ出た声は情けなく震え、言葉を形にすることすらできない。

 両目が別々の方へ向き、それが別々の方向へとぐるりと一回転すると、ぶちっと切れる音がした。

 そして、両目が飛び出るように突き出てきて、


 ――ゴロリ


 床を転がる。

 そこから帯びただしい見たことない虫達が這い出てくる。

 目も口も鼻も、虫の行進は止まらない。


 それがぞろぞろと春斗の足元に円を描くように集まり出すと、急に動きが止まる。


 「あ……顔……由希の、虫に顔……へ?」


 ――あひゃ、ひゃ、ひぃいいいっ!


 一斉に笑い出す。

 春斗の意識が途切れそうになると、笑い声が遠くに聞こえる。

 「……詩織」

 無意識出た彼女の声に、霞がかった意識が鮮明になる。

 足から這い上がろうとする虫を祓い除けて、外に飛び出すと一目散に詩織の元へ向う。


 「――春斗!」

 詩織の顔を見た瞬間、膝から力が抜けて前に倒れる。

 彼女が急いで駆け寄ってきた。

 良かった……詩織だけでも無事で……。


 「……由希が」

 喉を通った声は焼けるように熱かった。

 「由希が……どうしたの」

 上体を起こして詩織の顔を見上げると、月明かりで影ができてあまり良く見えない。

 ただ、声がいつもよりも低く、どこか震えているようだった。


 春斗が次の言葉を口にしようとすると――


 ――ブー、ブーブー……


 再びポケットの中のスマホが揺れる。

 無視しようかと思ったが、なぜか下っ腹が騒がしくて締まるような感じがした。

 スマホを取り出して視線を落とす。


 彰良からだ……。


 「もしもし……」

 「もしもしじゃねーよ!」

 彰良の怒鳴り声が鼓膜を激しく揺さぶったが、どうしてか自分だけがこの場に浮いているような気がした。

 「本当に、お前はどこにいるんだ! 詩織なんてずっと泣きっぱ……し……だぞ。由希も……」

 彰良の声が途切れる。

 詩織が……泣いている。

 

 じゃぁ、今見えてる足は――誰。


 今にも泣き出しそうな息遣いをしてる……のは誰。


 あ、上向きたくないな。


 「う……ぐ、やだ……ば……ばれちゃった〜! ひぃひっひひひ」

 や……あぁ……。

 「ぁ……あああっ!」

 

 詩織の顔をみないで一目散に駆け出す。


 「な……さっきからなんなんだよ! てか、ここどこ?」

 回りを見れば木々に覆われて、彰良のアパートにいたはずが、山の中のようになっていた。

 その隙間から何かがチラチラとこっちを見ているようで、まっすぐしか見えない。


 「はぁ……道路……出られた」

 整備された道に出ると、春斗の足が止まる。

 「これ……墓?」

 目の前には無造作に並べられた石があった。

 一つはまだかろうじて立っているが、残り二つは転がり砕けている。

 吸い寄せられるように近づいていくと。


 「――うわっ、眩しっ!」

 車のライトが顔を照らした。

 すると、それが春斗を越えたところで停止する。

 「おーい! こんなところで何やってるんだ?」

 心配になった運転手が、降りてきてくれたようだった。


 春斗が助けを求めて向かおうとすると、不意に肩が重くなった。

 耳元に甘い吐息のような風が触れると、それに混じって。


 ――あと一歩前に出てよ……


 その呟きを聞いた瞬間、春斗の意識が限界を迎えてプツリと消えた。


 ――――


 なんの脈絡もなく襲った心霊現象はまだ、俺の心に大きな傷を作っている。

 あいつらとは仲直りをして、詩織とも順調だ。

 ただ、いつまたすぐ変わるか分からずみんなの顔を見ると体が固まってしまう。


 「このカエルの帽子、誰と……」

 

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