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お肉が好き

 なんでかな? 最近凄くお腹が空いちゃう。


 ――ぐぅ〜。


 うー、恥ずかしいよ……。

 誰にも聞こえてないよね。


 見回してみたけど、こっちを見ている人は誰もいなかった。

 よかった〜。

 みんなずっとパソコンと睨めっこ。

 お腹押さえてうずくまってるなんて私しかいないよ〜。

 ……もうやだぁ。

 私のお腹どうなっちゃったんだろう。


 あっ、佳奈さんと由奈さんも上を向いてぽーっとしてた。

 一緒に入社した時は二人とも仲良しだったのに、最近どうしちゃったんだろうな?

 話しかけても全然反応ないしさ。


 それに凄いやつれて……。


 ――ぐ、ぐぅ〜。


 はぅ。お腹、落ち着いて。

 ご飯までもう少しだからね? そしたら、お腹いっぱいにしてあげるからね? ね?


 ――――


 「やっとご飯だ〜。お弁当、お弁当!」

 はぁ〜。これこれ。

 

 ――いただきまーす!

 んま、んま。


 「おっ、(かなで)ちゃん美味そうだね。って、弁当……茶色いな」

 「あ、健二(けんじ)課長……もぐもぐ……んぐっ。ぷはぁ。失礼しました。お肉美味しいですよ〜」

 「おう……そうか。でも、ちゃんと野菜も食えよ?」

 「分かってますよ〜! あー、美味しい! もぐ……んぐ」


 もう、私の食事を邪魔しないで欲しいです。

 こっちは必死なんですよ。

 あー、お肉最高。


 野菜……前はあんなに食べてたのにな。

 あれ? お米も最後にいつ食べたっけ?

 ん〜思い出せないから辞めましょう。


 「あ……もうない……足りないよ〜」

 お弁当の中がからっこになっちゃった。

 三つくらいじゃ足りないか〜。

 明日からはもっと持ってこようかな。


 ――――


 「ただいま〜」

 と言っても誰からの返事があるわけじゃない。

 前は猫飼ってたんだけど……タマスケごめんね。

 

 我慢できなくて――昨日。

 ひとつになったから、許してくれるよね?


 「そんなことより……えーっと、とりあえずお肉食べよ」

 これだけあれば大丈夫でしょ。

 スーパーのお肉コーナーで大量に買ってきたんだ〜。

 楽しみ。


 ――――


 ――あれ?

 もうないの? まだ食べられるんだけど。


 「後で買いに行かないと」

 全然足りないよ〜。

 食費すごいことになってるし、次の給料まで持つかな?


 「うわ……お腹すごいことになってる」

 一度お風呂に入ろうと思って鏡で自分を見てみたけど、これはちょっと人に見せれないかな……。

 まぁ、相手いないからいいけどさ。


 てか、すごいアンバランス……あ〜なんて言ったっけ? あの妖怪? "餓鬼" って言ったかな?

 なんかそれ見たい。

 後で検索してみよーっと。

 お風呂の後は……ご飯だね。

 買い出しに行かないと。


 ――――

  

 「だめ……足りないよ。全然足りない……お腹……すいたな」

 どうしよう? 私、おかしいのかな?

 でも、お腹すくのは普通のことだよね?

 お腹……いっぱいになりたいよ。


 ――――


 ビールを片手に健二はなにかを考えているように、眉を潜める。

 「あいつ……様子がおかしかったよな?」

 壁の一点を見つめて、視線を離さない。

 

 「……やっぱり、おかしい。あいつの弁当、肉しかなかった」

 奥の方にまだ赤くて生肉のような物も見えた気がした。

 ただ、人の食事にとやかく言うのも上司としては言いづらいものでもある。

 あの時は笑って誤魔化したが、やっぱりなにかするべきだろうか。


 「佳奈と由奈の件もあるし……久しぶりに連絡してみるか?」

 ビールをぐいっと飲み干して空になった缶を握り潰すと、スマホから一件の連絡先を探し出す。

 「久しぶりだな……元気してんのか? あいつ」

 スマホを耳に当てると、呼び出しコールが鳴る

 

 「はい。なんでも屋『とこよー』です。ご連絡いただき誠にありがとうございます。ご要件をなんなりとお申し付けくださ――」

 「――あー、そう言うのいいから。俺だよ、健二だよ。久しぶりだな」

 話を遮るように言うと受話器の向こう側の人物が無言になる。


 「ん? あ、健二くん? 久しぶり。なにか依頼かな? 呪殺したい相手でもできた?」

 「ちげーよ! たく、昔はこんなんじゃなかったのによ……はぁ、ちょっと相談したいことがあってな」

 今、会社で起きていることについて話をすることにした。

 行方不明者、人が変わったようにおかしくなった二人の社員と、奏の件。

 それをなにも言わずに受話器の向こう側の相手が聞いてくれる。


 「あー、なるほどね……これは確かに僕の案件みたいだ」

 「どうしたらいい?」

 「どうしたらいいも何も、健二くんが僕に依頼すればいいんだよ?」

 「あー、ちなみに同級生割とかある」

 すると受話器の向こうから「ないね」と声が返ってきて、健二の肩がガクリと落ちる。


 「たく……"勇気"はこう言うところが、冷たいよな」

 「まあね。今は……僕に感情は――いらないんだよ」


 ―――― 


 え? もう朝なの?

 嘘だよね? まだ、食べ足りないんだけど?

 食べても、食べても、食べても……お腹いっぱいにならないよ。

 あー、もう生でいいよ。

 料理とかめんどくさいし……。


 あー……美味しい。

 もっと、もっと、食べたいな。


 「会社行かないとだけど……でも――食べる」

 ぐちゃぐちゃと肉を潰す感触がたまらないな〜。

 料理とかする必要ないじゃんか。

 生の方がもっと美味しい。

 これなら満足できるかな。


 買ってきた肉でこれなんだから、新鮮な肉ならもっと美味しいんじゃないの。

 でも、どうやって手に入れたら……あ。

 外、たくさん、肉……。


 たくさん……たべ……れ……。

 ……ピンポーン! ピンポーン!


 ――はっ。私なにを思って。


 「あ、はーい。今行きますね」

 こんなに朝早くから誰かな?

 ご近所さん? そしたら、肉……たべ……。


 だめだめ。

 そんなことしたら、ずっとお肉食べれないぃいいい。


 「今、開けますね〜」

 はぁ〜新鮮で美味しそうな匂い。


 「あ、あのおはようございます」

 「おはようございます。えっと……どちら様でしょうか?」

 「その、あの……なんと言うか……ちょっと頼まれて……」

 美味しそう。

 シャツから少し見える二の腕にかぶりついて……あっ、でもその前に毛は全部毟ってからだね。

 そして、骨についた食べかけをちまちまとしゃぶるの。


 ――ちょっとだけならいいよね?


 「あの、お姉さん……その……」

 「うふふっ。大丈夫よ。ちょっと立話もあれだから、中に入らない?」

 「え? いや、それは……ちょ、力強っ」

 あー、だめ……手に触れただけでも……。


 「――お、お姉さん、なんで……離して」

 一口だけならいいよね。

 その二の腕、ちょっとだけ……。

 はぁ、こうやってくっつくと本当にいい匂い。


 いただきます。

 お行儀悪くてごめんなさい。

  

 「――ぐぇっ、おぇえええっ、あぐ……あなた、なに食べ……させた。苦し……」


 「……奏ちゃん」

 「か、課長……なんでここに。それに……その後ろ」

 訳が……わからない。

 あぁ、苦し、よ。

 せっかく食べたのに……もったいない。

 出したの食べなきゃ。


 「健二くん、彼女押さえて」

 「あぁ、分かった」

 「辞めろ! 離せ! 食わせろぉおおおお!」

 あいつか、私の邪魔をしたのは……。

 それにこの子供。

 私はただご飯を食べてるだけなのに。


 「店長……めっちゃ痛いっす!」

 「"慎也"くん、お疲れ。君のおかげで、今日は簡単に終われそうだよ――"たかしくん"」


 なんだ……こいつ。

 ひ……化け物……。

 黒い、真っ黒……あ……。


 「勇気くんはいつも人使い荒いね。あ、僕人じゃないから、"怪異"使いかな」


 気持ち悪い……この匂いなに?

 いろんな匂いが……。


 「いい感じに怯えてるみたいだよ。そろそろ出てくるかな」

 「うん。もう少し。人の肉を食べる前で良かったよ」


 なに言ってるの……?

 人の肉?


 私……え? なに……してたの?


 「――出てきた」

 「今日のご飯は"餓鬼"か。朝から胃もたれしそう。それじゃ――いただきます」


 あ……あぁああ……。

 私、食べられ――


 ――――


 「勇気……彼女、これで助かったのか?」

 浩史が勇気に問いかけると、頷いて返事する。

 「うん。もう大丈夫だよ。あ、彼女の体が寄生虫だらけになってたから、治療のルーン文字書いといた」

 「そうか……助かった」

 浩史の声は沈んでいた。

 自分の部下を抱えるように支え、その顔を見る。

 汚物にまみれ、咀嚼したばかりの肉が顔に貼り付き、胃の中で混ざりあった酷い臭いが鼻腔を刺してくる。

 顔を背けたくなるような光景だったが、健二は真っ直ぐに奏を見つめ続けていた。


 「健二くん、部下思いなんだね」

 勇気はそれを見て、優しげに言葉をかけたが表情一つ変えることはない。

 作られた精巧な人形のように声色と合致せず、他の人が見れば不気味に思うが、浩史も慎也も顔色を変えることはなかった。


 「まあな」

 「あ〜、あのいじめっ子が立派になって」

 「うるさい。黙れ……はぁ、まあ……"この件"は解決か」

 浩史が安堵の息を漏らした。

 

 「でも、記憶はなくならないから、サービスで慎也くん置いとくから、ケアはよろしくね」

 勇気がそう言うと、慎也の体がこわばってしまう。 


 「え? 店長、俺がっすか? でも……学校が」

 「役得でしょ? 年上好きって言ってたし」

 「そんなこと――あー、分かりましたよ」

 なんとか言い返そうとした慎也だったが、結局は言いくるめられて肩を落とした。


 「後は行方不明になった社員の捜査と、豹変した社員二人。追加で会社に来なくなった子の調査だっけ? 高いよ?」

 「あぁ……分かってる」

 「ならいいけど。たかしくん行こうか」

 黒い肌の子供に勇気が声をかける。

 「うん。勇気くんといると飽きないね」

 そう言って、慎也を残して全員が外に出ていった。

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