未来予知スレッド
1 :未来人A:
明日、17時30分。
〇〇線で脱線事故。
死者0人、負傷者53人
2:名無し:
はっ? なのスレ?
承認欲求丸出しで乙。
3:見習いコック:
今どきこんなことやってる奴なんているんだ草
4:アホ、バカ、マヌケ:
まっ、明日になれば分かるでしょ。
なんとなく暇だからってスレッドを漁っていたら、なにかの予言のようなものを見つけた。
軽く覗いてみると、どうやら明日、脱線事故が起こるようだった。
「つまんないの」
そっと、スマホを閉じて自室の天井をぼんやりと眺めている。
白かったであろう天井は少し黄色味がかって、その所々には茶色くて薄い染みがへばりついている。
その染みが動いて顔になっちゃったりして……。
なんてそんなことあるわけない。
初めて一人暮らしをして10年。ずっとここに住み続けているが、そんな怪異気味たことは一度も起きたことがない。
だからだろうか。刺激が欲しくて、さっきみたいなオカルト掲示板を読み漁って寝るのが日課になっている。
ただ、それも飽きてきた。
――この話を聞いた人は全員が死ぬ。
じゃぁ、誰がその事実を知ってるんだよ。
――幽霊が撮れました。
なんで、撮影者は幽霊が逃げ出すまでじっと構えて、逃げ出したと思ったら追いかけていないとか言ってやがる。
それもこれも、デジタル化が進む昨今では誰でも手軽に動画や画像が作れることが起因している思う。
AIを使えば簡単な怖い話なんてすぐにできる。
中身のないスカスカな物語には飽きてしまった。
「はぁ〜」
大きなため息にはいろいろな鬱憤が込められていたと思う。
代わり映えのない日常に、ただ時間だけが過ぎていく。
気づけば社会に飲まれて卑屈になり、非日常を求める毎日だった。
「さっきの話……本当に起きないかな」
そうして目を閉じてしまえば、つまらない一日がスタートする。
それを拒むように意識を保とうとするが、俺の意識は闇に溶けてしまう。
――――
――ニュース速報です。
仕事が終わって帰宅してからテレビを付けると、ニュース番組の特番が突然切り替わり、速報の文字が映し出される。
――17時30分頃、〇〇線で脱線事故。
――確認途中ですが……あ、今情報が入りました。
――負傷者53人! 死者はいないとのことです。繰り返します……
嘘だろ……。
画面の中で起きているできごとから目が離せない。
後続に連結していた車両が折り重なり、先頭の車両を押し潰している。
先頭車両がただの鉄の塊となっていて、よくこれで死んだ人がでないかったと思うが、そんなことより昨日見たスレッドだ。
「おいおい! あれ、本物だったのかよ! マジか!」
自分の気持ちを押さえきれず、鼻から熱い息が駆け抜けていく。
「やべーな! おい!」
そのスレッドは昨日と違って、凄い盛り上がりを見せていた。
523 :名無し:
未来人Aはまだ来ないの?
524:バカ、アホ、マヌケ:
てか、マジもんじゃねーか……やばくね?
525:天才A:
すこい。私の未来とか占ってくれないかな。
画面を更新するたびに、次々にスレッドが更新されていく。
昨日のようなシラケた雰囲気はなく、お祭り騒ぎとなっていた。
俺も、夕食とかそっちのけで何度も更新して、未来人Aが来るのを待っている。
早く! まだかよ! あー焦れったい!
指先が勝手に動く。
952:しがないサラリーマン:
来るのが待ち遠しい! 早く次の未来を予言してくれ。
そう書き込んだ。
――ザッ……
あ? なんか今、目の前が暗くなったような。
まあ、いいや。
そこからはたがが外れたように、何度もコメントを打ち込んでいた。
「マジで来ないなー。って――来た!」
1521:未来人A:
明日、19時30分。
〇〇道で多重事故。
死者12人、負傷者10人。
マジかよ! 次の予言来ちゃったよ!
めっちゃ楽しみ!
そこからはさらにスレッドが盛り上がり、未来人Aの正体だったり、事故のないようだったりと静まることはなかった。
――――
「まだか……まだか。――早く」
何度も時計を見る。
時刻は19時25分。
もうすぐだ。もうすぐ、未来人Aが指定した時間になる!
――ニュース速報です……
きたきた! きたーっ!
やばいやばい。
「やべーよ! マジでさ! どぴしゃっ! 未来人Aマジでやばすぎっ!」
思わず手を握りガッツポーズを決めてしまう。
こんなに気分が高まったのはいつぶりになるだろうか。
――楽しい!
死んだ奴には悪いけどさ、俺にもっと刺激をくれよ!
未来A、次はなんだ?
明日、12時18分、〇〇繁華街で通り魔。死者3人、負傷者21人、加害者死亡。
明日、9時43分、他殺体発見。犯人は同僚の菱沼。3日後に逮捕。
明日、13時19分、山火事発生。逃げ遅れた5人死亡。鎮火の目処立たず。
…………。
本当にコイツ何者なんだよ!
すげーな!
「てか、これだけ盛り上がってるんだから、SNSとかで特定とかされてねーか?」
的中率100%の予言。
それこそ、SNSも大盛り上がりだろうよ。
さてと……。
「ああ? あれ? 検索しても……ない。キーワードが悪いのか? 未来人だけで……これも違うし? あれ?」
検索してもヒットしないぞ?
なんでだ?
てか、今までの事件は――ない。
おかしいくないか?
あれだけテレビで流れたニュースも……。
どうしてなん、で。
「あれだ! た、多分、まだみんなが知らないだけで……でも……」
自分で言った言葉の矛盾に気づいて、押し黙ってしまう。
未来人Aについてはまだ表に出てないとしても、これまでに起きた事件や事故が検索に引っかからないのはどう考えてもおかしい。
「スレッド見ればなにか……って、なんだよこれ……」
4444 :未来人A:
今から。
佐倉アパート203号室。
佐藤 浩希、自室で死体で発見。
生きたまま食われて――死ぬ。
4444 :見習いコック:
ざまぁ! 浩希ってやつ死亡確定、乙!
4444 :アホ、バカ、マヌケ:
個人指名で予言されるって相当よ。
あ……あぁ……スレッド……番号……なんで。
やめ……俺について――話すな。
――ピーンポーン。
「宅急便でーす!」
あ、俺……なにか頼んでたっけ?
でも……人だ。
助かった。
「はーい。今、行きまーす!」
ブラウザを閉じて、急いで玄関に向う。
まだ、うるさく鳴っている心臓を押さえつけるように腹に力を入れる。
早く人に会いたい。
誰でもいい。
早く、早く、早く!
――ガチャ
――そいつは立っていた。
小学生くらいの身長で全身が"真っ黒"。
人間の目玉と真っ白い歯が貼り付けられたように、浮いている。
「開いた、開いた。いただきまーす」
真っ赤な肉と、赤紫のイボイボのついた舌が俺の視界を埋めつくした。




