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探偵は胸を揉む  作者: リチャード裕輝
【Lv.1の童貞探偵】異世界で俺の性魔術解析が世界の穢れの記録を暴くが、魔王に童貞を独占予約されました

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【Lv.1の童貞探偵】異世界で俺の性魔術解析が世界の穢れの記録を暴くが、魔王に童貞を独占予約されました 第二十六章 その4

第二十六章 その4:終焉の玉座・反逆の咆哮


「ヤマト様ぁぁぁぁ!!」


目の前で粒子となって消えゆくヤマトの残滓に、イシュタルの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。その悲鳴さえ、静寂に包まれた玉座の間では虚しく響くだけだった。

魔王ルクセリアは、艶かしく組み替えた脚の隙間から、消し炭となった男の跡を冷ややかに見下ろした。


「Lv.7のゴミ屑が、私の魔弾に割り込むなんて……。愛だのプライドだの、吐き気がするほど不快なノイズだわ。さあ、残ったのは坊やとお姫様だけね。どうやって私を楽しませてくれるのかしら?」


絶望が支配する重圧の中、奏太はガタガタと震える脚に力を込め、一歩前へ踏み出した。


(やるしかない……。ヤマトが命を懸けて繋いだんだ、無駄にできるか。レイジが言っていたとおり、あの『ブラックホール』の内側にさえ潜り込めれば……【性魔術解析】さえブチ込めれば、勝機はある!)


奏太は体内の全魔力を練り上げる。Lv.1。だが、その魔力は誰にも汚されていない、水晶のように無垢な輝きを放っていた。


「いくぞ……風属性・神速ッ!!」


風を纏い、弾丸と化した奏太がルクセリアの懐へと肉薄する。狙うは、あの神々しいまでに露出した、万物の終着点——。


「あら、えっちね。そんなに私のおっぱいに触りたいのかしら? でも……あなた、遅いわよん」


ルクセリアの指先が軽く動いた。放たれたのは、戯れではない。彼女がかつて神々との大戦で並み居る天使を屠ったとされる、ガチの殲滅魔法——『極星の崩落ステラ・フォール』。

漆黒の魔力が針の先ほどの極点に凝縮され、放たれた瞬間、奏太の視界から「色」が消えた。音さえも置き去りにする、文字通りの光速の刺突。それは奏太の左脇腹を深々と抉り、背後の強固な城壁ごと、数キロ先の山々までを一瞬で蒸発させた。


「がはっ……! あ、あ……っ」


衝撃すら遅れてやってくる。口から溢れるのは鮮血ではなく、魔力そのものが霧散したような白い蒸気。内臓の半分が消失し、死神の鎌が首筋を撫でた——その瞬間だった。

奏太の右手が、太陽をも凌駕する眩い輝きを放った。かつて宿したアトラスの神力が、主の魂が消滅する寸前、本能的な危機に反応したのだ。


「……おおおおおッ!!」


奏太の意志を超え、右腕が黄金の巨像の如き重圧を纏う。追撃として放たれたルクセリアの「本気」の連撃——空間を寸断する魔力の刃に対し、アトラスの神力が物理的な「概念」として正面から衝突した。


ドォォォォォォォォンッ!!!


玉座の間が絶叫を上げる。魔王の殲滅魔法と、天を支える巨人の力が真っ向からぶつかり合い、因果律が軋みを上げる。アトラスの「地の力」が奏太の周囲の重力を無限大に固定し、本来なら塵すら残らないはずの魔王の猛攻を、ギリギリのところでガードし、弾き飛ばした。


「……はぁ、はぁ、はぁ……っ。……死ぬかと思った……」


右腕の皮膚が神力の負荷で裂け、黄金の血が滴る。だが、その瞳にはまだ、消えない探偵の火が灯っていた。


「ねぇね、私に触りたいなんてまだ思ってるのかしら? 仮に私のスピードに追いつけても、物理的に触れることはできないわ。近づけば近づくほど、あなた自身と魔力が吸い尽くされるもの」


事実、奏太が数センチまで近づいても、そこには目に見えない『事象の地平面イベント・ホライゾン』が存在し、指先が触れることすら叶わない。魔王がその豊満な胸に宿した「虚無」は、近づく者の存在そのものを情報の塵へと分解し、吸い尽くしていく。


「あははっ! 無駄よ、坊や。私の『特異点』には、この世界のどんな法則も通用しない。触れることすらできないまま、あなたは私の栄養になるのよ」


奏太は絶望した。

もし仮に触れたとしても、指先が目に見えない壁に弾かれ、皮膚が炭化して弾け飛ぶだけなのだ。そのあまりに無惨で、しかし誇り高き散り際を目の当たりにし、イシュタルの瞳に宿っていた絶望が「覚悟」へと変質した。


「ヤマト様……貴方が命を懸けて守ったこの場所、この私……。ただ守られているだけの私が、これ以上生きていて、何の価値がありましょう!」


イシュタルは震える膝を叩き、毅然と立ち上がった。その視線の先には、右手に宿る神力を限界まで昂ぶらせ、必死に魔王の包囲網を突破しようとする奏太の背中があった。


神の力の奔流——。


それは本来、人間が扱える代物ではない。しかし、その強大すぎる輝きと奏太の無垢な魔力が共鳴する様を見て、イシュタルの脳裏に、王家の禁書庫で目にした「失われた神代の秘術」の記憶が鮮烈に蘇った。


(あの奏太様のアトラスの神力……あれほどの純度と出力があれば、もしかしたら。王家の伝説に謳われる、あの『禁忌』さえも……!)


「久我様! 私も戦いますわ! もう、貴方の背中を見ているだけなのは嫌なのです!」


奏太が驚愕して振り返る。


「イシュタルさん!? でも、君には戦う力なんて……」


「いいえ、ありますわ。いえ……『創り出す』のです。貴方の右手に宿るその神力、そしてLv.1ゆえの清らかな魔力……それを私に預けてください! そうすれば、この絶望を塗り替える一撃を放てますわ!」


イシュタルの言葉には、王女としての気品を超えた、一種の狂気にも似た覇気が籠もっていた。


「……分かりました。信じます、イシュタルさん!」


奏太は脇腹の傷を抑えながら、残された全魔力を右手に集約させた。アトラスの神力が黄金の雷鳴となって唸りを上げる。


「全部、持って行ってくれぇぇぇッ!!」


奏太の手がイシュタルの掲げた杖に触れた瞬間、空間が軋んだ。王女の体から溢れ出したのは、銀色に輝くエーテルの奔流。それは見る間に玉座の間を覆い尽くし、魔王が支配する「死の領域」を強引に上書きしていく。


「あら……。無能な置物だと思っていたけれど、面白いものを見せてくれるじゃない」


ルクセリアが初めて、その妖艶な笑みを消し、警戒を露わにする。

イシュタルは天を仰ぎ、凛とした声で詠唱を開始した。その背後には、天を覆うほどの巨大な黄金の時計盤が浮かび上がる。


「時を紡ぐ神々の歯車よ、因果の鎖を今ここに断ち切れ! アトラスの光と共に、世界の理を書き換えん!!」


黄金の針が、死へと向かう運命を否定するように逆回転を始める。


「ザ・ワールド――世界ときよ、止まれッ!!」


カチリ、と世界の心臓が止まる音が響いた。

次の瞬間、極彩色の光は一瞬で剥ぎ取られ、世界はモノクロームの静寂に包まれた。魔王ルクセリアの指先も、崩れゆく天井の瓦礫も、流れる空気さえもが、氷のようにその場に凝固する。


「……成功、しましたわ……」


イシュタルは吐血し、膝をつく。禁忌の術の代償は重い。だが、彼女は奏太を見上げ、最高の微笑みを向けた。


「……!? どういうこと……?」


奏太が驚愕する。自分以外の全てが止まっているのだ。


「私が時を止めましたの……! 久我様、あなただけは動けるように術を編みましたわ。これこそが、私が囚われていた理由……世界そのものを止めてしまう禁忌の力!」


奏太は、静止した世界の中を光の矢となって駆け出した。亡きヤマトの咆哮が、イシュタルの覚悟が、背中を押し上げる。狙うは一点、魔王の心臓部に宿る、全ての死を司る『特異点』——。


最弱の探偵と、覚醒した王女。二人の力が合わさった瞬間、物語は終焉を拒絶し、反逆の物語へと塗り替えられた。


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