【Lv.1の童貞探偵】異世界で俺の性魔術解析が世界の穢れの記録を暴くが、魔王に童貞を独占予約されました 第二十五章
第二十五章:深淵の再会
〜超越者の誘惑と、レベル1の決意〜
「……ククク。行きますよ、皆様。振り落とされないように」
レイジが不敵に命じると、黄金の聖竜へと姿を変えたヴォルガが、地底の静寂を打ち破る咆哮を上げた。その翼が一度羽ばたくたびに、鍾乳洞の岩壁が震え、猛烈な突風が巻き起こる。
「うわぁぁっ!?」
奏太たちは、竜の背にある硬質な、しかしどこか温かい鱗に必死にしがみついた。ヴォルガは垂直に近い角度で急上昇を開始する。
迷宮の出口となっていた巨大な縦穴を、光速に近い速度で駆け抜ける。視界を覆っていた闇が、一瞬にして弾けた。
「……すげぇ……!」
奏太は思わず目を見開いた。
眼下に広がるのは、見渡す限りの雲海。夕陽に照らされ、黄金の絨毯のように波打つ雲の向こうには、かつて彼らが旅した大地がミニチュアのように遠ざかっていく。
ヴォルガの翼は、太陽の光を反射して神々しく輝き、空気を切り裂く音さえも、祝福の凱歌のように響いた。
だが、その絶景のさらに「上」に、それはあった。
天空の極み、重力さえも届かぬ場所に浮遊する、漆黒の巨大構造物。
それが魔王城――絶望の君臨する「ルクセリアの居城」だった。
あまりの高さに空気は薄く、星々が昼間だというのに近くに見える。普通の人間に辿り着けるはずのない、神域の一角。
「……到着です」
ヴォルガは優雅に旋回し、魔王城の入り口である「静寂の回廊」へと降り立った。
着地と同時に、竜の巨躯は急速に収縮し、再び愛らしいミニドラゴンの姿へと戻る。
「キュ……キューン」
少し疲れたように鳴くヴォルガを見て、奏太はその小さな頭を優しく撫でた。
「ヴォルガ、ここまで連れてきてくれて……本当にありがとうな」
「良い判断です。ヴォルガはここに置いておきましょう」
レイジが眼鏡を指で押し上げ、冷徹な合理性を口にする。
「この先は魔王の領域。まだ転生したばかりの個体を連れて行くのは、戦力として非効率です。何より、帰りにまた我々を運ぶ『足』になってもらわねばなりませんから。ここで英気を養っておいてもらいましょう」
「ああ。……いよいよ、なんだな。ドキドキするよ」
奏太が震える手で自身の胸を押さえる。レイジはそれを見て、薄く笑った。
「案ずることはありません。貴方には私が付いています」
「私も行きます、奏太様」
背後で、救出されたばかりの王女イシュタルが、凛とした声で宣言した。
「私の力を使ってください。この国を、そして私の希望である貴方をお守りするために」
「では、参りましょうか。地獄の、あるいは新世界の入り口へ」
レイジが重厚な扉に手をかけた、その瞬間だった。
回廊を満たしていた空気が、一瞬にして凍りついた。
ルクセリアの居室へと続く扉の前に、その影は最初からそこに存在していたかのように、淡い桃色の光を纏って立っていた。
「……いよいよね、奏太」
鈴の鳴るような、けれど心臓を直接掴まれるような冷たい声。
超越者エルフィ。
彼女は、かつて奏太の記憶を、そして肉体を蹂躙した時と同じ無機質な微笑を浮かべ、ゆっくりと歩み寄る。
「エルフィ……! なぜここに……!?」
ヤマトが身構え、ユリアが殺気と共に拳を握りしめる。イシュタルはその圧倒的な存在感に息を呑み、奏太の背中に隠れるように震えた。
熟成:超越者の指先
「ふふ……。まだ純粋なレベル1のまま。けれど、その瞳に宿る『記録』は、あの時よりもずっと強く、そして……大きく成長したわね」
エルフィの白く細い指先が、奏太の頬をなぞり、首筋、そして胸元へと滑り降りる。奏太の体が、かつての快楽と恐怖の記憶に反応し、小刻みに震え出した。
「ああ……いいわ。貴方の鼓動、私のために激しく打っている。……ねえ、もう準備はできているのでしょう?」
彼女の手は、躊躇なく奏太の下半身へと伸び、その形状を掌で確かめるように、容赦なく包み込んだ。
「ひっ……!? な、何を……!」
「嘘はつけないわ。身体はこんなにも熱い。……奏太、もう貴方は十分に熟成されたわ」
「貴女ッ!! 離しなさい!!」
ユリアが嫉妬に狂った咆哮を上げ飛びかかるが、エルフィは一瞥もくれず、指先一つで空間を固定し、ユリアを不可視の壁で弾き飛ばした。
「……またあなたね、邪魔をしないで、完成品。今は、私と彼の大事な刻なの」
契約の誘い:魔王を凌駕する力
エルフィは奏太を抱き寄せ、その耳元で甘く、残酷な誘惑を囁く。
「奏太……貴方が望むなら、力を貸してあげる。ルクセリアなんていう偽物の王を、一瞬で消し去るほどの、神の領域の力を。……その代わり、私と交わりなさい。貴方の積み上げた半年間のすべてを、私の胎内で一つに溶かすのよ」
彼女は奏太の手を取り、自らの柔らかな、けれどどこか空虚な胸へと導いた。
「ほら、触れて。私の心音、貴方の記録を求めてこんなに鳴っているわ……」
「奏太様……いけません……!」
背後でイシュタルが悲鳴を上げる。彼女には見えていた。エルフィの差し出す力が、魂を対価とした甘い毒であることを。
拒絶:レベル1の「絆」
奏太は、エルフィの胸に置かれた自分の手を、ゆっくりと、けれど確実に引き剥がした。
「……いらない。その力は、いらないよ。エルフィ」
「……え?」
エルフィの瞳に、初めて「困惑」という感情が兆した。
「あんたには……感謝もしてるし、恨みもある。でも、俺はもう一人じゃない。覇道を往くレイジも、十兵衛の遺志を継いだヤマトも、俺を守ってくれるユリア……救い出したイシュタル様……そして、命を繋いでここまで運んでくれたヴォルガもいる。……この仲間がいれば、あんたの力を借りなくても、俺は自分の力で魔王を倒せる」
奏太の瞳には、かつての絶望に怯える少年の面影はなかった。
「自分の力で魔王を倒して、この世界の謎を解く。あんたの言う『記録』の一部になんて、ならない」
惜別:超越者の微笑
沈黙が回廊を包む。エルフィはしばらく奏太を見つめていたが、やがて、くすりと小さく笑い声を上げた。
「……残念ね。本当に残念。貴方を私だけの深淵に沈めたかったけれど……。でも、貴方たちなら、本当にあのルクセリアを倒せるかもしれないわね」
彼女の身体が、再び光の粒子となって薄れていく。
「フフフ……。この世界はこの世界で、壊れていて楽しいのに。……いいわ。せいぜい、私を楽しませて。貴方たちが選ぶ『結末』が、どんなに歪で、美しい記録になるのかを」
エルフィは最後に、奏太の唇に一度だけ、冷たくて切ないキスを残した。
「また会いましょう、奏太。……世界の終わりか、あるいは、真実の始まりで」
光が霧散し、後には再び魔王城の冷たい静寂が残された。
奏太は唇を拭い、目の前の巨大な扉を見据える。
「……行こう。ルクセリアのところへ」
「……ああ、久我。あんた、本当にかっこよかったぜ。……俺、ちょっと泣きそうだ」
ヤマトが鼻をすすり、ユリアは誇らしげに奏太の背中を見つめ、イシュタルはその逞しい後ろ姿に、亡き女王の面影を重ねて深く頭を垂れた。
伝説の終焉まで、あと、扉一枚。




