【Lv.1の童貞探偵】異世界で俺の性魔術解析が世界の穢れの記録を暴くが、魔王に童貞を独占予約されました 第二十三章 後編
第二十三章 後編
覇者の終焉、そして不条理な婚姻
「フン。究極の清浄には、究極の浅さと汚れが効く。理論通りだ」
崩れ落ちた瓦礫の山を見下ろしながら、レイジは満足げに薄く笑った。その眼差しには、長き計算が寸分違わず成功した者だけが持つ、冷たくも絶対的な確信があった。
砕けた古龍の亡骸。その奥――暗闇の中から、ひとりの女が静かに姿を現す。
王国最後の希望にして、誰もが息を呑む絶世の美貌。
イシュタル(Lv.1000)
銀糸のような長髪が揺れ、月光を閉じ込めたような白い肌が、血塗れの戦場に神々しさを放つ。その姿を目にした瞬間、ヤマトの時間が止まった。
「……女神だ」
人生で初めて、本物の「運命」を見つけた男の声だった。
「俺の人生……この人のために、あったんだ……!」
魂が理性を置き去りにして突っ走る。一目惚れだった。
顔面は腫れ、服は破れ、尊厳はすでに死んでいる。それでもヤマトは、ボロボロの胸を精一杯張り、己を英雄だと信じ込んだまま、姫の前へ躍り出た。
「お、お嬢さん! このドラゴンは俺様が倒したんだぞ! 自称勇者ヤマト様とは、俺のことだ! 結婚してくれ!!」
勢いのまま膝をつき、渾身のプロポーズ。
数秒の沈黙が、永遠のように長かった。
イシュタルは、ヤマトを見た。
その「ぶ男」な顔面を。Lv.7という、紙より薄い経験値を。滲み出る卑しさを。
そして――ゴミを見るような目で、一瞥した。
「キモっ。生理的に無理なんだけど。ごめんなさい、お引き取りください」
即死だった。剣より鋭く、毒より深い拒絶。
ヤマトは、立ったまま死んだ。
姫は彼を「道端の石ころ」として処理し、そのまま当然のように隣に立つ奏太へと歩み寄る。その頬には、わずかな朱。
「……あ、こちらが素敵な『本物の勇者様』ですね」
甘い声だった。「そこの下等な方は、小蠅か何かでしょう。……私、久我さんに全てを捧げます。私を……『清浄な貴方の経験』にしてくださらない?」
世界が息を呑んだ。だが、奏太の脳裏には先ほど【性魔術解析】で覗いてしまった古龍の孤独が焼き付いていた。
「申し訳ありません」
奏太の声は、どこまでも誠実だった。
「僕、童貞なんで。この高潔なアイデンティティを、初対面の王女様ごときで汚すわけにはいかないんです。僕には僕の、守るべき『純潔』がありますから」
――Lv.1000の王女の自尊心が、粉砕された。
「ごとき」と言われた。人生で初めての拒絶。しかも理由が「童貞を守りたいから」。
その光景を正面から見たヤマトは、ついに限界を迎えた。
「俺よりレベルの低い……あの『偽物』に……?」
嫉妬、屈辱、絶望。感情が脳を焼き、口から白い泡が溢れ出す。
「ぶべぇっ!!」
そのまま白目を剥き、地面へと沈んだ。勇者、精神的死亡。
だが、ここで動くのが冷徹なる軍師だった。
レイジはあらかじめ用意していた神官の法衣へと滑らかに着替え、簡易祭壇を広げる。
「姫様、急いでください。この『動く粗大ゴミ』が完全に事切れる前に、婚姻の契約を固定する必要があります。王家の権威を守るため、ヤマト殿の『勇者』という肩書きだけを利用します」
イシュタルの顔が凍る。
「……この泡を吹いたドブネズミと!?」
「ええ。ヤマト殿は意識不明ですが、サインは代筆します」
レイジの眼鏡が鈍く光る。
「さあ、義務を果たして」
「……チッ、仕方ありませんわね」
王女は舌打ちすると、気絶したヤマトの腹をハイヒールでぐりぐりと踏みつけた。
「勇者ヤマト。貴方との政略結婚を認めます。ただし、王国が安定した暁には速やかに処刑――もとい、離縁させていただきますわ。聞こえていますか? Lv.7の不潔なぶ男」
「ぐぇっ(無意識の悲鳴)」
レイジは満足げに頷いた。
「これにて、呪い……失礼、仮初めの婚姻は成立いたしました」
イシュタルは即座に表情を切り替え、奏太に極上の笑みを向けた。
「久我さん! 魔王討伐が完了した瞬間、この婚姻は『英雄ヤマト、絶頂のあまり昇天(戦死)』という体で解消しますからね!」
奏太は、ただ深く頷くしかなかった。
レイジは白目を剥いた新郎を荷物のように肩へ担ぎ上げる。
「さあ、行きましょう。この『生贄』が役に立つ魔王城へ」
誰も祝福しない婚姻。誰も望まない英雄譚。
一行は、さらなる狂気と不条理が渦巻く地獄の中心へと、足を踏み入れるのだった。




