【Lv.1の童貞探偵】異世界で俺の性魔術解析が世界の穢れの記録を暴くが、魔王に童貞を独占予約されました 第二十章 後編
第二十章:深淵への巡礼 後編
〜覇道の真実と、裏切りのデジャヴ〜
焚き火の火勢が衰え、赤い残光だけが四人の影を歪めていた。周囲の闇は、まるで意志を持つかのように一段と濃さを増していく。
その重苦しい沈黙を破ったのは、ヤマトの悲鳴に近い叫びだった。
「……ま、待てよ……っ!」
鼻をすすり、震える声を無理やり押し出す。
「一人は戦国最強の覇王で、一人は世紀末の暗殺者!? なんだよそのパーティ……! 京大卒の肩書きが、道端の小石より価値ねぇじゃねーか!!」
彼は膝を抱え、逃げ場を失った子供のように丸まった。この世界は、性を交わして経験値を分け合い、レベルを上げるシステム。だが、目の前の二人はその理の外側にいる。
「俺は……死んでねぇよ……」
ぽつり、と落ちる声。
「京大出て、一流銀行入って……でも人間関係で詰んで、仕事のミスを理屈で誤魔化して……気づいたらパワハラの的だ。鴨川で足滑らせて――そんでこの世界だ!」
拳が震える。
「レイジ様は天下人、ユリアさんは死神! なのになんで俺は――あっちでも負け組、こっちでもレベル七の不細工なんだよ!」
吐き捨てるように笑う。
「俺のレア能力『毒属性』? 京大でこねくり回した屁理屈が、ただ変換されただけだろうが……! プライドなんてな……ただの呪いなんだよ……!」
その叫びは、虚しく闇に吸い込まれていった。
奏太は静かに目を伏せ、そして――レイジの背に向けて口を開く。
「……レイジ。向こうの世界……あんたが去ったあとの日本は、どうなったか知ってるのか」
その瞬間。レイジの手が止まった。
ゆっくりと振り返る。その瞳には、焚き火よりもなお濃い――紅蓮の炎が宿っていた。
「ククク……ええ」
低く、嗤う。
「やはり、“サル”が天下を獲ったか」
わずかに目を細める。
「あやつめ……やはり、計算通り」
そして、静かに言葉を落とす。
「主よ。貴様らは、光秀が私を裏切ったと信じておるのだろう?」
一拍。
「――浅いな」
空気が凍りついた。
「あやつだ。サル――秀吉よ。あやつが光秀を焚きつけ、私を嵌めた。本能寺を囲む兵の背後に、私は見たのだ。サルの影を」
声が、わずかに低く沈む。
「光秀は……むしろ、私を逃がそうとしたのではないかとな。サルの毒牙から、な。……だが――遅すぎた」
沈黙。レイジは空中に漂う魔力の残滓を握り潰し、そのまま奏太を射抜いた。
「久我様」
その声音は、冷酷なまでに静かだった。
「貴方は時折……“若き日のサル”に酷似しておる。利口で、立ち回りが巧みで、誰からも好かれる。だが、その清浄さの裏で――あやつは常に測っていた。私という“器”を。そうならぬよう、気をつけなさい」
言葉が、刃のように落ちる。
「そのレベル一の無垢が、底なしの欲望へと変質した時――私は躊躇なく、貴方を焼き尽くす。二度目の裏切りは――私の記録には不要ですのでね」
重圧の中、奏太は一歩も引かなかった。まっすぐに、その眼光を受け止める。
「……レイジ。俺は、誰の天下も奪わない。ただ、この世界の謎を解きたいだけだ。それに――俺の性魔術解析は、誰かを裏切るためのものじゃない」
沈黙。やがて、レイジが笑った。
「ククク……今は、それでよい。……さあ――行くぞ」
焚き火は、ついに消えた。闇が、完全に四人を包み込む。
レイジが立ち上がる。その視線の先。奈落の奥底。そこには――地上を統べる魔王と対をなし、この地底を根城とする巨竜の咆哮が、静かに、しかし確実に響いていた。
「震える必要はありませんよ、主。貴方のその清浄な童貞こそが――過去に縛られた我々を、未来へと繋ぐ唯一の鍵なのですから」
一歩。深淵へ。
「行きましょう。魔王の宿敵、竜たちの記録を――喰らいに」




