【Lv.1の童貞探偵】異世界で俺の性魔術解析が世界の穢れの記録を暴くが、魔王に童貞を独占予約されました 第二十章前編
第二十章:深淵への巡礼(前編)
〜異端の血脈と、焚き火の告白〜
天空の闘技場から地底の深淵へと続く螺旋階段は、湿った苔と不吉な沈黙に支配されていた。踊り場にわずかに開けた空間で、四人は束の間の休息を取る。地底から吹き上がる冷気は重く、上層からなお漂い続けるガラン――エルスの血の匂いと混ざり合い、空気そのものを淀ませていた。
奏太は、散乱した瓦礫を組み上げ、手近な木屑に火を移す。やがて焚き火は小さく燃え上がり、パチパチと爆ぜる音が、張り詰めた静寂を無理やり引き裂いた。彼の視線は、膝を抱えたまま魂の抜け殻のように俯くヤマトをかすめ、そして――あまりにも超然とした二人の「怪物」へと向けられる。
ガランを討ち果たした際の徹底した合理性。さらに、先ほどレイジが三人の極大魔法を一振りで相殺した、あの圧倒的な力。京大卒の知性をもってしてもなお説明不能なその深淵に、奏太は踏み込まずにはいられなかった。
「……レイジ、ユリア。あんたたち、本当は何者なんだ。ただレベルが高いだけじゃないだろ。俺たちと同じで、別の世界から連れてこられた……そうなんだろ?」
焚き火の炎が、レイジの横顔を赤黒く照らし出す。彼はワインの入った革袋を揺らしながら、不敵に口角を吊り上げた。
「ククク……主。この世界の原住民は、性を交わし経験値を分け合うことでしか強くなれぬ。だが――我々転生者は違う。魂の根底に刻まれた『元の世界の理』を持ち込み、この世界のシステムそのものを書き換えているのですよ」
レイジはそこで、わずかに指を立てる。
「つまり――我々は“この世界のルールで強くなっている”のではない。“元の世界で完成していた力”を、そのまま持ち込んでいるに過ぎぬのです。レベルとは後付けの数値。本質は、最初から決している」
焚き火の火が一瞬、大きく爆ぜた。
「だからこそ、レベル1であろうと魔物を蹂躙できた。私にとっては当然の帰結……ただの結果論ですよ」
レイジの正体――それは戦国の覇王、織田信長。
本能寺の炎に包まれながら、彼はこの異界へと転じた。
「私がかつて、燃え盛る本能寺にて『是非もなし』と笑い、果てた男だと言えば……信じますかな?」
低く笑い、彼は続ける。
「転生直後、レベル1の時点で私は周囲の魔物を蹂躙し、その生命を略奪することで己を高めた。私にとってレベリングとは、天下布武へ至るための合理的な過程に過ぎぬ。かつては日本を統べようとし――今は、この世界の『神の記録』を統べる。それだけのことです」
その隣で、ユリアが冷ややかに微笑む。彼女もまた、平穏な時代の人間ではなかった。
「レイジ様が“過去”なら、私は“未来”の亡霊」
静かな声が、焚き火の音に溶ける。
「二〇XX年――空が核の炎に包まれた時代。私はそこで、北斗すら凌駕すると謳われた暗殺拳、西斗神剣の伝承者だった」
彼女の瞳には、遠い破滅の記憶が宿っている。
「私のレベルは、略奪者たち数万人を、文字通り指先一つで解体してきた結果。その経験値の総量よ。奏太……貴方のいた平和な日本は、私にとっては御伽話でしかない」
ユリアはくすりと笑い、自らの指先を見つめ、ゆっくりと握りしめた。
「言い換えれば、私たちは“最初から壊れている存在”ってことね。この世界で積み上げた強さじゃない。元の世界で、殺し、壊し、奪い続けてきた“結果”が、そのままここでも通用しているだけ」
視線が、奏太へと向けられる。
「だから、貴方とは根本が違うのよ。積み上げる前の人間と――積み上げ切った後の亡霊」
一瞬の静寂。焚き火の音だけが、やけに大きく響く。
そしてユリアは、わずかに笑みを深めた。
「それでもなお、その差を前にして立っていられるなら……本当に面白いわね、奏太」




