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49話【下される制裁】

殿下の手が私に振り下ろされる前に、その手を止めた者がいた。


「おい、テメェ……ミラを殴ろうとしたなッ……!!」

その赤い鱗と鋭い鉤爪は、殿下の腕に食い込んでいた。

レレ。レレが助けてくれた。

激情に駆られ、怒りに顔を歪める彼女が、殿下の腕を握り潰さんという力で掴んでいた。


「ぐッ!? なッ! お前、あのリザードマンの――」

「答えろッ! オレ様のミラに手を上げようとしたのかッ!!」

「あがッ!? や、やめろ!? 離せッ!! 王子である俺にこんなことをしてタダでは済まんぞッ!! お前もこの女も罪に問われ――」

「知るかそんなもんッ!! テメェはミラを傷つけようとしたッ!! なら許さねェッ!! 誰だろうとぶっ飛ばすッ!! 例えバルトロでもなッ!!」

王様を名前で呼び捨て、しかもぶっ飛ばす宣言とは。相当仲が良くなったみたいだけど、その発言はちょっと危ないような気もする。

でも良かった。レレが来てくれて。

実は少し怖かった。あの状況じゃ反撃できるかどうか分からなかったし、最悪酷い怪我を負わされていたかも。

やっぱりレレは私の英雄である。


「ッ!? そ、そんなことを言っていいと思ってんのかッ!? 国を敵に回す発言だぞッ!?」

「うるせぇッ! 知るかッ! 国だろうがなんだろうがかかってこいッ!! 全部ぶっ飛ばしてやる!! レレの敵はオレ様の敵だッ!!」

やだっ、私のレレカッコよすぎ♡ 惚れ直しちゃいそう♡

けどこの発言、王様に聞かれたらかなりマズそうね。この場にいるのがバカ王子だけで助か――。


「ふむ、随分と楽しそうなことをしているな。レレよ」

あっ、これはヤバイ。

私がフラグを立てたせいか、金獅子のように大柄な男性が現れてしまった。

バルトロ・イージス国王陛下の登場である。

どうかさっきのレレの言葉は聞いていなかったと言って――。

「我の息子と喧嘩か。それとも我が国に対しての宣戦布告か」

隣国っていい所かしら? 亡命を受け入れてくれるといいのだけど……。引き換えとして第三王子の首は持っていくべきかも?

頭の中で国外逃亡の計画を立て始めた。


「ッ! ち、父上ッ! 聞いてくださいッ!! この者たちが俺に暴行を――」

「我の酒を二度も不味くさせる気か、ジェイル」

「ッ!?」

ギロリと獅子のように鋭い眼光で睨みつけると、流石の殿下も黙り込む。

「して、レレよ。我の問いに答えよ」

「レレの敵ならぶっ飛ばすッ! 昼にも言ったぞッ! 誰だろうと許さねェ!!」

「ガッハッハ! そうだったな。なら敵意はなかろう。アルミラ嬢が我が国の公女である限り」

火に油を注いだのではとドキドキしたが、国王陛下は寛大な対応を取ってくれた。亡命はしなくて済みそう。ホッと胸を撫で下ろす。


「ではアルミラ嬢、この状況を説明してくれるか」

「父上ッ!? 何故俺ではなくこの者に尋ね――」

「殿下に体を要求されました。お断りしたところ、暴力を振るわれそうになり、そこをレレに助けていただきました」

端的にことの全容を話す。セレ姉のことは話す必要がない。金的のことは隠しておこう。バレたら正当防衛と言い張るつもりだ。実際そうだし。

「……ほぅ、それは誠か」

「はい、全て真実であると陛下に誓います」

陛下の御前で嘘はつけない。

「ッ!? こンのクソがッ……!! ミラに何しようとしたってェ……!!」

「ひぃッ!?」

怒り心頭のレレは、牙を剥き出しに臨戦態勢を取る。合図があれば、すぐに殿下の体を切り刻みそうだった。

「やめよレレ。罰は我が下す」

「けどコイツ! ミラに――」

「ならそのアルミラ嬢を心配せよ」

「ッ……! ……ああ、悪かった」

陛下の言葉で冷静になり、レレは王子の手を離して私を優しく抱き寄せた。

「もう大丈夫だ、ミラ。オレ様が来たからな」

「ええ、ありがとうレレ」

彼女の胸に抱かれながら、感謝を述べる。


「……さて、ジェイルよ。先のアルミラ嬢の言葉だが――」

「ち、違います父上ッ! 俺はそのようなことッ――」

「ほぅ、いつ我の言葉を遮れるほど偉くなったのだ?」

「ッ!? い、今のはッ……!?」

私たち二人を他所に、陛下は説教の真っ最中。これは殿下がタダでは済みそうにない。

「違うと申すが、その言葉は誓えるのか。我の前で」

「うッ!? そ、それは……!」

「よもや嘘を吐いたなどとは言わんな。王子であろうと、令嬢へみだりに迫り、暴力を振るい、その上罪を認めぬと言うのではあるまいな」

「ッ……!? ち、父上ッ!! こ、この女は悪女ですッ!! 男を誑かし、人を騙す悪女なのですッた!!」

「噂ではアルミラ嬢が悪魔と呼ばれているのは知っていたが、悪女とは聞いたことがない。それに我の見たアルミラ嬢はそのような人物では――」

「陛下は騙されているのですッ!! この者は――がッ!?」

突如、陛下は殿下の首根っこを掴みあげ、片手で彼を持ち上げた。

「二度も我の言葉を遮ったな。ジェイルッ」

「ッ!?!?」

憤怒にも似た陛下の瞳。

その迫力には、見ていた私ですら気圧されそうな程であった。


「――ジェイルよ。アルミラ嬢はリザードマンとの架け橋を作った重要人物である。今後のことを考えれば、彼女の存在は国によって不可欠。既に外交特使が敵になるか否かはアルミラ嬢の心次第となっている。アルミラ嬢が敵に回れば、最悪我が国はリザードマンの集落との全面戦争も考えねばならん」

「あがッ!?」

殿下の首は徐々に締まり、苦しそうに悶えていた。

「それが分からぬほど愚かだったとはな、ジェイル。……其方には心底失望したぞ」

「ッ! ゲホゲホッ!?」

手を離されると、殿下は蹲り必死に空気を吸った。


「……アルミラ嬢、今回は我が息子が迷惑をかけた。罰は其方が決めよ」

私に罪状を委ねてくれるとは、陛下なりの誠意なのだろう。なら遠慮なく。

「では今後、私とその親しい人物との接触を殿下に禁じていただきたく」

仕返しをされるのも面倒だけど、流石に首を斬らせる訳にはいかない。ならこれが妥当な罰だろう。関係者も禁じておけば、私の周囲にも害される心配はない。

「わかった、そのように言明しよう。今回のことはアルミラ嬢の名誉を考え公表はしない」

「ッ!? 父上ッ! 何故俺が罰を――」

「ジェイル」

陛下も流石に、我慢の許容を超えただろう。

陛下の表情が、全てを物語っている。

「それ以上異論を申せば、其方の王位継承権は剥奪する。大きな罰を与えられなかった事を感謝し、部屋で己が行いを悔い改めていろ」

「ッ!? ……ッ! ……か、かしこまり、ました……!」

悔しそうに下唇を噛み、殿下は自室へと去っていく。

殿下も流石に、従う他なかったようだ。


「助けていただき感謝します、国王陛下」

殿下の姿が見えなくなった後、陛下に感謝を述べる。

「気にするでない。元はと言えば我の愚息の行いが発端だ。礼ならレレにでも言うと良い」

「そうだぞ! オレ様をもっと褒めろ!! ミラを助けたのはオレ様だぞ!!」

「ええそうね。ありがとう、レレ。とってもカッコよかったわ♡」

私がレレの頭を撫でると、彼女は満足気に「んふぅ~♪」と鼻から息を吐いた。

「そういえばレレ、どうしてここに居るの? それに陛下まで一緒に」

「ああ! ミラを探しに来た! 1人じゃ退屈だったからバルトロも連れてきた!!」

この子、そんな軽いノリで陛下を誘っちゃったの? 相手王様だってことわかってるのかな?

「にしてもアイツ悪いやつだな! 本当にバルトロの子供か?」

「昔はああでは無かったのだがな。最近は良くない噂も多い。今回の婚約破棄もその一つとなるやもしれんな」

少しだけ遠い目をして陛下は言葉を漏らす。


「そういえば、ユリアナ嬢と関わり始めた頃から様子がおかしかったような……」

「ユリアナ令嬢、会場で第三王子殿下の隣にいた方ですか?」

「うむ、偶然かもしれぬが」

ユリアナ令嬢、桃色髪の可愛らしいお方だったわね。裏を引いているような人物には見えないし、考えにくいけど。

一応、頭の片隅に留めておこう。


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