48話【第三王子殿下】
「んぅ~! セレ姉のマッサージ効いたぁ~」
宮殿の廊下。
私は一人伸びをして、メインホールへと向かっていた。
セレ姉にドレスの着替えを手伝って貰うついでにヘッドスパ以外のマッサージも色々してもらっていた。
最近はリザードマンの政策とかシリコンの販売とかで働くことも多かったから、久々の労働に体が疲れていたみたい。
セレ姉のおかげでもう完全回復。心も体もバッチリである。
時刻は既に午後7時を回っている。既に日は沈み、あと30分もすればパーティーはお開きになるだろう。
その前に国王陛下にご挨拶して、あとはレレを連れてお父様の馬車に乗せて貰おう。
セレ姉は一足先に帰ってしまった。仕事が残っているからと、早めに帰らなければいけなかったらしい。
やっぱりセレ姉は私と違って大人なのだと改めて思う。けど、そんな年の差さえ愛おしく感じる♡
年の差恋愛も素敵だわ。まるで別世界の人と恋をしている感じがするから♡
異世界人である私はそう思いながら、長い廊下でコツコツと足音を奏でる。
庭園と繋がった開放廊下を、立派な柱と庭園の薔薇を眺めながら練り歩く。
その道中――。
「アルミラ・ランドリス」
突如、柱の向こうから呼ばれた。
柱の裏から姿を現した人物。その人の登場に、少々目を丸くした。
「……第三王子殿下」
金髪の髪をたなびかせながら、私の前に姿を現した。
イージス帝国第三王子、ジェイル・イージス。
ローザとの婚約破棄騒動で会場に波乱を起こした人物でもある。
「帝国の三つ目の太陽、ジェイル王子殿下にご挨拶申し上げます」
相手は王族、目上の人物。礼儀正しいカーテシーで応えるべきだろう。
「こんな時間まで客室にいたのか? もうパーティーは終わるぞ」
「久しぶりのパーティーで少し疲れてしまい、客室で休ませていただきました。今から会場に戻るところです」
「フゥン、客室で休んで……か」
なんだか、嫌な感じの顔ね。
端正な顔立ちでも、不敵な笑みは似合わないみたい。
私の体を舐めるように見る視線に、悪どいことを考えるような表情は直感的に嫌な予感を抱かせた。
「殿下はこちらで何を?」
「ああ、俺か? まあ散歩のようなものだ。パーティーに少々退屈してな」
「そうでしたか」
嘘ね。散歩なんかではない。
殿下が声をかけてくるまで、足音はしなかった。待ち伏せていたのだろう。状況的に考えて私を。
関わらない方が良さそう。早めに話を切り上げて会場に戻るべきだわ。
「それでは王子殿下、私はお先に会場へ戻らせていただきます。父が待っていますので」
お父様を理由に彼の横を通り過ぎようとした。しかし――。
「ッ……!」
手首を捕まれ、壁に追いやられた。
そして殿下はドン!と壁に手をつかれ、私の行く手は阻まれる。
壁ドンは好きな人にされればトキメクけど、初対面の人にされたら不快だわ。
「……何をするのですか、王子殿下」
「お前が逃げようとするからだッ」
「そのようなことはありません。会場に戻ろうとしただけです。……それより手を離しては頂けませんか、痛いので」
「俺から逃げないと約束するなら離してやる」
「逃げはしません。会場には戻ります」
「ならダメだなッ」
加減を知らない力で、私に手首を掴みあげる殿下は不愉快なほど下劣な笑みを浮かべる。
既視感があるわね、この嫌な感じ。前世で何度か経験したわ。
「ッ……それで、なんの用でしょうか」
すると殿下は私の耳元に顔を近づけ、
「お前――あの変態と寝てただろ?」
王の首を獲った兵士にでもなったのか、自慢気にそのことを尋ねてきた。
「身に覚えがありませんね」
変態に抱かれた覚えはない。セレ姉になら抱かれたけど。
「とぼけんなよッ。お前がマルシアとかいう奴とヤッてるとこ見たんだよッ」
あの時、扉も窓もカーテンも締め切っていた。扉には鍵がかかっており、覗くことなど出来なかった。
まさか王子の権限を使って従者に扉を開けさせたのか。それで私たちの行為を覗いたと。まったく……変態はどっちなのかしら。
「バラされたくねぇよなァ? 婚約もまだの令嬢が男と寝てたなんて知られたら嫁の貰い手が無くなるもんなァ?」
「……それで、何が仰りたいのです」
まどろっこしい言い方に腹を立て、単刀直入に尋ねる。
するとまぁ、実に予想通りな言葉が返ってきた。
「バラされたくなきゃ、俺にもヤラせろッ……!」
「……確か殿下には、ユリアナ令嬢という女性がおりませんでしたか」
「関係ないなッ。どうせお前だって他の男とも寝てんだろ? なら俺とヤるのもいいじゃねぇかッ」
「……」
やっぱり、このパターンね。
前世でもたまにある事だった。誰にでもヤラセてあげる女だと思われて上からヤラせろと威圧してくる男性。
酷いパターンだと、行為中の写真を盗撮されて、ネットにばら撒かれたくなかったら言う通りにしろ、とか言われたわ。今の彼みたいに。
本当に呆れる。こういうことをするヤツは世界が変わってもいるのね。
――でもまあ、こういう輩の対処法は一つ。それも全世界どころか異世界共通の対処法。
「言う通りにしとくのが身のためだぞ? コッチはもうヤる気――」
「おりゃっ」
キィインッ!!と漫画的なオノマトペが出そうな膝打ちを食らわせる。
急所蹴り。もしくは金的という。
「ッ!?!? ッ~~~!?!?」
悲鳴も出せずに、殿下はその場で股間を抑えて蹲る。地球の男性も全く同じ反応を見せていたわ。
はァ……まったく、脅してヤラセて貰うなんて虚しくないのかしら? 第一、それで女性が言うこと聞くわけないでしょう。エロ漫画じゃあるまいし。
「私、脅しで体を許すほど安い女ではありませんので、他を当たっていただけます?」
彼らには誠実にお願いするという考えはないのかしら。私も本気で迫られれば、吝かではない。
「ッ~~~!? お、お前ェッ!? お、王子の俺にこんなことしていいと思ってんのかァッ!?」
股間を抑えて蹲りながらまたしても脅しをしてくる。そんな格好で言われてもねぇ……。
「お前ェッ!? 王族への暴行は反逆罪だぞッ!!」
「ここには私たち以外に誰もいませんよ? それなのにどうやって反逆罪を証明なさるのですか?」
「俺が父上に訴えれば済む話だッ!!」
偉いパパに言いつけるとは、国民的キャラクターの真似だろうか。
「では私も陛下にお伝えしましょう。第三王子殿下に体を要求され、暴行を振るわれたと。あっそうだ。ついでに体も触られて辱められたと証言しましょう。王族でも子女暴行は重罪ですよ?」
「ッ!? そ、そんなの証拠は――」
「ないですね。けどそれは殿下も同じでしょう?」
証明する術も証言する第三者もいない。この状況では当事者同士しか真実を知らない。
なら捏造し放題。いくらでもでっち上げられる。
それに例え証拠があろうとも、私の行いは正当防衛になる。掴み上げられた手首には痣ができていることだろう。これを見せれば一発ね。そう思うと暴行を受けた跡がある私の方が状況的に強いわね。殿下の玉が潰れてない限りは。
「ッ!? く、クソッ!! ふざけんなァ!? こんなことしてタダで済むと思うなッ!!」
まだ吠える元気があるのね。ならもう少し、心を折っておきましょうか。後々噛みつかれても面倒だし。
「ああ、そうそう。言っておりませんでしたが殿下。脅しはなくてもアナタと寝ることは絶対にありませんよ。だって……」
殿下が抑えた股間に目をやる。
そして、鼻で笑うような嘲笑を向け、
「王子殿下のお粗末なソレでは、私を満足はさせられそうにないので」
膝に当たった感触を思い出し、指で「これくらい」と小さな物差しを作る。
「ッッッ~~~!?!?」
すると殿下は羞恥に悶えたように、顔を真っ赤に染めた。
実際のことを言うと、大きさがそこまで関係ないんだけどね。結局は私のことをちゃんと愛して求めてくれているかが大事だから。
だけど、こういう輩にはこういう言葉が一番効く。だから攻撃手段としてそれを引き合いに出すのである。
「ッ! こ、このッ!! お前ェ!! ふざけんなクソビッチがァッ!!」
殿下は痛みを堪え、力を振り絞り私に拳を振るい上げた。
殴るつもりか。これは受けておこう。顔に傷が出来れば、圧倒的に私の方が優位に立てる。殿下の偉いパパにどう証言しようか考えながら、歯を食いしばるっていると。
――ガシッ!




