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36話【シリコン完成】

「やったわ! シリコンの完成よ!」

異世界初の人工素材、シリコンの誕生である。


邸宅に用意された工房にて、三日三晩お母様をこき使った甲斐があったわ。

正方形に輝く半透明なシリコン素材。弾力性に秀でた材質である。嗚呼、この感触、懐かしいわ♡

「お母様ありがとうございます! おかげで素敵な物が出来ました!!」

こき使われた馬車馬……基お母様は満身創痍で工房の作業台に突っ伏していた。

「はぁっ……はぁっ……、そ、そんな礼要らないから……と、とっとと約束を守り――」

「まぁ! お礼は要らないだなんてお優しいお母様♡ ではその厚意を無下にはいたしません! 必ず最高の商人に売って儲けを出してみせます!」

「ちょっ……!? だ、だから約束――!」

「それでは失礼しますわねお母様! さようならぁ~!」

「ま、待ちなさいッ……! こ、この悪魔ぁぁああああああ!!」

彼女の絶叫を背に、私は工房を去る。

心配しなくてもちゃんとチャールに当主の座は譲るわ。

公爵家を継ぐつもりなんて、はなからないのだから。



「これが……シリコンですか?」

「不思議な素材だ。見たこともない」

「なんだこれ!? グニグニするのに壊れねェ!?」

私の自室にて、リーシャ、ガウル、レレの三人を集めて、シリコンの初お披露目会を開いていた。

珍しい素材に興味津々である。なかなかの好感触ね。


「これが本当にあの珪石なる石が素材となっているのですか?」

「ええ、そうよ」

「なんで硬ぇ石からこんな柔らかいものが出来んだ? 不思議だな!」

「レレが見つけてくれたお陰でできたの。本当にありがとう」

「それでお嬢、このシリコンをどうするんだ?」

「勿論売るの。そしてお金を稼ぐわ!」

そうして夢の奴隷ハーレム。あとは自立資金の貯蓄と念願の『おもちゃ』作成。

できることもやることも山積みね。楽しくなってきたわ♡


「アルミラ様。売るとは仰いますが、一体どのように売るおつもりですか?」

「それが問題なのよねぇ……」

しかしまたしても、次の壁にぶつかる。

サンプルはできた。これで商品の証明ができる。だけど、肝心の買ってくれる商人が居ない。

流石にこれはラズリアのように人材が降って来るのを待つ訳にもいかない。

地道に足で探す他ない。


「とりあえず、タヌキおじさんの所にでも行ってみましょう」

タヌキおじさん、ガウルが売られていた奴隷商店の主人である。

奴隷を専門だとしても、彼は商人。繋がりのある他の商人が居るかもしれない。

後ついでに、奴隷たちの生活が改善されているかも見よう。万が一約束を違えられていたなら、あの奴隷商店は理由不明の閉店セールを実施することになる。

「タヌキ? 動物狩りに行くのか! ならオレ様も連いて行くぞ!」

「うぅーん、ごめんねレレ。アナタはお留守番なの」

「な!?」

思わぬ拒否にレレは絶句する。

社交パーティーでのお披露目がまだのレレに、外を出歩かせるわけにはいかない。

ごめんなさい。美味しいお菓子を買ってきてあげるから我慢してね。



奴隷商店に行くのは1ヶ月ぶりね。楽しみだわ。前にいた子達は元気にしているかしら?

スキップ混じりにリーシャとガウルを連れてタヌキおじさんの所へと向かっていた。

しかし、ルンルンな気持ちを打ち砕くような光景が、奴隷商店に着くなり私の眼前に広がった。


『クナッチ奴隷商店 閉店』


「…………はい?」

奴隷商店に貼られた張り紙を見て、私はあんぐりと顎が抜け落ちる。

「……リーシャ」

「はい、なんでしょう」

「これはアレかしら、今日の営業を終了した的な意味の――」

「いえ、店の雰囲気からして潰れていますね」

「…………え?」

現実が受け入れられない。

タヌキおじさんの奴隷商店は――潰れていた。

えっ? 私の奴隷ハーレムは? 愛しのあの子たちは? 何処へ行ったの? 夢? これは悪い夢なの?

血反吐を吐いて地面に膝から崩れ落ちそうだった。


「普通に考えるなら、あの店主が金を持ち逃げしたのだろう」

「え……? は……?」

「お嬢の渡した金があれば、一生食うには困らない。商売をやる意味がなくなり店を捨てて去ったと考えるのが妥当だ」

「…………フフフ」

あーはいはいなるほどそうなのね。

よくわかったわタヌキおじさん。アナタはそういう人なのね。よくわかったわ。

アナタは私との約束を違え、それどころか私の愛しい人になる予定だった人まで奪っていった。

プツンと、何かがキレた。


「ガウル、リーシャ。……今夜はタヌキ鍋にしましょうか」

タヌキ狩りへ行こう。レレも連れて行こう。身ぐるみ剥いで皮すら剥いで、タヌキの肉を使って鍋を作りましょう。

そうすれば、少しは私の気も晴れるかもしれないわッ……!


「ま、待っ……さい……! どう……お金……は!」

夕飯の食材を探そうとした時、店の中から声がした。

その声は、何やら聞き覚えのあるタヌキのような声だった。

あら? お利口なタヌキねぇ。ちゃんとお家で狩られるのを待っていたのかしら?


「ガウル」

「なんだお嬢」

「扉を破壊して。壊したら店の前で見張ってて」

タヌキが逃げ出さないように。

「了解」

なんの迷いもなく、ガウルは奴隷商店の扉を蹴破った。

バキィ!と盛大な音を立てて、木製の扉はへし折れた。

「ひぃ!? な、なんだァ!?」

タヌキの悲鳴が店内から聞こえてくる。

扉が地面に倒れた衝撃で舞った土埃で、視界が悪い。

だが、間違いなく奴がいた。

よかったわぁ、探す手間が省けた。あとは調理するだけねぇ。


「私との約束を違えるなんてタヌキにしては据わった肝ですねぇ? 煮込んだら美味しく食べられるかしらァ? ……ガウル、剣を貸して。この食材を三枚におろして――」

ガウルの大剣でタヌキの三枚おろしをしようとした時、ようやく気づいた。


「ゴホッ……ゴホッ……、全く誰よぉ~。アグレッシブな人ねぇ~♪」


男性の上擦ったような喋り声。

土埃が晴れ、タヌキ以外の人がその場にいたことを、ようやく認識できる。

20代半ばほどの男性だろうか。上下ピンクのフリフリな服に、綺麗に塗られた黒のマニキュアがよく映える。スラリとした体躯に、180はあるかと思われる高身長。パッチリメイクで目元を大きく見せた目に、唇に塗られた真っ赤な口紅が特徴的である。


「それでぇ、貴族のお嬢ちゃん? ノックの仕方を忘れちゃったのかしらぁ~?」


厚化粧の男性が、静かにこちらを睨みつける。



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