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23話【赤っ恥のレレ】

「レレさんの居場所をご存知ありませんか?」

大男さんに座りながら尋ねると、全員が首を傾げた。

「レレ? レレってあの『赤っ恥』か?」

「ああ、鱗が赤けェ変わり者のアイツか?」

「あんま姿見てなかったから忘れてたぜ。『赤っ恥のレレ』」

赤っ恥。その言葉がどうも引っかかる。

しかしここで聞くのは良くなさそう。ちゃんとレレさん本人から聞いた方が良さそうね。


「それで彼女が何処にいるか知りませんか?」

「うぅ~ん……アイツは俺たちの前には滅多に姿見せねェからなァ……」

「何処にいるかは流石にわかんないぜ。申し訳ない、お嬢さん」

全員が申し訳なさそうに気を落とす。

そっか、知らないならしょうがないわ。集落を手当り次第探す他ないかと、そう思った時――。


「レレの居場所は知りませんが、家ならわかるぜ。お嬢さん」

椅子になってくれている大男さんがそう言ってくれた。

「本当ですか!」

「ああ、ここを西に1キロくらい行ったとこの家だ。赤い旗みてぇなのが目印に付いてるからすぐわかるぜ」

とても重要な手がかりだわ。そこへ行ってみることにしましょう。居なければ、家の前で待っていればいずれ帰ってくるはずよね。

ストンと大男さんの背中からおり、四つん這いになった彼と目線を同じようにするよう膝立ちになる。

「色々親切にして下さりありがとうございます♡」

――ちゅっ。

三度目の、頬へのキス。ほんの心ばかりのお礼である。いつかもっとすごいお礼をしてあげないと♡


「ッ!?!? ここ、こここ、こちらこそ! 本当に、ご、ご馳走様ですッ!!!」

「クソッタレェッ!! なんでテメェばっかいい思いしてんだァッ!!」

「図体デカイだけのくせこのクソ野郎ッ!! いっぺんシバキ回してやるッ!!」

「シュルルルル!! 精々吠え面かいてろ負け犬共ッ!」

「アァん!? ぶっ殺されてぇのかお前ェ!!」

またしても喧嘩が勃発。喧嘩好きな方々なのね。お茶目なで可愛い。

「ふふ♪ また来ますねっ」

その姿を横目に、私は集会場を後にした。



「赤い旗の家……これのことよね?」

西に1キロ程歩いた頃、大男さんが言っていた特徴の家を見つけた。

ツリーハウスの天井に高々と吊るされた赤い旗。確かにわかりやすい。

2メートルほどのハシゴを易々と登り、家の扉を叩く。


「あぁ~……、誰だよ朝っぱらからぁ……――ッ!」

寝ぼけたように目を擦りながら扉を開ける彼女。しかし私と目が合うなり、鳩が豆鉄砲でも食らったかのように目を見開いた。

「こんにちは、レレさん♡」

「お、……おう、ミラか。……、……」

「……?」

なんだか一昨日よりもよそよそしい。なんだか目も合わせてくれないし、顔が赤い気もする。もしかして風邪かしら? 心配だわ。

「んで、オレ様の家になんのようだ? こんな朝から」

「もう昼過ぎですよ。もしかしてずっと寝ていたんですか? よく見れば目にクマも……」

「ッ! こ、これはお前のせいだろうがっ! お前らが、その、あ、あんな……ごにょごにょ」

「……?」

様子がおかしい。これはイケナイ。相当体調が悪いみたい。


「とりあえず寝てください。私が看病しますから」

「えっ、ちょ、おい! オレ様は別に体調なんか悪くねぇぞ! と、というか勝手に入んなよ!」

「わかりました。レレさんが寝たら出ていきますから」

強引に彼女を家の中に押し戻す。何故だか抵抗は弱く、私の体に触れることを遠慮しているみたいだった。こちらとしては都合がいいから助かるけど。

無理やりベッドに押し込む。

「ちょっとおでこを触りますね」

「なな、何してんだ!?」

「熱がないか確かめてるんです」

右手で彼女のおでこに触れた感じ、私と同じくらいの体温だった。

リザードマンは人族より体温が低いから、これは高めかも。

「お、お前オレ様に要件あって来たんじゃねェのか!? なんでこんな、看病みたいな真似してんだ!?」

「みたいじゃなくて看病しているんです。少し安静にしていてください。話は横になりながらでもできますから」

現代ではないため家に蛇口はない。代わりに水の入った水桶がある。これを使わせてもらおう。

持っていたハンカチを濡らし、レレさんのおでこに乗せる。

「だからオレ様は病人じゃ――」

「わかりましたから、ジッとしていてください」

嫌々言いながら本気で抵抗しようとはしなかった彼女。隠しているつもりでも実際は大分疲労しているのだろう。

弱ったレレさんに掛け布団と思われる麻でできた布を被せる。輸入を増やせればふかふかの羽毛布団も提供できるのにと、少しだけ歯痒く思う。

横になる彼女の隣で床に座り、布団越しから体をさすってあげる。

体調の悪い時は心細くなるもの。人肌に当たれば多少は和らぐでしょう。私も弱ったレレさんを支えてあげたいし。

「……ったく、一体何しに来たんだよ。お前……」

悪態を吐きつつも、大人しく寝転がるレレさん。こうして看病されるのも満更ではないようだ。ツンケンしちゃって可愛い。


「お家にはお1人ですか? ご両親は?」

「母ちゃんはだいぶ前に死んだ。父親は知らん」

「そうでしたか。無粋なことを聞いて申し訳ありません」

「気にしてねぇよ。本当に前のことだしな。父親なんざ顔も名前もどこのどいつかも知らねぇしな」

両親もなく家で一人。少し前の自分を思い出してしまうわ。

「同情すんなよ?」

「ええ、しませんわ。そういうのが一番嫌ですものね」

「……おう。まぁ、そうだな。――そんでなんで来たんだよ? ミラ」

「レレさんに会いたかったので。あと、少々お尋ねしたいこともありまして」

「あ? オレ様に聞きたいこと?」

寝転がったまま、レレさんは私に視線を送る。

「はい。レレさんが何故狩りをしたがるのか、気になりまして」

その質問にレレさんは数刻押し黙る。迷っている様子だった。

しばらくして「ミラならいいか」と口を開き始める。


「オレ様、鱗が赤いだろう」

「ええ、そうですね」

まるでルビーのように綺麗な鱗だと、初めて見た時から思っていた。

「これ、生まれる気なんだ。なんでこうなってんのかもわかんねぇ。母ちゃんも教えてくれなかった」

「リザードマンの中には鱗の色が違って産まれてくる子がいたりするのですか? その、突然変異のような……」

「少なくともオレ様が見たリザードマンは全員青い鱗だ。族長も青以外は見たことねぇって言ってたぞ」

前例がない赤い鱗。本人に心当たりもなく、それを知るレレさんの母親も今は故人である。解明は難しそう。


「この鱗の色で、集落の連中に変な目で見られてたんだ」

「……」

「赤は気味が悪いとか、不吉だとか、ガキの頃はよく言われた。けど最近はあんまり言われなくなった。前の族長から今の族長に変わったくらいか? そん時から言われることはなくなった」

「……族長様から大切に思われているのですね」

レレさんが白い目で見られないように手を打ったのだろう。やはり優しい方だったのね、族長様は。

「ああ? なんでそう思うんだよ。時期は絶対偶然だ。だってあのジジイオレ様を狩りに行かせようとしないんだぜ! 村の決まりとか偏屈なことを言ってよォ!」

やはりすれ違いはあるようだった。

族長は確かに村の決まりがあると言った。しかしそれよりも、レレさんの身を案じていた。話し合いの場は作らなきゃいけなさそうね。


「――まぁ、って言っても全部が全部無くなったって訳じゃねぇよ。未だにオレ様を変な目で見る奴はいる。物珍しいのは事実だからな。――けどッ!」

ギュウッと三本指の手をぐっと握りしめた。


「オレ様のことを『赤っ恥』って呼ぶことだけは絶対に許さねぇ!!」

赤っ恥。それは集会場でも聞いた言葉だ。

「それはどういう意味ですか?」


「……オレ様は、苗字がねェ。姓を持たない、ただのレレ」

「それがどう赤っ恥に?」

「そうか、人族のミラじゃわかんねぇか。リザードマンの姓は父親から引き継がれるんだ。けど、オレ様の父親はわかんねぇ。母ちゃんも知らないって言ってた。――だから苗字の付けようがねェ。苗字がないリザードマンなんてリザードマンじゃない。まるで人族の平民みたいだ。……だから恥。――俺の赤い鱗と因んで『赤っ恥』……そういうことだ」

「酷い話ですね。ただ苗字がないだけなのに」

閉鎖的な場所では凝り固まった考えや差別が根付きがちである。当事者に悪いなんて意識はなく、それが当たり前として悪習が風習となる。

苗字の有無に関しては、人族も言える話だけど。


彼女はベッドから飛び起き、高らかに声を上げた。

「だからオレ様はな、見返してやるんだよッ! オレ様を赤っ恥って呼びやがったヤツ、指さして笑いやがったヤツ、全員ギャフンと言わせてやる!!」

「その為に狩りを?」

「ああそうだ! 狩りをして! めちゃくちゃ強くなって! すげぇ戦士になる!! そうすれば誰も俺を笑えねぇッ! 赤っ恥とも呼べねぇ! そうだろッ!!」

「……っ、ええそうですねっ。きっと近いうちにギャフンと言わせられますよ」

「シュルルル! やっぱりミラはわかってんな!」

先日のような明るい表情。その笑顔に、私の心が満たされるのを感じた。


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