表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/50

24話【赤龍の英雄】

「へへっ! やっぱりミラは良い奴だ! 一昨日のアレでちょっと気まずかったけど……」

「一昨日のアレ?」

「ッ!? い、いや何でもねぇぞ! 全くなんも見てねぇぞ!?」

「……?」

慌てふためき何かを誤魔化すレレさん。一昨日のアレってなんのことかしら?

疑問は残りつつもレレさんは言葉を続ける。


「それにミラはオレ様のこと変な目で見なかったろ? 初対面なのに、笑って声掛けてくれたろ」

彼女はちょっと照れくさそうに首筋を掻く。

「赤い鱗のリザードマンって、最初は気味悪がられること多いんだよ。実際、他の人族は変な目でオレ様を見てた。――けどミラの目は、なんかコウイ的?な目だった。だからお前に声をかけた」

「まぁ、そうでしたのね」

しかしそうか、好意的な目か。でも多分その原因はレレさんの服装がエッチだったからね。不純な気持ちで見てごめんなさい。


「私はレレさんを初めてみた時から、赤い鱗が綺麗だと思っていましたよ」

エッチとは思っていたが、これも嘘ではない。

「っ! ほ、本当か!?」

嬉しそうに顔を寄せてくる。シッポもご機嫌そうに揺れている。正直で可愛い。

「ええ、勿論です。まるで宝石のルビーのように輝いていて、とても美しいと感じました」

「ほ、宝石……」

ニヨニヨと彼女の頬が緩んでいる。

「それに私の国では、赤は情熱を表す意味の色なのです」

日本では、情熱の赤とも言うからね。

「情熱? 色に意味があるのか?」

「ええ。赤く燃え上がる炎のように勇猛で、周囲すら明るく照らしてしまうほどの赤。そして、目標に突き進むレレさんは情熱そのもののようです」

「っ!? ッ~~~~~!!」

嬉しそうに、悶えるように、少し恥ずかしそうに、彼女は枕をバフバフとベッドに叩きつける。

「み、ミラが初めてだ! そんな風に言ってくれたヤツ! なんかこう……すごく胸がポカポカするぞ! 嬉しい感じだ!」

「そう言っていただけ私も嬉しいですっ」

よかった。完全に一昨日の調子に戻ったみたい。それどころか前より元気ね。


「……ミラになら、見せていいかも!」

「え……?」

すると突然立ち上がり、彼女は「ちょっと待ってろ!」と部屋の中の物置、その奥の奥まで潜り込んで何かを取り出そうとしていた。

そして、取り出したのは……。


「……本?」

「ああ! ミラにも読ませてやる! あの偏屈ジジィに読んでるとこを見られた以外は、見せるのはお前が初めてだ!」

「……! い、いいんですか?」

初めてが、私。それはなんとも胸が暖かくなる言葉だ。そんな嬉しい事を言われて、喜ぶななんて無理な話だわ。

きっととても大切な本だろうに、それを見せてくれるなんて。……しかも、初めて……♡ 嗚呼嬉しい。どうしてそんな嬉しいこと言ってしまうの? レレさんは♡

「横に座れ! 一緒に読むぞっ!」

「ええっ、失礼します」

嬉しさでのたうち回りたい気持ちを抑え、ベッドに腰かける彼女の隣に座る。

分厚い動物の皮を表紙に、羊皮紙で作られた本編を動物の骨をリングに留めている。

本のタイトルは『赤龍の英雄』


そしてレレさんは本を開き、私たちはそれを一緒に読み始めた。

何度も読み返した跡があり、本はボロボロで所々鉤爪で穴が空いているページもある。

――本の内容を要約するとこうだ。

人型の赤龍がある日、住んでいた村を捨てて旅へと立った。そこで魔物と戦い、盗賊と戦い、時には人を助けた。地上で戦士として名を馳せた彼は、多くの人間に尊敬される英雄となった。

王道な英雄譚。何者でもない赤龍が、何者かになるまでの人生の軌跡を描いた物語。族長が言っていた英雄譚はやはりこれのことだったのね。

物語の最後では、赤龍は最愛の人を見つけ彼女と結ばれて完結する。


「――素敵なお話ですわ。赤龍の英雄が緻密に描かれていてとても面白かったです」

何より最後に赤龍が愛を見つけられたのが素晴らしい。やはり愛は素晴らしい。愛は世界を救うわ。

「そうだろ! 面白いだろ! これオレ様の母ちゃんが書いたんだぜ!!」

「レレさんのお母様が?」

確かに手作り感のある本だったし、全部手書きであった。

「とても文才に秀でた方だったのですね」

「ぶんさい? ……おう! 母ちゃんはすごいヤツだったぞ!!」

ニカッと笑うレレさんはとても眩しい。まるで真っ赤な太陽のようだった。


「これの本があったから、オレ様は自分の鱗を嫌わずに済んだんだ! この赤龍みたいな赤い鱗だからな! いつかこの、赤龍の英雄みたいに、俺のスッゲェ戦士になりたい! あと全員をギャフンと言わせる!」

「きっとなれますわ」

「きっとじゃねぇ! 絶対なるんだよ!」

「ふふっ、そうですね。絶対……レレさんならなれます」

「へへ! 当たり前だっ!」

胸を張って言い切る姿は、人を信じさせるほどを自信に満ち溢れていた。


赤龍の英雄。これはレレさんのお母様が作ったもの。多分、レレさんのために。

これがどんな意図で作られたかは、レレさんのお母様が亡くなっている以上わかることはない。

だけど、もしこれが、赤い鱗として生まれたレレさんが、自分の鱗を嫌わないようにお母様が作り出したお話だと、赤龍の英雄だとしたら……それはとっても、素敵なお話だわ。


「……レレさん」

「あん? なんだミラ?」

「レレさんは狩りをしたいのですよね。赤龍の英雄になるため、周囲を見返すため」

「……ああ、そうだ」

彼女の決意は固い。それは目を見れば十分にわかる事だった。


「では、今日した話。族長様にもしてみませんか?」

「ッ!? なんであの偏屈ジジィに……! オレは……オレ様はミラだから話したんだ……!! あんなわからず屋には、話したくも――」

「例えわからず屋でも、話さないとわかってくれませんよ」

「……ッ!」

「人を動かすのは、人の言葉です。レレさんがお母様の遺した本の言葉に動かされたように、族長様を動かすにはレレさんの言葉が必要です」

「オレ様の……言葉……」

「ですから、対話を拒まず、一度だけ、族長様と話してみませんか?」

「……、……」

悩むように押し黙る彼女。そんな彼女に、言葉をかけた。


「私は、レレさんが英雄と呼ばれる姿を見てみたいです」


「……!」

「貴女が英雄と呼ばれ、多くの人を救う姿を、見てみたいです。だからお願いします。……一歩だけ、踏み出してくれませんか」

レレさんには、止まって欲しくない。

ただ前を突き進んで、夢に向かって走り続けて欲しい。

これは彼女のためでなく、私の我儘である。

だって私は――夢を語っているレレさんが一番好きなのだから。


「……っ、……わかった。――ミラに英雄のオレ様を見せてやる! その為なら、の偏屈ジジィとだって話をしてやる!!」

「っ! ありがとうございます!」

よかった。きっとこれですれ違わない。彼女は夢を追い続けられる。

「い、言っとくけど、族長のためじゃないぞ! ミラのためだからな!」

「ええ、是非ともそれでお願いします♡」

その言葉が何より嬉しい。

だってそれは、私の為に英雄としての一歩を踏み出してくれるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ