24話【赤龍の英雄】
「へへっ! やっぱりミラは良い奴だ! 一昨日のアレでちょっと気まずかったけど……」
「一昨日のアレ?」
「ッ!? い、いや何でもねぇぞ! 全くなんも見てねぇぞ!?」
「……?」
慌てふためき何かを誤魔化すレレさん。一昨日のアレってなんのことかしら?
疑問は残りつつもレレさんは言葉を続ける。
「それにミラはオレ様のこと変な目で見なかったろ? 初対面なのに、笑って声掛けてくれたろ」
彼女はちょっと照れくさそうに首筋を掻く。
「赤い鱗のリザードマンって、最初は気味悪がられること多いんだよ。実際、他の人族は変な目でオレ様を見てた。――けどミラの目は、なんかコウイ的?な目だった。だからお前に声をかけた」
「まぁ、そうでしたのね」
しかしそうか、好意的な目か。でも多分その原因はレレさんの服装がエッチだったからね。不純な気持ちで見てごめんなさい。
「私はレレさんを初めてみた時から、赤い鱗が綺麗だと思っていましたよ」
エッチとは思っていたが、これも嘘ではない。
「っ! ほ、本当か!?」
嬉しそうに顔を寄せてくる。シッポもご機嫌そうに揺れている。正直で可愛い。
「ええ、勿論です。まるで宝石のルビーのように輝いていて、とても美しいと感じました」
「ほ、宝石……」
ニヨニヨと彼女の頬が緩んでいる。
「それに私の国では、赤は情熱を表す意味の色なのです」
日本では、情熱の赤とも言うからね。
「情熱? 色に意味があるのか?」
「ええ。赤く燃え上がる炎のように勇猛で、周囲すら明るく照らしてしまうほどの赤。そして、目標に突き進むレレさんは情熱そのもののようです」
「っ!? ッ~~~~~!!」
嬉しそうに、悶えるように、少し恥ずかしそうに、彼女は枕をバフバフとベッドに叩きつける。
「み、ミラが初めてだ! そんな風に言ってくれたヤツ! なんかこう……すごく胸がポカポカするぞ! 嬉しい感じだ!」
「そう言っていただけ私も嬉しいですっ」
よかった。完全に一昨日の調子に戻ったみたい。それどころか前より元気ね。
「……ミラになら、見せていいかも!」
「え……?」
すると突然立ち上がり、彼女は「ちょっと待ってろ!」と部屋の中の物置、その奥の奥まで潜り込んで何かを取り出そうとしていた。
そして、取り出したのは……。
「……本?」
「ああ! ミラにも読ませてやる! あの偏屈ジジィに読んでるとこを見られた以外は、見せるのはお前が初めてだ!」
「……! い、いいんですか?」
初めてが、私。それはなんとも胸が暖かくなる言葉だ。そんな嬉しい事を言われて、喜ぶななんて無理な話だわ。
きっととても大切な本だろうに、それを見せてくれるなんて。……しかも、初めて……♡ 嗚呼嬉しい。どうしてそんな嬉しいこと言ってしまうの? レレさんは♡
「横に座れ! 一緒に読むぞっ!」
「ええっ、失礼します」
嬉しさでのたうち回りたい気持ちを抑え、ベッドに腰かける彼女の隣に座る。
分厚い動物の皮を表紙に、羊皮紙で作られた本編を動物の骨をリングに留めている。
本のタイトルは『赤龍の英雄』
そしてレレさんは本を開き、私たちはそれを一緒に読み始めた。
何度も読み返した跡があり、本はボロボロで所々鉤爪で穴が空いているページもある。
――本の内容を要約するとこうだ。
人型の赤龍がある日、住んでいた村を捨てて旅へと立った。そこで魔物と戦い、盗賊と戦い、時には人を助けた。地上で戦士として名を馳せた彼は、多くの人間に尊敬される英雄となった。
王道な英雄譚。何者でもない赤龍が、何者かになるまでの人生の軌跡を描いた物語。族長が言っていた英雄譚はやはりこれのことだったのね。
物語の最後では、赤龍は最愛の人を見つけ彼女と結ばれて完結する。
「――素敵なお話ですわ。赤龍の英雄が緻密に描かれていてとても面白かったです」
何より最後に赤龍が愛を見つけられたのが素晴らしい。やはり愛は素晴らしい。愛は世界を救うわ。
「そうだろ! 面白いだろ! これオレ様の母ちゃんが書いたんだぜ!!」
「レレさんのお母様が?」
確かに手作り感のある本だったし、全部手書きであった。
「とても文才に秀でた方だったのですね」
「ぶんさい? ……おう! 母ちゃんはすごいヤツだったぞ!!」
ニカッと笑うレレさんはとても眩しい。まるで真っ赤な太陽のようだった。
「これの本があったから、オレ様は自分の鱗を嫌わずに済んだんだ! この赤龍みたいな赤い鱗だからな! いつかこの、赤龍の英雄みたいに、俺のスッゲェ戦士になりたい! あと全員をギャフンと言わせる!」
「きっとなれますわ」
「きっとじゃねぇ! 絶対なるんだよ!」
「ふふっ、そうですね。絶対……レレさんならなれます」
「へへ! 当たり前だっ!」
胸を張って言い切る姿は、人を信じさせるほどを自信に満ち溢れていた。
赤龍の英雄。これはレレさんのお母様が作ったもの。多分、レレさんのために。
これがどんな意図で作られたかは、レレさんのお母様が亡くなっている以上わかることはない。
だけど、もしこれが、赤い鱗として生まれたレレさんが、自分の鱗を嫌わないようにお母様が作り出したお話だと、赤龍の英雄だとしたら……それはとっても、素敵なお話だわ。
「……レレさん」
「あん? なんだミラ?」
「レレさんは狩りをしたいのですよね。赤龍の英雄になるため、周囲を見返すため」
「……ああ、そうだ」
彼女の決意は固い。それは目を見れば十分にわかる事だった。
「では、今日した話。族長様にもしてみませんか?」
「ッ!? なんであの偏屈ジジィに……! オレは……オレ様はミラだから話したんだ……!! あんなわからず屋には、話したくも――」
「例えわからず屋でも、話さないとわかってくれませんよ」
「……ッ!」
「人を動かすのは、人の言葉です。レレさんがお母様の遺した本の言葉に動かされたように、族長様を動かすにはレレさんの言葉が必要です」
「オレ様の……言葉……」
「ですから、対話を拒まず、一度だけ、族長様と話してみませんか?」
「……、……」
悩むように押し黙る彼女。そんな彼女に、言葉をかけた。
「私は、レレさんが英雄と呼ばれる姿を見てみたいです」
「……!」
「貴女が英雄と呼ばれ、多くの人を救う姿を、見てみたいです。だからお願いします。……一歩だけ、踏み出してくれませんか」
レレさんには、止まって欲しくない。
ただ前を突き進んで、夢に向かって走り続けて欲しい。
これは彼女のためでなく、私の我儘である。
だって私は――夢を語っているレレさんが一番好きなのだから。
「……っ、……わかった。――ミラに英雄のオレ様を見せてやる! その為なら、の偏屈ジジィとだって話をしてやる!!」
「っ! ありがとうございます!」
よかった。きっとこれですれ違わない。彼女は夢を追い続けられる。
「い、言っとくけど、族長のためじゃないぞ! ミラのためだからな!」
「ええ、是非ともそれでお願いします♡」
その言葉が何より嬉しい。
だってそれは、私の為に英雄としての一歩を踏み出してくれるのだ。




