21話【レレは見た】
《レレ視点》
「クッソォ……! あの半獣族の男ぉ! 次会ったらメッタメタのギッタンギッタンにしてやるからなぁ!」
むしゃくしゃしながら集落の道を闊歩する。
イライラする。めちゃくちゃムカつく! 全部あの半獣族の大男のせいだ!
3時間ほど前、族長に直談判に行った時。アイツに族長の家から投げ飛ばされた。
言っておくが、決して負けてはいない! 投げ飛ばされただけだ! それにちょっと油断しただけだし! あとなんか腹も痛かった!
「オレ様が絶好調だったらあんな半獣野郎瞬殺だし! 絶対に次はぶっ飛ばす!」
地団駄を踏みながら、小石を半獣男だと思って蹴飛ばしながら進み、集落の奥までやってきた。
いつもの癖だ。村の中心部は居心地が悪い。……アイツらとオレ様は違うから。
クソ。胸ん奥が気持ちわりぃ。モヤモヤする。
半獣男にホント偶然不覚にもぶん投げられたこともムカつくが、何よりアイツの言葉がオレ様の神経を逆撫でていた。
『力量を見ろ。お前にはできん』
「……ッ」
アイツの上から見下ろすような目。弱者を見るような、そんな視線が気に入らねぇ。クソ気に入らねぇ。まるでオレ様が弱いみたいじゃねェか。
「オレ様は強いんだッ……! 強い戦士になってやるんだよッ……!」
二度と、……二度と『赤っ恥』なんて言わせねぇ!
そのためには狩りをしねェと。戦士は実践で強くなるって本にも書いてた。だから何度も狩りに行ったのに、族長が森への出入りを禁止しやがった。今度森に行ったら集落から追放するとまで言われちまった。流石にそれは困る。どうにかして禁止令を解かせるしかねぇ。
確かに森に入ったら怪我することも、まぁあるにはあった気もしなくもなくはないが、それはあくまで調子が悪かっただけだ。万全であれば怪我もしなかったし、森の動物も全部狩っていた。間違いなくな!
今度こそ行けばやれる! オレ様は狩りに行くぞッ! 何としてもな! そしてクソ強え戦士に――。
「あぁああ…………!」
集落の隅、そこまで行くと何やら奇妙な声が聞こえてきた。
「……? なんだ?」
集落に迷い込んだ動物の声か? なら丁度いい! 森には入るなって言われたが、集落に迷い込んだ動物を狩るなとは言われていない。ここで実力を示せば族長も納得するだろ!
茂みに隠れながら、ゆっくりと声のする方へと近づく。
そして集落と森の境目。そこまでやってきてようやく、動物の影が見えてきた。
デケェな……2メートルくらいはありそうだ……! こいつを仕留められれば、絶対族長も――。
「……!?」
茂みの影からゆっくりと動物の姿を目で捉えるようとする。
そこで、見えてしまった。
「ガウルぅ……! お願いぃ♡」
「ぐっ! ダメだッ……!」
な、なんだ。な、なな、なんだアレ?
な、なんで、脱いで……!? って、てかアレ何して……もしかして、アレが……!?
「ガッ……!? ア……!?」
その光景を目の当たりに、言葉が出なかった。
首を絞められたみてぇに声が出せねぇ。
どういうことだ? なんでそ、外で? し、しかもアイツら、半獣男とミラじゃねぇか……!?
頭が混乱する。何が起きてんだ。クソ。それに何だこれ。見てっと変な気分になりやがる……! わかんねぇ! 心臓がバクバクうるせぇ……!
アイツら、あんな事しちまう関係だったのか? そ、そういうのはでも、婚礼後じゃねぇダメって決まりがあるんじゃ……? 集落ではそうだって習ったのに……!?
ダメなことなんだろ。けど、なんでして……それに――。
「あぁぁあ♡」
「ッ!?」
なんでか、腹の奥がキュってなる。なんだかそれにムズムズしてこそばゆい。クソ、風邪ひいたみてぇに顔があちぃ。――ミラの、……2人の、あの姿見てっと……なんでか……。
……なんでミラのヤツ、あんな……気持ちよさそ――。
って、何考えてんだオレ様は! しっかりしろ! オレ様は戦士! 戦士は動じない! 冷静になれオレ様ッ!
ここにいるのはマズイ。なんでかわかんねぇが、アレを見続けたらダメだ! 変な気分になっちまう……!
ガサガサッ!と茂みを掻き分け逃げ出す。いや逃げてない! これはその……センリャク的撤退だッ!
《アルミラ視点》
集落に滞在して、2日目の朝を迎えた。
今日も今日とて命懸けのハシゴ渡りをして、興味もない外交の話を延々聞かされていた。
それに座らされるのもしんどい。昨晩のせいで腰や骨盤辺りが痛い。なんでかは秘密にしておくけど。
「ちゃんとお話は聞かれていますか? アルミラ様」
私が昨日同様退屈そうに眺めているのを見かね、隣に座るリーシャが耳打ちする。
「うん聞いてる聞いてる」
「……その返事は本当に聞いているのですか」
訝しげな目で見られた。一応聞いてはいるのよ。本当に。
お父様と族長の話を聞いていると……何やらリザードマンの集落では人口が増えすぎて色んな問題が起きているみたい。食料不足とか日用必需品の配給が間に合わないとか住処が狭くてどうのこうのとか、要は資源不足が問題なのね。
確かに難しい問題ね。リザードマンは排他的な種族であるため物流が悪く、輸入品の拠り所も少ない。
お父様がここに来る前に言っていた「解決しなきゃいけない問題」っていうのはこれの事ね。どう足掻いても一朝一夕では解決できない問題だから、お父様はせめてもの事態緩和に頭を捻らせている。
――ところで今日はレレさん来ないのかな?
昨日はこれくらいの時間に押し寄せてきたんだけど、今日は来ないみたい。
なんだか寂しい。レレさんの明るさや活発さは私に元気を分け与えてくれるようで好きだったのに。
嗚呼、レレさんに会いたいなぁ。ミラって呼ばれたい。ちょっと強引なあのスキンシップをまたされたい。来てくれないかな……。
退屈な話し合いからは目を背け、家の扉の前を凝視する。
しかしその日、レレさんが訪れることはなかった。




