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15話【お風呂の後は食事】

《アルミラ視点》


お父様への報告が終わった。

途中お父様の書斎に入ってきたラズリアにお小言を二三言われたが、全て聞こえないふりでやり過ごした。

せっかくガウルが来ているに、あんな小さい人間に幸せな時間を使いたくはない。

それよりガウルは今頃お風呂に入っているかな? あまりリーシャと仲良くできてないみたいで心配だけど、きっとリーシャはお風呂に入れないなんて意地悪しないわ。

つまりガウルは浴室にいることはほぼ確実。なら、お約束イベントでもしておきましょう。



――バン!

浴室の扉をノックもなしに勢いよく開ける。

「キャー! ガウルさんのエッチー!!」

「入ってきたのはお前だぞ」

浴槽に体を浸からせたガウルは、入室するなり叫び声をあげる私を冷ややかな目で見た。この世界の人間にこのネタが通じるわけないよね。知ってた。


「何故入ってきた。俺が入っているぞ」

「あはは、もう我が物顔でお風呂使ってるの? 図太いね~」

そういうとこも好きだけど。

「お前が入るように言ったから入っているだけだ」

「うんうんそうだね。だから私も入ってきたんだよ」

「……? 訳が分からん」

体が大きく、我が家が誇る浴槽ですら足を伸ばせず、腰あたりまでしか浸かれていない、窮屈そうに入っているガウル。

ガウルが入った時に沢山溢れ出たお湯が辺りを濡らしている。これはリーシャが怒りそう。

とにかくこんな状態じゃ体も満足に洗えないだろう。


「ガーウル♪」

「なんだ」

「洗ってあげる♡」

「……何を言っている」

一拍置いた。もしかしてちょっと動揺したのかな。少しガウルのことがわかってきた。

「浴槽小さいでしょ? それに背中ひとりで洗うの大変だろうから、私が洗ってあげようと思ったの」

「そういうのは奴隷にしてやることじゃないぞ」

「でもガウルにしてあげたいことなの」

「……わからん」

あっ、また動揺した。うんうん、段々掴めてきた。

「せめてメイドにやらせることではないか」

「むぅ、私よりメイドにやって欲しいと?」

それは聞き捨てならない。私が洗うと言ったのに、他の女の人を寄越せだなんて、流石に傷ついてしまう。

「いや、そういう訳では……」

「じゃあメイドを呼びましょうか? ねぇリーシャ! ガウルが俺の体を洗えって言ってるよォ~!」

「やめろ。わかった。メイドには頼まん。お前がしてくれ」

そうそう、そうやって素直に頼めばよかったのよ。


ガウルの許しも得たことだし、私は浴槽へと近づく。服は外出時のままだけど、それは気にせずビショビショの床を歩き、浴槽の前で膝立ちになる。

布で石鹸を泡立て、それを手に塗る。

「手で洗うのか。何故布を使わない」

「ガウルの体を直接感じられるから」

「……お前は変態なのか」

「言い方ってものがあるでしょ? まぁ否定できないねぇ。……けどそんな変態みたいなことしたくなるのもガウルが相手だからだよ」

「何故俺だからなのだ」

「ガウルが好きだから」

私が即答すると、彼は長く黙り込む。

これは相当動揺してるって捉えていいのかな。


彼の動じる姿を楽しみながら、私は大きな背中を手でなぞっていく。

大きくて、ゴツゴツした背中。

逞しくて、よく見たら細かい生傷が沢山ある。戦士の背中そのものみたい。

岩のようだけど、しっかりと体温がある。お風呂に浸かっているせいか、少し熱い気さえする。

「くすぐったくない?」

「くすぐったい。力が弱い」

「これでも力を込めてやってる方なんだけど?」

「これでか? もう少し筋肉をつけるべきだ」

「それは私を心配して言ってくれてる?」

「……好きに捉えろ」

照れちゃって可愛いんだから。

ヌルヌルと彼の体に私の指先が這う。女性とは違う男性の体が、掌から鮮明に伝わってくる。


「女、尋ねていいか?」

「私は女だけどそう呼ばれるのはちょっと嫌だな」

「ではお嬢でいいか。付き人のリシャルテはお前のことをそう呼んでいた」

様抜けてるけど、まぁ敬われたいのではなくて愛されたいから別にいいわ。ちょっと極道の娘っぽいのが気にはなるけど。

「お嬢は何故、俺を買った? それに何故俺に親切にする。奴隷がこんな扱いを受けるなど聞いたことがない」

「さっきも言ったことを繰り返すけど、ガウルが好きだからよ」

「理屈として通っていない」

「理屈が必要なの? 私は誰かを好きになる時、一番に信じるのは直感よ」

「だとしても、こうして施しを受ける理由はわからん」

裏があるのではないか。そういうことを疑っているのね。

変な人。ガウルがそれを言うなんてね。


「じゃあ逆に質問するけど、ガウルはあの時――なんで私を助けたの?」

理由なく人に優しくすることや親切にすること、それを私よりも先にやったのは他でもないガウルなのだ。

「私は奴隷を買いに来た赤の他人。なのにアナタは自身の鎖を引きちぎって、私を助けてくれた」

ガウルという人には疑問に思うところが多い。どうして奴隷になったのか、何故いつでも鎖を引きちぎって逃げられたのにそうしなかったのか。

けど今一番の疑問は、なんで私を助けたのか。私はそれを直感と言われても納得するけど。

「それは……」

「それは?」

「……お前が、――お嬢が部屋に入ってきてすぐ、俺たちのことを心配したからだ」

心配。それはきっと店主のタヌキおじさんに奴隷達がご飯をちゃんと食べているのか聞いたこと。

覚えてもいなかった何気ない言葉が、彼を動かした。


「お嬢のように奴隷を買いに来た奴は大体、俺達のいた部屋に入るや鼻をつまんで顔を顰める。そして文句を言う。薄汚い連中だと、他のにしろと」

「酷いことを言われてきたのね。辛かったでしょう」

背中の生傷が、彼の心の傷に見えた。

「だがお嬢は違った。俺たち全員と向き合おうとした。嫌な顔せず。いいヤツだと思った。だから助けた」

「そうだったのね」

そんな風に思ってくれたんだ。それはきっとガウルの心が綺麗だからね。私は自分の欲望のために動いただけ。そこに善意はなかったもの。

だからきっといい人も私じゃなくて、ガウルなんだわ。


「……俺は狡いことをした」

しかし、ガウルは自分を下げた。

「何故そう思うの?」

「俺はお嬢に気に入られたくて助けた。そうすれば、俺を買うと思った。下心があった。だから狡い」

「うぅ~ん、その考えは間違ってるわね」

彼の肩を入念に洗いながら、キッパリと否定する。

だってその理論だったら、全ての人間が狡いことになってしまう。


「何故だ? 下心があったのだぞ」

「人が人に気に入られたいと思うことを下心なんて呼ばないわよ。そこにどんな計算があったって、策略があったって、人に気に入られたいと思うのは素敵な感情よ。――仮にガウルの言葉が正しかったとして、それだと私もズルくなっちゃうじゃない」

「お嬢は違うだろ。俺に親切にしている」

「でもアナタに気に入られたいからそうしてるだけ。こうしてガウルの体を洗ってあげれば、距離が縮まるんじゃないかって計算しているの。布じゃなくて手で洗ってるのはアナタが私を感じてドキドキしてくれるかもって策略を立ててしていることなの」

「……」

「ねぇガウル、私は狡いかしら? 私を助けたアナタも狡いのかしら?」

「…………俺が間違っていた」

素直に間違いを認めた。

素直なことは美徳だわ。とっても魅力的。

硬派に見えて考えは柔軟な頭で、心が綺麗で素直な面もあって、話せば話すほどガウルのこと好きになっちゃう。

ちょっとぶっきらぼうな言い方が優しい内面とのギャップがあって素敵だし、でもその優しい面とは裏腹に猛々しい筋肉にうっとりしてしまう。

嗚呼、好きだなぁ。すごく好き♡


「お嬢が俺に親切にする理由も、理解はした。……納得はできないが」

「私がこんなに好きなのに? それが伝わらないって言うの?」

「ああ、俺らはまだ出会って半日も経っていない。第一お嬢の好きという言葉もどういう好きなのかがわからん」

「ふぅん」

これだけアピールして伝わらないのはもどかしい。期間がいくら短けれど、こんなにわかりやすいのに。

私が好きでもない相手の風呂場に入って、丁寧に体を洗ってあげる女性にでも見えるのかしら。だとしたらとても不服ね。

こうなったら、強行突破で行きましょう。


「……ッ」

膝立ちをやめて立ち上がり、グイっと彼の顔を上に向けた。

ポカンと何をしているのか分からないように半開きになった口。そこに、

「……!?」

私は自身の唇を重ねた。

優しく、唇で唇を撫でるように、キスをした。

分厚くて、少し乾燥した唇だった。水分不足なのね。水を沢山飲める環境でもなかったのだろう。ここでは水でもお酒でも好きなだけ飲ませてあげよう。

けどその前に、食事にしましょうか♡


「分からないなら教えてあげる。――私の体で」


15.5話、15.75話をノクターンの方で掲載します。

9月26日と27日はそっちに行ってください。

成人の方のみです。


本編更新は28日12時です。

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