14話【八つ当たり】
ガウルが新たに加わり3人が乗った馬車は邸宅へと向かった。
1時間ほどの帰路を辿り、邸宅に着くともう日は傾いていた。
ガウルを買ったことをお父様に説明している間に、私はリーシャにガウルが入るためのお風呂を用意してもらった。
《ガウル視点》
貴族の家の広い浴室。
あの女、我が主人のアルミラが個人で入るための浴槽らしい。
そんな浴槽に奴隷の俺を入れるとは、風変わりな女だ。
「お湯は張っておきました。あとはご自分で体を洗ってください」
「ああ、わかった」
あの女の付き人であるリシャルテは素っ気ない態度だ。俺が気に入らないようだ。まあ奴隷を歓迎する方が物珍しい。
「……私には構いませんが、主人であるアルミラ様には敬語を使ってください」
「卑しい出自な為、敬語を知らぬ」
「だったら覚えてください。貴方の部屋に本を置いておきますから」
文字は読めないのだが、これ以上何かを言うと小言を言われそうだ。口をつぐんでおこう。
「俺の部屋があるのか? 何故だ」
「お嬢様が用意したのです」
「俺は奴隷だぞ」
「お嬢様は身分の下賎などお気になさらないお方なのです。かくいう私もただの平民です」
奴隷に部屋まで用意し、平民の女を最側近にするとは。
立派な邸宅、大勢の使用人。最低でも侯爵以上の家柄だろう。なのにそれにはそぐわない、あの女の行動。
やはり変な女だ、我が主人は。
「とにかく風呂に入ってください。体くらいは自分で洗えますよね」
「ああ」
「そうですか。では私はこれで」
終始一貫して冷たい態度、彼女は大きい布とガウンを置いて立ち去ろうとする。
「待て付き人、一つ聞きたい」
付き人がドアノブに手をかけた時、呼び止めた。
「はぁ……、付き人ではなくリシャルテです」
「それはすまない、リシャルテ」
「それで一体なんですか?」
リシャルテは冷たい目をしている。軽蔑や侮蔑といったものとは少し違う。だが、瞳の奥に確かな怒りがある。
「お前は俺を嫌っている。だが俺が奴隷であるからではないように思える」
その怒りは、俺がこの邸宅へ踏み入れたことへの不平不満ではない。
それよりも、もっと一個人的な、私的な感情に思える。
「……」
リシャルテは少し黙ってから、口を開いた。
「ただの八つ当たりです。気にしないでください」
バタンと扉が閉じた。
彼女が去り際にはなった言葉を、俺は理解できない。




