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16話【ガウルという男性】

熱い夜を過ごした翌朝。

同じベッドで寝起きした私とガウルは、生まれたままに姿で言葉を交わしていた。

「えぇ!? ガウルって19歳なの!?」

「……? そうだ。それがそんなにおかしいことか?」

「いやぁ、てっきり私の倍くらいは歳離れてるだろうと思ってたから……」

これほどの老け顔な上に巨体で私と4つ違い。前の私と比較したら2つ年下である。

「獣族は人よりも成長速度が早い。早く狩りができるようになる為だ」

「なるほど、ちゃんと生物としての合理的理由があるんだね」

それにしても、ガウルは些か大きすぎると思う。奴隷商で襲いかかってきたあの獣族の青年だって、ガウルに比べれば頭一つは小さかった。

本当にどこもかしこも大きいんだから。おかげで下半身が筋肉痛だよ。


「……お嬢、聞いていいか」

「なぁに? なんでもい聞いていいよ」

「お嬢は沢山の人間を愛したいのか」

「どうしてそう思うの?」

私は彼にそのことをまだ言っていない。私が沢山の人を愛し、愛されたいと。

しかし、彼は勘づいていたようだった。

「リシャルテが、お嬢を見る目。そして俺を見る目。それの意味が今何となくわかった」

「……」

「リシャルテはお嬢を愛している。お嬢もきっとリシャルテを愛している」

「うん、そうだよ。そしてガウルのことも愛してる」

「俺は二番目なのか」

「何番目とかそういう順番をつけるのは、私好きじゃないな。私の中では1番好き、2人が1番好き。2番目なんて存在しない」

「懐が深いな」

「本当? そう言ってくれたのはガウルが初めて。嬉しい♡」

「……その1番は、今後も増えるのか?」

「増えるわね。絶対に」

リーシャにも言ったことだ。私は1人では満足出来ない。それが2人でも、3人でも、もっと多くても。いずれ私の愛が枯渇するまで、私は愛する人を求めることをやめない。

それが私だから。きっと変えられないし、変わりたくない。変わってしまえば、私の今までの人生全てを否定することになるもの。


「……八つ当たり、か」

ポソリとガウルは何かを呟く。

「少し……リシャルテの気持ちが理解出来た」

「……?」



「お嬢様、昨夜はお楽しみだったようですね」

「リーシャ、お嬢様じゃなくてアルミラって呼んでよ。今は二人っきりでしょ?」

「…………」

ガウルガが用意した自室に戻った後、リーシャが私の部屋に来て身支度を手伝ってくれている時。

彼女は何やらツンケンしていた。


「なんか怒ってる?」

「怒っていません」

「でもなんか不機嫌な――」

「怒っていません」

「…………あの日?」

「怒りますよ」

リーシャは私の着替えを手伝いながら、短く嘆息を吐く。

「お気になさらないでください。私個人の我儘な感情ですから」

「なら余計気になるよ。愛してる人のことだもの。知りたいに決まってるわ」

ピタリと彼女の手が止まる。そして言い淀むように口をモゴモゴさせてから、決心したように口を開いた。

「……嫉妬しただけです」

「嫉妬って……ガウルに?」

「はい。アルミラ様が彼を愛することには納得しています。アルミラ様がお決めになったことです。異論はありません。ですがどうしても……彼を狡いと思ってしまって……」

狡いか。ガウルも自分のことをそう言ってたけど、リーシャの思う狡いはそれとは違いそうだ。

「だって彼は……男性ではありませんか」

「……? 男性だとどう狡いの」

「男性なら……アルミラ様と婚姻する事だって出来ます。女性同士ではできないことも出来てしまいます。……そういうのは、狡いですっ。――私はどんなにしたくても、出来ないのに……」

その言葉の中には、悔しさが滲んでいた。

「……」

男性と女性。そこには身体的な特徴だけの違いではなく、身分とか、恋愛とか、世間の目とか、そういうものでも違いが生じる。

その違いが原因で苦悩することもある。そして今回リーシャが苦悩していることには、私が関係している。

こんなことを思うのはちょっと酷いけど、――嬉しい。

だって私のことで思い悩んでくれている。私のことを考えているからそうなっている。そう思うと優越感にも似た喜びが湧いてきてしまう。

けどそれに浸ってはダメ。リーシャが苦しいと私だって苦しいのだから。

「ねぇリーシャ。ちょっと耳貸して」

「……? なんでしょうか」

近づいた彼女に、小さく耳打ちする。


「ここだけの話ね。私、男の人より女の人とエッチする方が好きなの」


「…………はい?」

すっとぼけたような回答に、リーシャは間の抜けた声を出す。

「別に男の人とするのが嫌って訳じゃないよ? むしろするのは大好き。でもね、女の子同士の方がお互い勝手が分かっているっていうか、こう気を使わなくていい感じ? ルールが分かっている同士でゲームをするみたいな? とにかくそんな感じなんだよね」

「は、はぁ……」

「これに関してはさ。――男の人である以上どうしようもないことなんだよね」

「っ……!」

ハッと気付かされたような表情をするリーシャ。よかった。私の言いたいことが伝わったみたい。


「確かに男の人とか女の人とかそういう違いがあるのはしょうがないことだけど、女の人だからってダメなことしかない訳じゃない。男も女も一長一短なの。どっちであってもメリットデメリットがある。――だからねリーシャ、自分の性別を悔やまないで。私はリーシャが女の人でよかったって思ってるからっ」

「っ! ――……本当に狡いのは、アルミラ様です。いつも私が欲しい言葉をくれます」

クスッとリーシャが微笑む。

「それにリーシャが女の人じゃないと私の着替え手伝えないでしょう?」

「ふふ、確かにそれもそうですねっ」

リーシャは再び手を動かし、私にドレスを着させる。

この一時が、私は何気なくて好きなのである。



次回からリザードマン編です。


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