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11話【ドキドキする出会い】

「と、とにかくわかりましたから! そ、そうですね! とりあえず戦士奴隷から見てみましょうか!」

私の熱弁が通じたのか、タヌキおじさんは店内の更に向こうへと案内してくれる。

わかってくれて何よりだわ。3時間も高説を垂れた甲斐があったってモノよ。



「――こちらが戦士奴隷の販売箇所となります。男戦士も女戦士、冒険家崩れのモノが多いですが、中には獣族の珍しい種族もおります」

案内された部屋には首輪に繋がれた奴隷達が一緒くたに集められていた。

確かに杜撰な管理ね。硬い地面にベッド一つないし、部屋内は悪臭が漂っている。奴隷達は鎖で繋がれており、無気力な瞳だ。

どうやら店に入ってすぐの奴隷達はまだ管理が行き届いた方なのだろう。若い女性は集中的に並べられていたし。だから店頭に並べ、見栄えを良くしていたのね。

「なんだか皆元気がないみたいね? ちゃんとご飯は食べているの?」

「え? え、ええ、まぁそれは勿論! 毎日食事を与えていますよ!」

毎食ではなく毎日という点に言葉の裏を感じる。どうせ雀の涙ぽっちの食事なのだろう。


「先の短い奴隷が多いですね。ここでお買いになるのは賢明ではないかと……」

リーシャは再び耳打ちでアドバイスを送る。ささやき女将みたい。

「それでも一人一人見ましょう? きっと皆素敵な人たちよっ」

ちゃんと一人ずつ向き合って決めないとね。ささやき女将に1人までって言われてるから、せめて一番私が愛したくなる、そして愛してくれそうな人を選ばないと――。


「ウゥゥゥ! ガァウッ! ガァウガァウッ!!」

一人一人吟味しようと部屋の端から回ろうとした時、突如部屋の奥から唸り声がした。

低い唸り声、まるで威嚇する獣のように吠えていた。

唸り声の方へと視線を送る。


「あれってもしかして……獣族!?」

鎖に繋がれた茶色い体毛を生やした青年。

人型の獣、獣族。

彼はこちらを睨みつけて、ジャラジャラと首輪についた鎖を引っ張り、私の方へと向かおうとしていた。

すごい。初めて見た。あんなに野性味溢れているのね。ワイルドで素敵だわ。

でも何やら敵対気味みたい。

「ねぇタヌキおじさん、あの人随分と荒れてるみたいね?」

「ああ、アレですか。獣族は1年に1度獰猛になる期間がありまして、その期間は動物としての本能を強く呼び出されるのです」

なるほど、それで知らない人間を見て襲いかかろうとしているのね。動物の本能として。

動物の本能、なんだかキュンキュンしちゃう言葉だわ。今は敵意しかないけど、アレが愛情や好意に変わって私に襲い掛かるならと、つい妄想してしまう。あんな獰猛に求められたら、私一体どうなっちゃうのかしら……。きっとどんなに泣き叫んでも愛してくれるのを止めないほど、猛々しく襲ってくれるはず……ゴクリ。


「そのような者を売るのは危険なのではないですか、店主」

リーシャが質問すると、タヌキおじさんはにこやかな作り笑顔で答える。

「いえいえそんなことはありません! 奴隷契約時には隷属魔法がかかった首輪をつけますのでお客様に危害を加えることは一切ありませんのでご安心ください!」

魔法。やっぱり人外種族が入れば魔法もあるわよね。フィクションすごい。

けど、気になることが一点。

「でもそれって奴隷契約時に付けるのよね?」

「ええもちろんです!」

「じゃあ、今は隷属魔法の首輪は付けてないから、私たちにも危険があるって事かしら?」

「はい! 仰る通り……あっ」

店主が思い出したように、言葉を漏らした。

その時には、もう遅かった。


――ガキンッ!

劣化した鎖が獣族の力に耐えきれず、大きな音を立てて引きちぎれた。

獣族の青年を縛るものは、これで無くなってしまった。

「ッ! どうなっているのですか店主!? 鎖が切れましたけど!!」

「も、もももも申し訳ありません!! 本来獰猛期に入った獣族は檻に入れる決まりだったのですが、つい失念を……!!」

「では何とかしてください! 非常事態の対処も店主も務めでしょう!」

「む、無理ですよお客様!! ワタシ戦いなどさっぱりで……!!」

「普通護衛の奴隷を使うものでしょう! どれだけ杜撰な管理なんですか!!」

怒り狂うリーシャに慌てふためく店主。そんな2人を意に返さず、敵意を向けた獣族の青年はこちらへと牙を剥き出しに、にじり寄ってくる。


「大丈夫よリシャルテ、動物には愛情を持って接すれば心を開いてくれるわ」

「心じゃなくて大口開けていますよ! 絶対に食べる気ですって! それに動物じゃなくて獣族です!」

「優しく抱き締めてあげればきっと心が通じて牙を収めてくれるわ。ここは私に任せなさい」

「絞め殺されますよ!? いいから逃げましょう!!」

愛情で抱き寄せようと歩み寄る私、それを必死に引き止めるリーシャ、アワアワして使い物にならないタヌキおじさん、敵意マシマシでにじり寄る獣族の青年。事態は混沌と化していた。


「ウゥガァアアアアアアアアアッッ!!!」

猛烈な咆哮と共に、獣族の青年は私目掛けて襲いかかる。

「アルミラ様ッ!?」

リーシャが庇おうと前に出ようとした。

それよりも……早かった。


ガキン!

再び鎖が切れる音、そして私の目の前を覆う大きな影。

「ギャンッ!!??」

ゴッ!!と何処からともなく繰り出された強烈な回し蹴りが、獣族の青年の顔にクリーンヒット。

その獣族は地面へと倒れ込み、一撃で昏倒する。

大きなその影は繰り出した足を下ろし、私の眼前にその大きな背中を見せる。


「大丈夫か、女」

拙い言葉に野太い声。

2mはあるかと思う巨体に、背中だけでもわかる筋骨隆々な身体。

そして彼が振り返り、よく見える。

角張った輪郭に、冷徹を思わせるほどの威圧的な顔立ち。まるで獅子のような獰猛なオーラが見える一方で、私を見下ろす目は無感情に冷たかった。そんな大柄の男性。

それに……尻尾が生えている。

もしかして、彼も獣族なのだろうか。


嗚呼、ダメだわ。こんな風に颯爽と駆けつけられたら、胸の奥が熱くなってしまう。

自然と、言葉が出た。


「――決めた。この人にするわ」


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