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10話【奴隷商店にて】

「んぅ~~~! 着いたぁ~~~!」

奴隷商店、その入口にて。

国が管理している奴隷館ではなく、個人経営となるので規模はこじんまりとしている。

邸宅から一番近い所となるとここなのだと、現在乱れた衣服を直しながら馬車を降りているリーシャが昨晩教えてくれた。

「ここだけでも100人は奴隷がいるんでしょう? うぅ~ん♡ 楽しみぃ~♡ お小遣い足りるかな~?」

今朝お父様の肩を揉んでセびったお小遣い。小さな邸宅1つぐらいは買えるお金だって言ってたし、きっと全員買うことも……。


「言っておきますがアルミラ様。買う奴隷は1人までですよ」

「えぇ!? なんで!?」

「なんでも何もありません。100人も奴隷を買ってどう当主様に言い訳なさるおつもりですか。そんな大所帯の奴隷を買うなんて非常識です」

「で、でもでも! 私この日を一日千秋の想いでね……」

「半日も経っていませんよ。――邸宅がいくら広くても100人なんて多すぎます。邸宅にいる従者よりも数が多いでは無いですか」

「じゃあせめて10人! い、いや5人までまけて!」

「1人だけです。譲歩はありません」

「お願いお願い! ちゃんと面倒見るからぁ! たくさん愛してあげるからぁ!」

「ダメなものはダメです」

お菓子は300円までと言明する母親のように、リーシャは頑なであった。

こうなったら公共の面前で寝転がり駄々をこねる他ないと、人としての尊厳を捨てようとした時――。


「お待ちしておりました、アルミラ公女殿下!」

手でゴマを擦りながら話しかけてきた、タヌキのような見た目をしたオジサン。恐らく彼がこの店の店主であろう。

明朝早馬で手紙を送ったため、この店は私の貸切状態である。

「いやぁ~! かの有名なランドリス家のお嬢様にお越し頂けるなど、この上ない光栄――」

「おべっかはいいから早く案内して頂戴っ! 早く奴隷が見たいのよ!」

はやる気持ちが抑えきれず、ズイズイとタヌキおじさんに迫ってしまう。

「え、ええ、かしこまりました。では、こちらへ」

ちょっと引き気味のタヌキおじさんは店の奥へと案内してくれる。




「わぁ~!! すごい! こんなに沢山いるなんて!!」

100人という数字を聞いても現実味があまりわかなかったが、こうして見ると実に壮観だわ。

薄暗い店内は想像以上に奥行きが広く、数多くの檻の中に奴隷達が入っていた。

年甲斐もなく子供みたいにはしゃいでしまう。あっ見た目は15歳だから年甲斐はあるのか。

けどこれはワクワクせずにはいられないわよ。だって全員愛しても良くて、愛してくれる人になれるんでしょ?

お腹の奥が締め付けられるようだった。嗚呼、ダメ。お店の中だから我慢しないと……。


「ここには数多くの奴隷立ちを揃えております! 男性女性はもちろん、幼い子供から成人した大人まで! それどころか人族以外の種族も――」

「人族以外!? フィクション存在までいるって言うにの!!」

タヌキおじさんの言葉につい声が上擦ってしまう。

「ふぃ、ふぃく……? え、ええ! それはもう数多くの種族を揃えておりますよ! 長寿のエルフも、力に優れた獣族も、希少種とされる精霊種までなんでもおります!!」

「すごいわぁ! 本当にすごいわぁ! ここに来て正解だったわタヌキおじさん!」

「た、タヌキ?」

人間以外に愛されるなんて、夢にも思っていなかった。こんなにワクワクするこちがあっていいの? もしかして夢なのかしら。


「ですがお嬢様。種類は多いようですが、あまり管理が行き届いてるようではなさそうです」

はしゃぐ私を宥めるように、リーシャが耳打ちをする。

確かに冷静になってよく見ると、奴隷達の肌ツヤがあまり良くない。栄養失調で痩せこけている子供もいるわね。

衣服もとても上等と言えるものではない。ただの布切れを男性は腰に一枚、女性は胸と腰に二枚巻かれているだけ。なんともエッ――粗悪な衣服だわ。

「確かに可哀想ね。こんな檻に閉じ込められて……。やっぱりここは人として全員お買い上げ――!」

「ダメですお嬢様」

リーシャはやはり頑なであった。

私はあくまでお父様のように人徳を重んじて奴隷を買おうとね?


「おほん! それでアルミラ公女殿下? 本日はどのような奴隷をお求めでしょうか? 戦士奴隷でも労働奴隷でも、最近では女性も性奴隷を買っていかれることも多く――」

「じゃあ愛奴隷とか居ない?」

「あ、愛奴隷? 愛玩用ということでしょうか?」

「ううん、そういうペットのような感じじゃなくて、私を愛してくれそうな奴隷のこと」

「愛して……? お、お言葉ですがアルミラ公女殿下、奴隷使う物であって愛?を求めるものでは……」

「何を言っているのタヌキおじさん!!」

ガシッ!とタヌキおじさんの両肩を強く掴む。おじさんはヒッと短く悲鳴をあげた。

「奴隷だからこそ愛を求めるうべきなのよ! 奴隷は主人に尽くすものでしょ! なら主人はそれに愛で答えるのよ! そして主従の2人には愛が芽生える!! そういう愛し愛されの関係が至高なんじゃない!!」

「は、はぁ……?」

「いい! 私がどれだけ奴隷と主人の愛が素晴らしいか熱弁してあげるわ! よく聞いてねタヌキおじさん!」

そうして私の熱弁は何時間と続いた。

店主も、それを聞いていた奴隷達も、終始ポカーンとしていた。

リーシャだけが呆れたように溜息を吐いていた。


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