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それでも、生きていた  作者: sinnemina
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第4−15話

先程までのタシスさんは何処に行ったんだ?そう錯覚させる程の豹変ぶりだ。目の前にいるのは不気味な笑みに似つかわしく無い、軽やかなステップを踏んでる女性がいた。鼻歌を口ずさみながら楽しそうに踊る姿には魅了されるものがあった。


どういう事だ?自分でも分からないが、頭によぎって出た言葉が正解だったのか?だとしても、分からない事が沢山ある。


アキラ「どういう事ですか?」

僕の言葉に足を止め、キョトンとした顔をするタシスさんがいた。


タシス「え?私の事を調べてた訳じゃないの?」

いつもの口調が崩れている。いや、これがタシスさんの本来の喋り方なのか。


アキラ「違います。僕はジオディさんに挨拶しようと思って此処に来たんです。」

この言葉にガッカリした表情を浮かべたタシスさんは、


タシス「な〜んだ、只の偶然だった訳ね。ならしらばっくれれば良かったのかな?」


小さく「ま、いっか!」と呟いたタシスさんはおもむろに近くにあったテーブルの上に脚を組んで座った。聖職者とは思えない行儀の悪さだ。


そうか、違和感の正体が分かった! 反応だ。僕を知ってる人は大体二通りの反応をする。嫌悪か、恐怖か、だ。

タシスさんは僕がどういった経緯で捕まったか等、知っているはずだ。僕を庇ってくれたジオディさんも当初は戸惑い、少なからず疑ってたぐらいだ。そんな犯人としか思えない人物が、突然、こんな早朝に、誰もいない教会に、凶悪犯が訪ねて来たら、悲鳴を上げるまではいかないにしろ、何かしらの反応があったはずなんだ!

それも無く、以前会った時と変わらない反応をするのは僕が凶悪犯じゃないと知ってる人物だけ、つまり犯人しか知らない事実なんだ!

だが、疑問に思う点がいくつかある。


アキラ「犯人は男達だった!あなたはあの時いなかったはずだ。」


タシス「え?アンタ、あの事件見てたんだ?どうやって逃げたの?」

嬉々としている顔は、まるで恋バナでも聞いている乙女の様だ。


アキラ「違う!ファルザさん達に匿ってもらったんだ!」

もう、この人。いや、こいつに対しての敬語なんていらない!


タシス「へ〜、それじゃあ殺されたとことか見たりしたんだ?」

ニヤニヤと聞いてくる。


アキラ「…いや、離れの小屋に隠れていたから、何も見ていない。」


タシス「うっそー、アンタ1人だけ安全な所に隠れてたんだ!?」


タシス「最低だね。」

と言った後、プッと吹き出して、キャハハハハと笑い出した。


その言葉に否定は出来ないが、この笑い声はファルザさん達の死を侮辱された気分になった。胃がムカムカしてきたので話題を変えようと切り出した。


アキラ「それより、どういう事だ?あの日居たのは四人組の男だったはず。」


タシス「あー、違う違う。誤解させちゃったね。そうそう。あの日、襲撃したのは私の手下よ。私は、その時ちゃんと教会に居たわよ。」


タシス「アリバイ作りの為にね。」

僕に向かってウインクをしてきた。何だろう、いちいち言動が腹立つな。


アキラ「手下って、お前は組織のボスか何かか?」


タシスは気怠げに手を横に振り、

タシス「そんなのじゃないよ、アンタだって見た事あるでしょ?あの浮浪者の奴等を。」


アキラ「あ…。」

そうだ、僕は炊き出しや道端で浮浪者を何度か目撃する場面があった。そうか、あいつらが!あいつらがファルザさん達を!

怒りで体が熱くなっているのがわかる。だけど、


アキラ「何でだ!?どうして!?」


タシス「何でってどういう意味?浮浪者の奴等の事?」


アキラ「そうだ!無関係ならまだしもファルザさん達はボランティアで炊き出しまでしてたじゃないか、感謝こそすれ、殺される謂れは無いはずだ!」


タシス「あー、そういう事?殺された理由が知りたいって訳ね?」


アキラ「そうだ!何で…何で…あの人達が殺されなきゃいけなかったんだ!」


タシス「…やっぱり、アンタも分かってないでしょ?」


アキラ「何がだ?」


タシスはご機嫌だった顔がスッと切り替わり、冷たい表情と冷たいトーンで言い放つ。


タシス「人の痛みってやつ。」


言っている意味が分からない。言葉の意味を考えていると、


タシス「アンタってさ、浮浪者の顔とか覚えてないでしょ?」


図星だ。僕はあの日の賊のメンバーだけ、偶々覚えていなかった訳じゃない。誰一人として浮浪者の顔はおろか、特徴、性格等、何も覚えていないし、知らない。知ろうともしなかった。


タシス「別に気にしなくていいよ。どうせ、ファルザ達も覚えてなかったと思うから。」


アキラ「それがどうしたっていうんだ?」


タシス「あいつらにもあるんだよ、心ってのがね。ま、アンタ達にとっては気にもとめてないけどさ。私はそこを突いたのよ。」


タシス「あいつら、お金も希望も無いけど、プライドだけは一人前にあるのよ。だからね、ちょっと吹き込んだら喜んで協力してくれたわよ。」


タシス「あの一家は陰でアンタ達を馬鹿にしてたよ。汚いし、社会の役に立たない、何で生きてるのか分からない、早く死ねばいいのに、ってな感じでね。躊躇っているやつもいたけど、結局、金と女を好き放題出来るって言ったら、すぐに了承したわよ。」

付け加える様に「ゲスな奴等よね。」と言った。


アキラ「…お前は、お前はそれでよかったのか?」


タシス「ん?何が?」

無邪気な顔で聞き返してくる。


アキラ「友達だったんだろ?どうしてファルザさん達が。」


タシス「友達??あいつらが?違うわよ。」


アキラ「あんなに仲良さそうにしてたじゃないか!」


ハァ~と溜め息を吐かれた。

タシス「アンタって少し笑顔を振り撒かれただけで惚れるタイプでしょ?建前に決まってるじゃない、嘘を吐かず生きていけるやつなんていないわよ。………いや、いたわね。あのジジイが。」


神父様をジジイ呼ばわりか、どれだけ猫を被っていたんだ…。


アキラ「…なら、お前はファルザさん達が嫌いだったから殺させた、って事か。」


タシス「何言ってるのよ、嫌いなだけで人を殺す訳ないでしょ?」

馬鹿を見るような目つきで見下してくる。


アキラ「だったら、どうして!?」


タシス「アンタだって存在は知ってるでしょ?」

一拍置いて、今度は両の手のひらを組み、天を見上げて祈るように言った。




タシス「神様に命じられたからよ。」




神様? 神? かみ? 神! 神と言ったのか!

あの思念体の事か! あいつの差し金か! どうしてこんな事をするんだ! 嫌がらせにも限度がある!


アキラ「どこで、そいつと出会ったんだ?」


タシス「ある日、突然真っ白な空間に呼び出されて、そこで出会ったのよ。…そうそう、アンタとファルザが挨拶に来た前日に呼ばれたのよ。」


アキラ「命じられたからって、どうしてこんな事をした?お前には何のメリットも無いだろう。」


タシス「あら?もしかしてアンタ聞いてないの?」


アキラ「何の話だ?」


タシス「私の願いを叶えてくださるのよ。」


アキラ「…は?」

てことは何だ?思念体の協力をする事で、願いを一つ叶えるというのか?こんな奴の、こんな人殺しの願いを!


タシス「正確には私も、って事になるわね。私はアンタ達の勝敗の有無に関わらず、ゲーム終了次第叶えてくれるとの事だから。」

両腕を真上に伸ばし、柔軟運動をしている。


タシス「だから、早いとこ終わって良かったわ。下手すると何十年後に決着なんて事態も有り得たからね。」


そうだった、代理人を立てるとか言っていたな。そして、今までの話しぶりからして、こいつがその代理人なのだろう。なんて、なんてふざけた人選なんだ!


アキラ「人を殺してまで叶えたい願いとは何だ?」


タシス「言い方に棘が含まれてるよ、アキラくん、こわ〜い♡」

目の前の女は甘い声を出し、腰をクネクネさせている。こいつはどこまでおちょくるんだ!


タシス「私の願い、それはね〜。」



タシス「この間違った世界を作り直すの!」


アキラ「間違った世界?」

言ってる意味が分からない。


タシス「そうよ。私は本来、幸せな生活を送るはずだったのよ。それがこんな教会に引き取られた所為で、あんな泥棒猫に取られるはめに。」


フッ。鼻で笑ってしまった。

アキラ「幸せな生活?人殺しにそんなものが送れる訳ないだろ!」


タシス「いいえ、送れるわ! 今度こそ、私はファルザと結婚して、もう一度人生をやり直すのだから!」


アキラ「え?」

こいつ今何て言った?ファルザさん?こいつ自身が殺せと命じたファルザさんと結婚?意味を理解した途端、身の毛がよだつ。


アキラ「どういう事だ、ファルザさんが嫌いなはずじゃなかったのか!?」


タシス「今のファルザは嫌いよ。でもね、それは仕方無いの。私が修道女だから、それで尻込みして、あんな女で妥協しちゃったのよ。本当は私と結ばれるはずだったのに。」


アキラ「そんな気配は微塵も無い。ファルザさんはマーザさんとドータちゃん、愛する家族三人で幸せに暮らしていた!それをお前がぶち壊したんだ!」


タシス「それは慣れよ。惰性で得た生活に、自分は幸せだ!と思い込むようにしてたのよ、可哀想に。それに、もしも私が運命の人じゃないなら神様に選ばれなかったでしょ?」


アキラ「それはお前の捻じ曲がった妄想だ!お前の身勝手な都合で、どうしてファルザさん達が殺されなきゃいけなかったんだ!」


タシス「神様の思し召しよ。あと、ファルザ達が死んだのは私だけの所為じゃないでしょ?」


アキラ「何だ?浮浪者達の所為にする気か?」


タシス「違うわよ、アンタの所為よ。」


どういう事だ?僕の所為で死んだ?確かに僕は見殺しにしたが、


タシス「さっき言ったように、私は嫌いなだけで殺すつもりは無かったわよ。でも、最近になって事情が変わったのよ。」


アキラ「………僕がこの世界に来たから?」


タシス「正解〜。アンタと神様のゲームが無ければ、私も殺す気なんてさらさら思わなかったし、皆が平和に暮らしてたかもね。」


僕の所為で殺人鬼を生み出した。僕がこの世界に来てお世話になった人は、僕が来た所為で殺された。僕が巻き込んでしまった。僕の所為で幸せを奪ってしまった。僕の所為で…。


アキラ「…ファルザさん達を殺した浮浪者は何処にいる?」


タシス「あら、復讐でもしたかった?でも残念ね〜、もう全員死んじゃった。」


アキラ「…そうか。」

もう仇討ちする事も出来ないのか…、いや、まだ一人いる。目の前のこの女が!!


タシス「変な事考えてるの?でも無駄よ。神様に加護を貰ってね、アンタが私に危害を加える事が出来ないようにしたのよ。」


タシス「何なら試してみる?」

その言葉を聞いた僕は近くにあった燭台を手に取り、思い切り力の限り投げつけた。

すると、燭台は弧を描くようにタシスから反れていき、壁にぶつかった。ガシャンと音を立てた後、コロコロと転がる燭台は無様に感じる。


タシス「ね?無駄だったでしょ。」


アキラ「…ああ。」

どうやらこいつの言葉通りで、人外の力が働いてるようだ。もう、為す術もないのか。


タシス「気が済んだ?てゆーか、さっさと神様のところに行きなさいよ。ゲームは終わりなんだし、もうアンタと話す事もないし。」


アキラ「…奇遇だな、僕もそう思ったよ。」

もうこいつと顔を合わせたくない。

僕は天井に顔を向けた。ただの勘でしかないが、あいつが僕達の頭上で見下ろしている気がする。そして僕の様子を見て、ニヤニヤと笑っていそうだ。僕は天井に向かって、あいつに向かって叫んだ。


アキラ「見てるんだろ思念体!もうゲームは終わりだ!」


僕の声が反響した後、耳元に声が流れ込んでくる。


神「もういいのかい?」


アキラ「ああ、もういい!早くこの世界から連れ出してくれ!」


神「りょ〜か〜い。」

僕の足元に魔法陣が浮かび上がり、この世界から消える間際、タシスを見ると、笑顔で手を振っていた。





そして、僕の旅は終わった。


障害編 ~完~

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