8. 初めての討伐任務
レナは新しい冒険者仲間としてエメリーをパーティの一員に加えた。
今日は初めての依頼を受けに行こうと宿屋を出てギルドにて依頼を確認しに向かう。
ギルドでは既に新規の討伐依頼が貼られていたが、比較的楽そうな依頼はなく初心者でも難度が高いものしか残っていなかった。
ブロンズクラスで受諾可能な依頼は、街の街道に出現するゴブリンの討伐である。
この世界でのゴブリン族は知能がそこそこ高く、仲間で連携なども行うため、初心者にしては難易度が高め、しかも報酬は討伐数で増減するため敬遠されやすい。
レナは躊躇せずに、貼り出された依頼について受付嬢に問いかける。
「ゴブリン討伐依頼を受けたいんだが、可能か?」
受付嬢は怪訝そうな表情を見せながら、冒険者として初心者の彼女に止めるよう進言する。
「初心者の貴方がゴブリン討伐を?止めておいた方がよいと思いますが……」
「それは何故に?」
「ゴブリン族は狡猾で知恵も回ります。一体当たりの強さはそれ程でもありませんが、初心者は敵が弱いと油断して命を落としやすいんです。初めての方には出来るだけ育ってもらいたいため、もう少し簡単な依頼から慣れて挑むのをお勧め致しますが……」
「だったら好都合だ、拙者が受けたいと申しておるんだ、受諾してくれないか」
「はあ、一応警告しておきましたよ。何かあっても後で恨まないでくださいね?」
「了承した、責任はこちらで取る」
受付嬢はゴブリン討伐の受諾申請を受けて内容を詳細に告げてきた。
ロウアン街道沿いの周辺地域に時折ゴブリンが出現して、荷馬車や旅人を襲い荷物を奪ったり殺害されているという。
討伐証明としてギルドの革袋に、ゴブリンの左耳を切り取って持参することで、倒した数量にあわせて報酬を出すという。
依頼を受諾したレナは、扉を開けて外で待っていたエメリーの元へと向かい、今日の討伐任務について伝えた。
「今日の任務は、ゴブリンが街道沿いに群れで現れるから、その者を退治せよとのことだ」
「ええっ?ゴブリン討伐をたったの二人で受けたのですか?」
「何かおかしいのか?」
「え、ええ……。ゴブリンは結構頭が回るので普通四人パーティとかで前後左右を見張りながら挑むものなのですよ、初心者だと命を落としやすいんですが、本気……ですよね?」
「無論だ、お主が行かぬというなら拙者一人で向かうぞ」
「い、行きますよ。少し驚いたんです。」
「言っておくが自分の身は自分で守る事を考えておけ、拙者は一騎当千の攻撃が主体で、他者を守りながら戦うのは得意ではないのでな。手に持っているロッドは殴打系だから多少は戦闘出来るのだろう?」
「ええ、一応多少は戦えますが……武器を見ただけで、よくお解りになりますね」
「武器の形状を見れば直ぐに理解できるだろ。持ち手の頑丈さや先端に余計な装飾が少なく殴りやすそうだから、技は棍術か?」
「その通りです、一応棍棒術の心得があります」
「なら十分だ、さあ行こうか」
二人は街を出て街道沿いを歩きながら今までの話をしながら目的の地に向かう。
徒歩で三十分ほど歩いている最中、レナは周囲の何かに気づき、無言でエメリーに手で合図を送り、止まるように指示を出す。
「居るな……」
レナは全く自然な動きで相手の目的が自分達への攻撃と察して、敵に悟られ無いよう自身の腰にかけた脇差に手を置く。
身体を僅かに斜めに構えて腰を落とし相手の出方を静かに待ち続ける。
痺れを切らした相手が突如として草むらより飛び出し、 武器を持った四体のゴブリン達が前方から二体、左右から一体ずつ、静かに構えているレナめがけて一斉に襲いかかった。
冒険者を数体で同時に攻撃し一人ずつ仕留めて戦力を削いでいく、敵なりに考えた戦法だ。
普通の冒険者ならどこから攻撃をすればよいか、一瞬の判断が出来ず間違いなく負傷するであろう攻撃の連携。
だが、襲いかかられた娘は、全くその場から動こうとしなかった。
敵の攻撃がレナへ当たろうとした瞬間、光を放ち娘は敵の攻撃をすり抜け剣を抜いて立っていた。
ほんの一瞬の出来事のように見えた。
レナはいつの間にか抜いた右手の脇差を、自身の腰に着けた布で刀身を拭きあげ、そのまま鞘へと収める。
先程襲いかかった四体のゴブリンは、全員が立ち止まり一人残さず頭と耳が地面へと落下して、その場に倒れ込む。
何が起きたのか全く解らなかったエメリーは驚愕の声を漏らした。
「えっ……!?なに……?」
まるで何もなかったかのように、レナは地面に落ちた耳を拾いあげ、エメリーの元へ持っていく。
「こいつらの耳を袋に入れといて貰えるか?」
「え……は、はい」
エメリーは素直に討伐証明用の革袋に、ゴブリンの耳を仕舞う。
レナは、何事もなかったかのようにそのまま歩き出し、エメリーも後に続く。
「それじゃあ、次の獲物を探しに行くか」
「あ、あの……レナさん」
「なんだ?」
「今、何をしたんですか?」
「何をって……攻撃の間合いに入った敵の首を切り落として、ついでに耳を落としたんだが、それがどうした?見えなかったのか」
「いやいや、どうしたじゃないですよ!レナさん冒険者初心者なんですよね!?敵四体を一瞬で殺して、更に耳まで落とす芸当を見せるって普通じゃないですよ!」
「そうか?あれくらい普通だが、拙者の師匠はもっと凄かったぞ」
「あれが普通!?いやいや普通じゃないですよ!!」
「そうなのか、冒険者ならアレくらいの芸当普通に出来るものだと思っていたが……」
「それと敵の察知能力もですよ!なんで草むらで隠れているゴブリンに気づいたんですか!?」
「この当たりで敵が隠れるとしたら、岩場や木の影と草むらが身を潜めるのが最適だ。風の流れや周囲を警戒して攻撃の気配は察すれば、自ずと対処は出来る」
「それって初心者冒険者の域を超えてますよね……下手すればゴールドとかの冒険者並の力を持ってるんじゃ……私、貴方に釣り合うか不安になって来ました」
「まだお主の力を見せてもらってないからな、拙者が見る限り悪くはないと感じているぞ」
「それはどうしてですか?」
レナは後ろを歩く娘に軽く視線を送りながら自身が感じたことを伝える。
「エメリーの立ち振舞いだよ。僧侶系の立場なのに戦い慣れてそうな感じがしたからな。それなりに修羅場を潜っているのではないか?」
「ま、まあそこそこ修羅場になった事もありますけど……」
「それにこれから、もっと厳しい戦いになるだろうからな」
「そういえば何処に向かってるんですか?街道から外れて山道に来ましたけど」
「ここだ」
レナ達が到着したのは高さ三メートルはある、少し大きめな洞窟の入口だった。
奥からは何らかの臭気が蔓延していて、怪しい雰囲気が漂っている。
「なんです?この洞窟は?」
「奴らの根城だな」
「ええっ!?ゴブリンの巣がこんなところに!?」
「さっき襲ってきた四体の他にもう一体隠れていて、奴らを倒した瞬間逃げ出したから恐らく斥候だろう、気づかないふりして静かに追っていたんだよ」
「もしかして……入るんですか?」
「ああ」
「依頼の範疇を超えてますよ?ギルドに報告でもいいと思うんですが……」
「臭いものには蓋をするだったかな?師匠の言葉だった。その場しのぎで対処しても根本の問題解決にならない。だったら奴らの元を断てば当面安全になるだろう」
「どれだけの数がいるか解らないのに、突入するなんて自殺行為ですよ!!」
「だったらここで待つか?他に散った奴らが襲ってくる可能性も否定できないぞ?」
「もう、わかりましたよ……素直についていくことにします」
こうして初心者冒険者パーティの二人はゴブリンの巣への討伐に向か事になる。
この先に恐ろしい敵が待ち間変えているとも知らずに。




