7. 新しい仲間
レナが冒険者登録を済ませた後、因縁を付けてきた別パーティと和解し、今日の宿屋を探そうと街の探索に向かうところである女性に声を掛けられた。
「あ、あのっ……私を貴方のパーティに加えては頂けないでしょうか!?」
レナは女性の身なりや姿、全身を隈無く見て特徴を掴み取る。
全身を覆う紺色の服装と手に持つ殴打系の杖から恐らく職業は僧侶系。
頭全体を覆い隙間から瑠璃色のような青い髪を覗かせ、眼には丸い眼鏡のような装飾品をかけ、幼そうな顔つきで気弱そうだが隻眼の中から力強さを感じる。
そして特徴的なのは普通の女性とは段違いな程の胸に備えられた巨大な双丘。
自身の顔と同じ位じゃないかと思えるくらいの大きさに戦慄を覚える。
娘は試しに自身の胸元に手を当ててみたが、余りの格差に驚きを隠せない。
剣士として修行して女らしさは捨てたつもりだが、余りにも女性を強調する部分を見せられて僅かながらに動揺した。
「とりあえず名前を聞こうか、拙者はレナと呼んでくれていい」
「あ、私はエメリー・アスワルドと言います。名乗らずにすみません」
レナは相手の名前を聞き、改めて彼女が何故自身のパーティへ加入したいのか真意を問う。
「拙者は今日冒険者登録を行ったばかりの新米剣士だ、そんな新人に対してなぜ突然パーティへ参加を望むんだ?見たところ僧侶職のようだが回復役は引く手数多じゃないのか」
エメリーは質問を投げかけられ、何故レナと仲間になりたいか静かに答えた。
「その……幾つかのパーティへ加入したのですが、私の素性を知られて直ぐに追い出されてしまうのです」
「追い出される?何故だ」
「理由は……コレです」
目の前の女性は頭に被っていたフードを外し纏めていた髪が風に靡きながら降りていく。
その中で彼女の特徴で非常に気になる部分があった。
自身と同じ魔族の特徴を現す縦に少し伸びた耳が人間では無いことを主張している。
だが、レナは普通の魔族とは耳の形状が、純粋な魔族と異なる雰囲気を彼女から感じた。
「お主、魔族なのか?」
「厳密に言えば魔族とのハーフです。父がエルフ、母が魔族なのです」
「混血種だと?初めて聞いたが、たしかに純粋魔族とは異なるな。パーティに参加しても、その風体で魔族と勘違いされて追い出されるという事か」
「そうです、いくら説明しても理解して貰えません。そこで魔族の貴方なら仲間に加えて貰えるかと思い、お声がけさせていただきました」
レナは彼女の仲間としての加入に対する答えを考えている。
まだ自身は新米冒険者で、どのような仕事をこなせるか、先の稼ぎも見通せない。
まずは素直な気持ちと相手の能力を知り、今後の冒険者稼業に役に立ってくれるかを見極めようと彼女へ問いかけた。
「拙者はまだ新米だ、稼ぎも不安定で二人分を賄えるかも不明だ。それでもいいのか?」
「はい、私は街で冒険者相手の治療の仕事も兼業していて、別の稼ぎもあります。厳しいようであれば、仕事の量を増やすことも可能です」
「ひとつ疑問だが、そのまま治療の仕事を続けた方が安定した収入を得られるのじゃないか?何故あえて死と隣り合わせの危険な冒険者家業を行おうとする?」
「それは……昔に私を助けてくれた僧侶の方と同じ道を歩みたいからです」
「同じ道を歩みたい?よければ聞かせて貰えるか?」
「わかりました、実は昔に私が崖から転落して大怪我をした時、魔族という理由で誰も助けてくれない中、ある人間の女性冒険者が手を差し伸べて私の命を救ってくれたのです」
彼女は一呼吸置いて、更に話を続けた。
「私は助けられたその方と同じ様に、僧侶になりたいと願い、修行を続けて防御魔法や回復魔法を習得し今に至ります。出来れば彼女のように冒険者として精進したい、そう思っているからです」
レナは境遇は違えど人間の師匠に助けられた。
自身も同様に師匠に追いつこうと鍛錬を積み活人剣や様々な技術を学びここに居る。
戦場での武勇や死合を交わす心構え、世の中には絶対的な悪人も存在し、時には斬り捨てる強い心を持てとも言われた。
彼女にも問わなければならない、仲間の行動についての覚悟を持っているか。
「一つ問おう。もし拙者と冒険を共にしたとする、状況によっては悪人を殺めることだってある。お主は人助けを考えているが、仲間が人を殺めても容認できるのか?」
エメリーという女性はレナから示された覚悟を聞かれ全く悩むこともなく即答した。
「はい、貴方様は真が通った人物だとお見受けします。仲間を信頼できなければ共に行動できません。だから貴方の事を信じてついていきます」
レナは彼女の目を見据え、瞳の奥に光る心の輝きを捉えた。
相手は自身を信頼して着いくと覚悟を示したのだ。それならば心意気に答えるべきだろう。
「わかった、そこまでの覚悟があるなら共に冒険者として働こう」
エメリーは笑顔を見せ仲間に迎えてくれたことで、レナへと抱きつく。
「ありがとうレナちゃん、これからもよろしくね!」
仲間に迎えた途端、先程の真面目な雰囲気とは打って変わって急に甘え口調になる。合わせて自身の豊満な胸元にレナの顔を埋めて強めの抱擁で抱きつく。
余りの大きさにレナの顔が完全に埋まり窒息しそうな勢いだ。
「おまっ……ちょっと待って」
剣士として男性の様に立ち振る舞って来たが、自らは女性だと思い出す。
ここは仲間だとは言え、ある程度の距離感は持って接するべきだ。レナはそう考え彼女の胸元から離れて、
「ちょっと離れてくれ、お主……突然距離感を詰めてくるな」
「あら?駄目でしたでしょうか」
「駄目という訳ではないが、今の振る舞いを見ていて思った。お主は女性愛趣味とかないだろうか?」
「そんな事ないですよ、可愛らしい子が少し好きなだけです。ウフフ……」
彼女の目から覗かせる、僅かに垣間見える好色な色合いを見て、レナは人生で初めて別の意味での寒気を感じた。
今更だけど、とんでもない女性を仲間にしたかもしれない。少し後悔の念を感じながら本来の目的に戻ろうと動き出す。
「それじゃあ、今日泊まる宿屋を探すから、何か知っていたら教えてくれないか、出来れば宿泊費が安いところを頼む」
「じゃあ、女性が安く素泊まり出来るミズンス・マストに行きましょう。男子禁制ですが、皆で入れるお風呂もあって人気があるんですよ」
「なんだか高そうな宿だな……本当に安く泊まれるのか?」
「はい、一日銀貨三枚と格安です」
「恐ろしいほど安いな、何か裏がありそうな金額だが…」
エメリーに連れられ目的の宿に向かい格安の理由が判明した。
宿泊客に格安で泊まる際の条件が書いてあった。
『宿泊客は必ずお風呂に入り髪を洗うことが条件、風呂洗髪無しの場合料金は三倍となります』
レナは宿泊の条件がイマイチ理解できなかった。
何故このような条件が提示されているのか、念のためエメリーに聞いてみる。
「エメリー、何故この宿はこんな条件を付けているのだ?」
「あ、コレですか。何かお風呂で流れ落ちた女性の髪を集めて魔法の触媒として高値で売ってるそうですよ、だから宿屋が安く運営できるとか」
「そ、そうなのか。凄いことを考える人物もいるものだな……」
格安で泊まる条件だと言うし、お風呂に入れるならと思いレナは承諾して、早速エメリーと共に風呂に入ることにした。
二人でお風呂に入り、レナは彼女の体を横目でチラリと見た。
胸は非常に大きいが体のラインは冒険者らしい引き締まった体をしており、かなり体を鍛えているようで、冒険者として働きたいという意思を垣間見た。
風呂を済ませ、部屋へと戻りその日は眠りについて翌日を迎えることになる。
──その翌日、とある別の場所
大きめな建物にある、魔法の本が棚に整然と並べられ、机に様々な薬品が揃えられている研究室とも見えるある部屋の中。
三角帽子で深紅色の魔術師らしき衣装を身にまとった女性が、様々な薬品を組み合わせて何かの研究を行っている。
そんな中、部屋の外からノックの音が聞こえ、外から中の人物へと呼びかける声が聞こえる。
「パルフェ様、昨日分の女性毛髪を持ってまいりました」
「ご苦労さまアイシャ、いつものように合成釜に混ぜ込んでおいて」
「承知いたしました、では失礼します」
扉を開け部屋に入ってきたのは、メイド服を着た茶初の大人びた女性。
彼女は主に命じられた通り、部屋の片隅にある白くて大きめの釜に手の箱に入った毛髪を投入していき、部屋を出ていく。
「さって、今日分の触媒作らないとね、こんなんで貴族連中に高値で売れるんだからボロい儲けよね」
パルフェと呼ばれた少女は、近くにあった緑色の薬品を先ほど毛髪を入れた釜に投入すると突然大きな光が溢れ出す。
「えっ?なにこの反応!!何時もの百倍くらい濃度が違う……」
しばらくすると、釜の反応は収まり、白くて透明な色の液体に変化した。
いつもと違う反応が現れ、原因を調べるため先程のメイドを大声で呼びつける。
「アイシャ!アイシャはいる!?」
彼女の大声に反応して、先程のメイドが急ぎ扉を開けて入ってきた。
「お呼びでしょうか、パルフェ様」
「昨日の宿屋の宿泊名簿調べておいて、いつもと違う人が泊まってると思うから、それが誰か調べておいて」
「承知いたしました」
パルフェという少女は、心の中で密かに思った。
(これは、更に稼ぎが増えそうな予感がするわね……)
少女は口元に薄っすらと笑みを浮かべて、何かを企んでいるようだった。
毎週土曜日更新予定です。




