5. 新米冒険者
自身の修行に一区切りをつけたレナは、冒険者として旅立つ準備を始めた。
師匠と共に打ち上げた思い出の太刀、補助武器の脇差しと、活人剣を伝えるための袋竹刀を改良した刃がない鉄棒を帯刀して荷物を纏めている。
そして衣装も師匠と同じ様に袴を着用したかったが修行仲間に止められた。
理由は冒険者として活動するなら目立たない衣装の方が良いと勧められたからだ。
彼女は一般的な冒険者が着用する皮のジャケットにズボンとブーツ姿での出で立ちを用意した。
ただ、一つだけレナが譲れないものがあった。
それは師匠の髷を見立て、後ろで纏めたポニーテールのような髪型。
最低限武士の誇りとして髪は残しておきたい、コレだけは拘りたかった。
荷物を整え出発の準備が済ませたところで、レナは師匠の墓に向かうべく外に出る。
山道に入ろうとしたところで、一緒に修行したダインと鉢合わせた。
彼は何かを察していたのか単刀直入に、眼前の友に問いかける。
「レナ行くのか?」
彼女はその意味を理解していた、四年ほど苦楽を友にした修行仲間だ。
こちらの行動などお見通しなのだろう。
「ああ、明日にも旅に発つことにしたよ」
「お前ならここで師範代として他のものに剣術を指南しても暮らしていけるだろ、なぜ今更危険な冒険者を目指そうとする?」
「何度も言っただろ、私と師匠との約束なんだ。父の仇討ちを成就させる、それが悲願でもあり修行の目標でもあったからな」
彼は何かを言おうとして口を噤んだ。
これ以上説得しても無駄だろうと理解し諦めたのだろう。
「それに、ダインならアイラの事も任せられると思ったからだ」
「な、なんでアイラの事が出てくるんだよ!?」
レナは考えていた。
師匠の世話をしていてくれた身寄りのない一人娘アイラの行く末を。
彼女は素朴だが素直で面倒見もよく人に好かれる良い娘だ。
そろそろ家庭を持っても悪くないくらいの年齢だし、誰かと夫婦になって欲しい。
レナはダインが密かにアイラの事を想っているのを知っていた。
彼は髪も短髪、険しい顔つき、容姿こそ三枚目だが根は優しい人物で懐も広い。
剣技は免許皆伝までいかなかったが、自分が認める腕前で彼女を守り抜ける存在。
だから、アイラの事を彼に全て任せようと密かに心に決めていた。
「お主、あの娘に惚れてるんだろ?私が見る限りアイラもまんざらじゃないと思うぞ。そろそろ高を括って告白したらどうだ?」
「お……俺が打ち明けて、上手くいくと思うか?」
「当たって砕けろだ、躊躇してたら他の人に取られるぞ?」
レナはダイアの背中を強く叩き発破をかけて彼女の元へ向かわせる。
「いってぇ!」
「痛みが消えないうちに、今直ぐ打ち明けてこい!」
背中を押された彼は、急いで村の方に走って行った。
恐らくだがアイラへ告白しに彼女の元へ向かったのだろう。
ダイアの背中を見送り自身は師匠が眠る墓へ向かう。
山の頂きにある墓前に到着したレナは両膝を着き両手で合掌する。
目を閉じて静かに心の中で師匠へ誓い、そして願う。
(師匠、私は明日にこの村を立ちます。仇討ち旅の成就を空から見届けてください)
──翌日
早朝、まだ皆が目を覚まし始めた頃、レナは背中に荷物を纏めた袋を抱え表に出る。
アイラには出発することを伝えていたが彼女は既に部屋には居なかった。
村の外に歩き出し出口に近づいたところで突如として呼び止められる。
「レナ!」
声を掛けてきたのはダイアだった。
直ぐ近くにアイラも居た、恐らくレナが早朝に出発するのを伝えたのだろう。
ダイアは袋竹刀を右手に持ち、左手に握っていた竹刀をレナに投げ渡す。
レナは右手で受け取り相手が何を望んでいるのか直ぐに察した。
竹刀を両手で握り構えてダイアと対峙して呼吸を静かに整える。
周囲の風が震え葉が舞う中、お互い見合ったまま全く動かない。
二人の間に一枚の葉が通り過ぎたところでお互いが動き出し一瞬で交差して離れた場所で背中合わせになりしばし止まった。
そしてダイアは竹刀を降ろし振り返りながら悔しそうに大声を上げる。
「ああ畜生!!やっぱレナは強えなあ!」
「ダイアも腕を上げたな、もう少しで免許皆伝を名乗ってもいいぞ」
二人はお互い歩み寄り固い握手を交わた。
これから旅立つものへの激励と村を守る長として活躍して欲しいとの願い。
言葉に出さずとも手の握りで心は通じ合っている。
「頑張れよ!レナ」
「ああ、達者でなダイア、それとアイラも仲良くやれよ」
「は、はい、レナさんお元気で」
レナは二人の表情を見て察した。
お互い顔を赤らめていた、恐らく告白は上手くいったのだろう。
彼女は二人がここで末永く幸せに暮らしてくれることを願うのだった。
レナの目的は村を出て徒歩で概ね半日程度の街『スピライア』だ。
まずは冒険者ギルドへの到着と、立派な冒険者になること。
彼女は村以外の風景をあまり見たこと無く周囲を見回しながら歩みを進める。
日が頂点を過ぎ少しずつ傾き始めた頃に目的の街に到着した。
中に入ろうとしたところで、レナの姿に目を付けた門番が近よってきて彼女の目的について問いかける。
「お前……魔族か?一体何しにここへきた」
レナは背筋を伸ばし毅然とした態度で目の前の男に自身の目的を告げた。
「人助けをするため、冒険者になりに来た」
「冒険者だと……本気か?」
「拙者は剣士だ。最近魔物がこの近辺に出没し人々襲い困っていると聞いた、だからこの力を冒険者として役立てられると思いやってきたのだ」
門番はレナの真剣で真っ直ぐな眼差しを見て何かを悟ったのか静かに彼女へ伝えた。
「わかった、通ってよし。ただし街中で問題は起こすなよ」
「ああ、了承した」
レナは門を通り街の中に入り道を歩くと、道行く人々が彼女の姿を見て奇異の目で見つめながら小声で話している。
(見て……あの人魔族よ……)
(なにしにこの街に……?)
レナは初めての街で自身が魔族であり忌み嫌われる存在というのを痛感した。
普通の人間とは異なる魔族特有の縦長に伸びた耳がその存在を際立たせる。
既に魔王討伐から幾年か過ぎているが人々からはまだまだ忘れられないのだろう。
彼女は周囲の言葉に耳を傾けずに町中を颯爽と進み目的の建物までやってきた。
「ここが冒険者ギルドか……」
レナは躊躇すること無く扉を開き中へと入る。
中には受付嬢二名と奇異な目で自身を見つめてくる他の冒険者達が複数居た。
だが彼女は意に介さず受付で待ち構えている女性の前まで向かう。
一人は茶髪で大人びた美形の女性、恐らく人気があるだろうと思われる人。
もう一人は赤髪で派手な感じがするが少し幼い雰囲気を醸し出す女性。
そのうち大人びた女性の方がレナに対して来訪の目的を問いかけてきた。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご要件でしょうか?」
「冒険者登録を行いに参った」
レナの言葉に周囲で屯していた冒険者達が騒ぎ出す。
突如現れた剣士風の魔族が放つ言動、彼女の言葉にギルド内の視線が注がれる。
「冒険者登録を……魔族の貴方がですか?」
「魔族が冒険者になったらいけないという決まりでもあるのか?」
「そういう訳はございませんが……少々お待ちください」
受付嬢は裏方の部屋に入り奥にいる誰かと会話しているようだ。
問答が続いているようだったがしばらくして先程の女性が戻ってきて告げた。
「確認しましたが特に魔族の方への冒険者登録を拒否する規定は無いとの事でしたので、受付を行わせていただきます」
受付嬢から登録用のカードへの血判と氏名の記載、登録料銀貨三枚を要求される。
小銭をズボンのポケットから取り出しカウンターへと置く。
受付嬢は淡々と手続きを済ませ、目の前の娘へ最終確認を行う。
「はい、こちらがレナ様の冒険者カードとなります。まずはブロンズランクから開始して一定数の依頼ポイントを稼ぐことで次の昇格試験を受けられます」
レナは手渡されたカードを受け取り自分の胸元に仕舞う。
「ご不明な点があれば隣のメルティまでお問い合わせください、私はマルーシャと申しますので今後お見知りおきを」
「わかった、ありがとう」
冒険者登録の手続きが終わったレナは、本日泊まる宿を探すためギルドを後にする。
だが、後ろから追いかけてきた数名の冒険者達に呼び止められた。
「おい、姉ちゃんちょっと待ちな」
レナは、冒険者として活動する前に、とあるパーティ達に囲まれイザコザに巻き込まれる事になった。
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