4. 旅立ちの日を編集
レナは師匠との修行の日々を毎日過ごし順調に成長を続け三年が経過した。
村の住人も少しずつ増え彼女以外の子供たちにも剣を教え門下生は増え続けている。
野党に襲われ助けられた時は弱き少女だった彼女は剣士としての頭角を表し始め今日も師匠との組手を続けていた。
師匠から教えの通り相手を一撃必殺で倒すべく振るう刃、何度も繰り返し相手を仕留められる場所を狙い攻撃を繰り出すが全て簡単に弾き飛ばされていく。
「そこまで!」
師匠によって攻撃が静止され、レナは荒ぶった呼吸を整えて木刀を腰に収める。
「攻撃手段も見違えたが、まだまだ皆伝には遠いな」
「これだけ攻撃を繰り出しているのに全部弾かれてしまいます。お聞きします更に剣術を向上させるには何が不足していますでしょうか?」
「お主はまだ攻撃に無駄がある、刀を相手の急所へ最短距離で届かせるために体の動きを更に小さくせねばならん、攻撃を繰り返すことで少しずつ散漫になっているのだ」
「なるほど……という事は一刀両段や無形の位の練習がまだまだ足りないという事でしょうか?」
「よく解っておるでないか。一刀両断は相手への攻撃を最短で到達させるための基本、そして無形の位に転化を心がけよ」
「はい!わかりました師匠」
「さて、次は我の攻撃を受ける番だぞ」
「お願いします!」
師匠は自身の袋竹刀を取り出し、居合の構えをして攻撃の準備行う。
次の瞬間圧倒的な剣の手数をレナへ繰り出す。
だが彼女も師匠の剣を木刀でいなし次々と弾き飛ばしていく。
まだまだ本気ではない師匠の攻撃を受け止めながら体の節々まで神経を回す。
師匠の攻撃を受け笑みを浮かべているのは剣の喜びを全身で感じていたからだ。
目標となる師匠へ最短距離で追いつこうと必死に剣の動きを見極めていた。
──それから更に四年経過
レナは毎日修業を続けで以前とは比べ物にならない程の剣士へと上り詰めていた。
現在、師匠との組み手は行わず一部の門下生と共に剣技の修行を極めている。
師匠は皆が修行を行うのを縁側で静かに見守っていた。
彼女は既に気づいていた、師匠はかなりの高齢でしかも病気に侵されている。
あと何年生きられるのかは解らないが、師匠に認められる剣豪へと上り詰めたい。
自分を育ててくれた恩師に成長した姿を見せたい一心で修練を続けていく。
そんなある時、修行の途中で師匠から声を掛けられた。
「レナよ、お主に話がある」
「なんでしょうか師匠?」
「明日お主の試験を行う、そこで我より一本取るのだ、よいな?」
彼女はその言葉を聞いて察した。
恐らくこれが師匠と戦うことが出来る最後の組み手になる。
それなら全身全霊を持ってお相手していただくしかない、彼女は師匠の元へ正座で跪き礼を持って受諾の意志を伝える。
「わかりました、その試験謹んで受けさせていただきます」
──翌日
久しぶりに師匠が武士の袴を纏い彼女が憧れた凛々しい姿で現れた。
レナ自身が憧れた剣豪として威圧感と貫禄を感じる。
「ではいくぞ、我が生涯を賭けた剣の一撃、しかと受け止めよ」
師匠は腰を深く落とし居合の構えを取り圧倒的な殺気を放ち出す。
これは師匠が繰り出そうとしている最強で本気の一撃だ。
ならば自分自身も今出せる最高の剣技で応じるしか無い。
レナも自身の体から殺気を出して本気の一撃を決めるべく同じ構えを取る。
この一刀に今まで積み上げた修行の成果を全て出しきるようにと。
次の瞬間、ノブツナの刀が自身めがけて襲いかかる。
レナは相手の刃に剣を重ね師匠の教えを忠実に方向を反らし、自身の刀をそのまま真っすぐに相手の首筋近くに滑らせ、そのままの姿勢で静止した。
僅か一瞬の勝負であったが相手の攻撃を反らし、自身の武器で相手を一撃で仕留める新陰流特有の合撃に則った攻撃手法だ。
師匠は刀を納め正面に立つ、レナも同じ様に構えお互い礼を交わし師匠が結果を伝えた。
「よくやったレナ、お主を新陰流免許皆伝を授けよう」
「ありがとうございます!師匠」
「だが剣の道はまだまだ険しいぞ、更に精進せよ」
「はい!これからも精進いたします!」
安心したのか師匠が突然激しく咳き込み地面に足を付け座り込む。
激しく咳を続けた跡には、地面に血が落ちていた。
「師匠!!大丈夫ですか!?」
レナは師匠の元へ近寄り呼吸を落ち着かせようと背中を擦りながら様子を見る。
「どうやらそう長くないようじゃの、だがお主の成長を見届ける事が出来て我は満足だ」
「そんな事言わないでください…師匠にはまだ元気で居て欲しいです」
「人はいずれ死ぬ、お主は目的の仇討ちの旅に向かうがよい」
「いえ、できればもう少しだけ師匠の側で修行を続けたいです」
「そう願うか、なら最後の仕事に取り掛かるか。レナよ手伝ってくれんか」
「最後の仕事ですか?」
「そうだ、この世界では我が居た日ノ本より恐ろしい化け物がおると聞く、恐らく今の刀では太刀打ちできないだろう。だからお主に新たな刀を打ってやろう」
「新たな刀を?」
「この世界では刀が存在しておらん、だから打ち方を教えて後の世に伝えてくれ。お主と会った時に手に入れた金子を使って商人からの最高の鋼材を手に入れた、一緒に作り方を習得するのだ」
レナは師匠と共に村にある鍛冶場へと向かいで二人で刀を打つ作業を手伝う。
小割りや折り返し鍛錬を繰り返し伸ばし、素延べ火造りなどを経て刀を打ち上げた。
最後の仕上げまで終わったところで、師匠が力尽きて倒れる。
「師匠!しっかりしてください!」
レナは倒れた師匠を背中に抱え自宅へと連れ帰って布団へ静かに寝かせ様子を見る。
彼女は師匠が自分のために限界を越えた状態で働いてくれたと察した。
本当に彼が最後の仕事として刀を打ってくれたのだ。
何時間経過しただろうか、静かに師匠が目を覚まし声を出す。
「レナは近くにいるか…」
「師匠!私はここにいます!」
呼びかける相手の手を握り自分が直ぐ側に居ることを大声で伝えようとした。
既に目が見えないのか師匠は静かに言葉を続けてくる。
「レナよ……最後に聞いてくれ。我とお主は師弟の関係ではあったが、実の娘のように思っていた。だからここまで成長を見届けることが出来て満足だ。後は己が目標の仇討ちを目指して旅を続けよ」
「師匠……いえお父さん。わかりました」
「頼んだぞ、必ず成就するのだぞ……」
そう言い残し師匠は笑顔を見せて静かに息を引き取った。
自分の目標とした師匠であり父とも言える存在が亡くなり、レナは大声で泣いた。
大事な人を失う悲しみ、それをニ回も経験したのだ。
それから、皆に見送られ師匠の墓を街全体が見渡せる山の頂きに作り埋葬を行う。
村を見守る師匠の心情を考えた全員の心遣いであった。
それから一年の時が経過した。
レナは師匠が残してくれた各種剣技に関する書物を読み耽り更に修行を続けていた。
剣術以外に槍術や様々な技術を身に着けて免許皆伝の名に恥じないように鍛え続けていき自分が納得が出来るまで仕上げ、旅に出る決意がつく。
師匠が教えてくれた人を活かす剣技を刀に込めて、これからも戦うことを心に誓い旅立ちの準備を始めることにした。




