2. 修業のはじまり
魔王城から逃げ出した娘は、放浪の剣士に助けられた。
父親の仇討ち成就を彼に問われ、少女は剣士の弟子となり修行を受けることを決意する。
少女は着のみ着のままで、剣士が暮らしている小さな集落に連れて行かれた。
そこで、彼女は村人に魔族という存在の洗礼を受ける。
「…あの人、魔族じゃない?」
「…剣士様、何故あんな人を」
だが剣士はそんな言葉を一蹴するように大声で皆へと伝わるように叫んだ。
「この娘は、某の弟子となった!皆仲良くするように、文句があるなら直接言ってきなさい」
彼の宣言によって村人のざわめきは静かになり平穏を取り戻した。
余程この村で頼りにされている人物なのであろうと少女は感心し後へと着いていく。
しばらく歩いた後に村から離れた広い家に到着し、軒先に座るよう促される。
「まずは娘よ、お主の名前を聞かせてくれ。拙者の名前はノブツナと言う」
「私はレナイアと申します」
「なんだか呼びにくい名前だのう、レナと呼んでも構わんか?」
「はい、問題ございません」
ノブツナという男は、少女の言葉遣いが気になったのか是正するように促した。
「レナよ、お主と拙者は師匠と弟子の関係になったのだ。堅苦しい言葉使いはやめて普通に話すよう心がけるようにな」
「は、はい!わかりました師匠」
「それにしても替わりの服が無いのは難儀だのう、他に用意はなかったのか?」
「私が乗っていた馬車に荷物を隠していました。ただ野党に襲われたので既に盗まれたかもしれません」
「そうかまあ、諦めることはない。近くに馬がおるから明日にでも探しに行くか。今日は色々あって疲れただろう、風呂の用意をしてやるからそこで待っておれ」
師匠は風呂へ向かい竈門に火を焚べようとしていた。
だが火を着けるのに不慣れなのか火打ち石から着火に苦戦している。
「師匠、ここに火を着けるのでしょうか?」
「うむ、何度やっても慣れなくての。少し時間がかかるからちょっと待っておれ」
「それでは、私が火を着けましょう 『精霊よ我もとへ顕現せよ。ファイヤーボール!』」
レナの魔法により竈門の薪にあっと言う間に日が燃え広がるのを見て師匠が驚く。
「なんじゃレナよ、お主妖術が使えるのか?」
「え、ええ魔族は魔法が使えますので、火や水と言った精霊術が使えます」
「ほほう、便利だのう。今後はレナに火起こしや水くみを頼むとするか。ついでに隣の裏にある風呂釜のところにも火を着けておいてくれんか?」
「わかりました師匠!」
準備を行いながらしばらくすると村の娘が家を訪れる。
見た目からは、まだ顔に幼さを見せる十代前半と思われる若々しい女性。
焦げ茶色の長い髪を背中で一つにまとめ、客人であるこちらを一瞬見据えて師匠へと帰宅の挨拶を交わす。
「おじさんただいま」
「おかえり」
「紹介しておく、この娘はレナだ。今日から拙者の弟子となって一緒に暮らすことになった。レナよこの娘は一緒に暮らしているアイラだ。」
「はじめまして、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、お世話になります」
娘はレナのボロボロとなった服装姿を見て何かを悟ったかのように問いかけた。
「その服、野党か盗賊に襲われたのですか?」
「ああ、すんでのところで助けたがの。変わりの服がなくてな」
「じゃあ、私の予備を後で持ってきます。少し小さいかもしれませんが、女の子がそんな薄着でいたら危険ですからね」
魔族の自分に対して普通の娘として隔たり無く心配りが出来る彼女に感謝の気持ちを伝えるべく素直に言葉を述べる。
「ありがとうございます」
「それじゃあ、食事の用意をしますね。しばらく待っていて」
アイラは、慣れた手つきで包丁で野菜を切り沸騰した水の中に入れていく。
壺から何かの茶色い物を混ぜて香ばしい匂いを周囲に漂わせる。
続けて釜で何かの穀物を炊き上げていき、釣ってきた魚を捌いて焼き始めた。
少女はまるで熟練料理人の様に、手際よく料理をこなしている。
恐らくだが幼少期から料理を鍛錬し、このような技量を身に着けたのであろう。
しばらくすると野菜の煮汁と魚の丸焼き、白い穀物の夕食が用意されてした。
レナは今まで見たこともない食事と箸の使い方もわからずに戸惑う。
「これはなんという料理でしょうか?それにこの道具、使い方がよくわかりません」
「これは、味噌汁にご飯と焼き魚という拙者の故郷にある飯だ。アイラの料理は中々に美味いぞ。そして箸はこうやって持つんだ、慣れるととても便利だぞ」
器用に箸を使いこなす二人の見様見真似で箸を使い、食事を食べる。
全く未知の料理だったが一口食べて今まで味わったことのない美味さについ声を上げて伝えた。
「アイラさん!これとても美味しいです!」
「お口にあってよかった。まだまだあるから沢山食べてね」
食事後は師匠の事が気になり、レナは何度も質問を繰り返す。
師匠は元々は日ノ本の国というところから放浪旅を行い剣術を教えていたという。
そして京という場所から故郷への帰郷中のある神社を出た所でこの地に迷い込んでこの村の近くに来てしまった、
偶然にもこの村が野党に襲われていたのを見つけ、全員を撃退し村人達と共に暮らすようになり皆を守りながら、子供たちに剣を教えているという。
その後、アイラと共にお風呂に彼女の身の上も聞いてみた
アイラは幼い時に野党に両親を殺されて独り身となったため、師匠と共に住んでいるという。
レナも両親を殺されて師匠に仇討ちを誓いここに来たことを伝えた。
その後は疲れが出ていたのかそのまま床につき深い眠りにつく。
──翌日
師匠の馬に二人で乗り馬車が壊れた現場へと向かう。
やはり野党により馬車は壊され粗方の荷物は盗まれていた。
だが襲われた時の事を考え座席の下にお金や財宝を隠していた分は無事だ。
ノブツナは残った宝を見てレナに問いかけた。
「残ったお金を使って武器や洋服などを買ってもよいか?」
レナは静かに頷いた、これからお世話になる人物だ。
彼女は彼に全てを差し出してゼロからやり直す事を覚悟したのだ。
仇討ちを成就させるためには、現時点では不要だと。
村に戻ってからレナはまず基礎体力づくりとして畑仕事を手伝わされた。
体をほぐし体の筋肉を少しずつ鍛えていくためだ。
その次の日は近くの河川にて魚釣りを教えられた。
心を動かさずに水面を見つめ精神修行に良いという理由からだという。
毎日の仕事が終わり疲れがある中で刀の構えと素振りの練習を夜遅くまで行う。
レナは修行の辛さと今まで味わった事がない充実感を日々感じるようになっていた。
──それから一ヶ月後
レナは師匠の元で剣士としての心のあり方、剣の基本修業を続けていた。
坐禅をして心を無にして周囲と一体になる心構え。
剣術の練習、戦いの立ち回り、太刀筋や一撃必殺の攻撃や覚えることは沢山ある。
まだまだ基礎の基礎を練習で積み重ねていき更に月日が流れていく。
だが平穏に修行を続けていたある時、村に異変が起きる。
近隣にあるアルデイル王国から村を探るよう命じられた騎士たちが現れたからだ。




