1. 魔王を討つ勇者、逃亡する娘
ここはある異世界の魔王と呼ばれる者が存在する居城。
いわゆる魔王城と呼ばれる場所。
世界の平和を担うと豪語する恐ろしいほどの強さを持った勇者の一団が城主である魔王の元へと迫っていた。
城の主を守るために側近たちが、勇者達と戦い次々と討ち死にしていく。
玉座に座り迎え撃つ魔王と、すぐ側で娘が不安そうに立ち尽くしていた。
「魔王様!もうすぐそこまで勇者パーティが迫っています!これ以上保たせられません!」
「お父様!お逃げください!」
「我はこの城の主として奴らと戦わなければならん、アルカよここに!」
魔王に呼び出されメイド服のような衣装を来た女性の魔族が現れる。
「魔王様お呼びでしょうか?」
「レナイアよ、お主は裏の隠し通路からアルカと共に逃げよ」
「イヤ!私もお父様と一緒に勇者と戦います!」
「ダメだ、お前は逃げるんだ」
「何故ですか!?」
「父の最後の願いだ、お前はだけはどうか逃げ延びてくれ、そして我ら魔族が陥っている世界の歪さを知って変えてくれ…頼んだぞ」
配下の魔族の娘に抱えられ裏口へと強引に連れて行かれる娘。
「いやああ!お父様!離してアルカ!」
少女は従者と護衛の兵士とともに抱えられ馬車に乗せられ魔王城を急ぎで出発した。
全力で馬車を走らせ逃げていくが、しばらくして火事場泥棒の野党に発見され追撃が始まる。
従者が必死に追手から逃れようと馬車を走らせるが、相手はニつの隊を率いて別れて馬車に何度も体当たりを繰り返す。
ニ台の馬車による容赦ない攻撃で姫たちが乗っていた車はバランスを崩し森の木に当たり車輪が壊れ停止してしまう。
「お嬢様!ここは私達に任せてお逃げください!」
従者たちは姫を外に出し追手たちの前に立ちはだかり敵を迎え撃つ。
「私達は姫をお守りするのが使命!どうかご無事で」
そう言って全員が野党に向かって行き戦いを始める。
逃された姫は高々とした木々が覆い繁る深い森の中へと入り込む。。
真っ赤な貴族のドレスを靡かせ少女は森の中を全力で走って逃げていく。
どれくらい走り続けただろうか。
少女の足取りは既に限界に近く、木々の根や草に足をとられるたびに何度も倒れ、それでも負けじと立ち上がり走り出す。
護衛として一緒にいた仲間達は少女を逃がすため戦い次々と命を落としていのか、既に野党達が後ろから追ってきていた。
少女は必死に逃げ捕まらないよう終着点が見えない先に死力の限り進み続けている。
遠く離れた背後からは下卑た怒号と、複数の男たちが草を踏みしめ重い足音を響かせながら叫び迫って来ていった。
「おい、逃がすんじゃねぇぞ!魔族の娘だ!捕まえて売り物にするんだから絶対に殺すなよ!」
娘は必死に逃げ続けた。
追いつかれたらどうなるかわからない、そう思いながら逃亡を続けたが体力の限界で足がもつれ地面に転んでしまい、とうとう追いつかれる。
(もう、だめ……)
娘は諦めの声を心で叫び追ってきた野党たちに捕まる。
両手と足を組み付されて抵抗しようと足掻くが体が言うことを聞かない。
野党は追い詰めた獲物を狩るハンターのように下卑た声を出しながら娘へと告げる。
「へへへ、手間取らせやがって。魔族の割にはいい顔してるじゃねえか。こりゃ高値で売れそうだ」
「いや!やめなさい!この下衆共!」
「売る前に先にちょっとだけ味見しても構わねえよなぁ…」
全員で娘の体を抑えながら少女のきれいなドレスは乱暴に破られる。
ビリビリと無惨な音を響かせてあっと言う間に少女は下着姿が顕になり大声で叫ぶ。
「嫌ああああ!やめて!お願い!」
「うるせえなあ、あんまり騒ぐと殺すぞ?」
男の一人が首元に短剣を当てて静かにするように脅し少女の表情が恐怖に歪む。
少女の視界は涙で滲み、男の一人は娘の両足を開き自身のズボンを降ろす。
このまま男たちの慰み者になると娘は全身の力が抜けかけた。
その時、突如としてこの世界では見かけない異形の格好をした人物が男たちの背後に居た。
編み笠を目深に被り、綺麗な着流しを纏った男が一人、静かに背後に立っている。
腰には、黒塗りの鞘に収まった二本の刀を備え静かに男たちに告げる。
「お主ら、その娘子は嫌がっておるだろう。やめんか」
背後から突然声を掛けられ驚きを見せた男たちは振り返り声の主の方に振り返る。
年齢的としては初老に近い少し年老いた男性を見て余裕の表情で脅す。
「なんだこのジジイは?」
「群れ立ってこのような娘を無理やり手籠めにしようとは、武士の名折れぞ。」
「あぁ?邪魔するなら先にお前を殺す、さっさと消えやがれ」
野盗の頭目と思われる男が剣をちらつかせて脅しをかける。
男は笠の下でわずかに眉を動かしたようだったが、その場を一歩も動かない。
「素直に引き下がらんか、やむを得んな」
武士は腰に下げた黒い木刀を抜き正面に構えて臨戦体制を見せた。
相手の好戦的な態度を見て野党たちは怒りに任せて全員が剣を構える。
「おい、お前ら先にこのジジイをぶっ殺せ!」
男の周りを徐々に野党達が囲みはじめ逃げ場を無くす。
逆上した頭目が剣を振り上げ、それに続いて手下たちも一斉に襲い掛かる。
少女は無抵抗のまま男が襲いかかられる様子を見て悲鳴をあげて相手の死を覚悟した。
ほんの一瞬だった。
武士は自身の木刀を振るい上げると全員の剣が足元に転がり金属音を響かせる。
編み笠の隙間から覗くその瞳は、深淵のように静かで、鋭い眼光を覗かせて全員に告げた。
「……これ以上戦うのなら本物の剣を抜く。その時は全員命は無いと思え。死にたくなければここを立ち去れ!」
「な、なんだコイツ化け物か!?」
その言葉と共に自身の腰へ手を掛けて刀を抜く構えを見せた。
相手からの圧倒的な殺気を感じて、野盗たちは恐怖で顔を真っ青にし、武器を放り出して悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
「ひ、ひぃぃッ!?」
「ば、化け物だーっ!!」
「みんな逃げろ!」
遠ざかる情けない叫び声を聞きながら、男は「ふぅ」と小さくため息をつく。
そのまま少女への元へ静かに近寄り言葉をかけた。
「娘っ子、怪我はないか?」
恐怖に怯えていた少女は助けられた相手が人間である事に驚きを見せ問いかける。
「何故ただの人間が魔族の私を助けた!」
「お主が助けを乞うていたからだ。そして娘よ、まずこういう時は伝える言葉があるだろう?」
少女は相手に促され大事なことを伝えることを忘れていた。
男の言う通り、自分は助けられた。
まず感謝の言葉を告げるべきだと気づき相手へと伝える。
「危ないところを助けていただきありがとうございました…」
「よし、礼節は大事だぞ。ところでお主はなぜ追われておった?」
少女はここまでの起きた経緯を眼の前の男へ告げる。
魔王の娘だという事は隠し、賊に城を襲撃され城主の父が戦い恐らく死んだ事。
従者の数人で逃げていたが野党に追われここまで逃げて来たと。
「そうか、賊に父が討たれここまで逃げてきたと…」
「はい、私は父の生き延びろという願いを聞き逃げる事しか出来ませんでした。貴方様は何故この様なところに居たのですか?」
「某は剣技を教える放浪旅を続けておった。食料となる獲物を探していたら偶然この場に出くわしたと言う訳じゃ」
「偶然にも助けられたという訳ですね。これも運命なのでしょうか…でも私は悔しいです…何も出来ず逃げることしか出来なかった。死んだ皆に報いてやりたいのに」
「だが父はお主が生きることを望んだのだろう、無駄死にしては父も無念だろうて」
眼の前の男は顎に手を当て少女の瞳を見据えて何かを考えていた。
しばらく考えた後に相手へ告げる。
「娘よ、今のお主は弱い。戦っても無駄死にするのは目に見えているがそれでも父や仲間に報いたいか?」
「討たれた父と死んだ仲間の仇を討たなければ、申し訳が立ちません!」
「そうか、なら提案だ。もしお主が望むなら拙者の元で剣の修業を願うか?仇討ちを成就させるための剣術を己の武器として覚えるのだ」
少女は相手からの提案を聞き驚きの表情をみせる。
彼は自身を鍛えて仇討ちを成就させてくれるという。
力強い男の言葉に従い修行をする、自身が強くなれる可能性を信じ静かに頷き相手へと意志を力強く伝える。
「どうかよろしくお願いいたします!」
こうして魔族の少女と放浪の武士による剣の修業が始まりを見せるのであった、




