初めての冒険で――
とりあえず、道沿いに歩いてみれば、何かあるだろうと思って歩いてみると、見事なまでに人っ子一人出会わなかった。とはいえ、収穫が無い訳ではない。
「あ、これ傷薬に使える植物ですよ。ついでに、いくつか採取していきましょう」
薬や服を作るための繊維になりそうな植物を片っ端からキューブ化して、保存している。
おかげで、ちょっとした怪我をしても、一人で応急処置が出来そうだ。
そんな道草を食いながら、俺とルッツはとある山を目指していた。
「この道右ですー。ここを真っ直ぐ行くと鉱山で生計を立てていた村があるのです」
「へぇー」
「石以外にも鉄などの金属があれば、グッとクラフトの可能性が広がるので、沢山手に入れたいですね」
鉄か。確かにあれば色々便利そうだ。
鉄で道具が作れれば、コロンにも色々やってもらえそうだしな。
家畜の檻を作ったりも出来る。
「ん? 煙が見えるんだけど」
「あら? 本当ですね」
「嫌な予感がするなぁ……。コロンが行き倒れてた理由って帝国軍とかいうのが村を焼き払ったからだろ?」
「人が住んでいる村なのですから、煙くらい出ますよー。主様は考えすぎなのです」
「だと良いけどなぁ……」
妙な胸騒ぎを抱きながら山に入ると、俺の予想は完全に外れていた。
軍人っぽい人は一人もいない。かわりに村人も一人もいなかった。
窪地になっている場所に、なにやら巨大な影がいたんだ。
剣やら槍やらが刺さった赤い大きなドラゴンが丸くなって寝ていた。
周りの草に火が点いているのは、このドラゴンがくしゃみでもしたせいだろうか。
「立派なのが住み着いていたのです。村人第一号なのです」
「いや、これどう見ても人間じゃないだろ……」
「主様もそう思いますか? やっぱりどこからどう見ても、ドラゴンなのです」
「おいおい、ルッツさん、これの何処が人の住んでいる村だから煙くらい出る、だよ?」
「ドラゴンが住んでいても煙が出るのです。というか、主様に考えすぎと言いましたけど、主様はこのパターンを考えていました?」
「いや……全く……」
って、漫才やってる場合じゃ無い。こんなのが目を覚ましたら、命がいくつあっても足りない。
物作りの魔法は手に入れても、戦闘用のチートは貰った記憶がない。
こうなったら、ドラゴンが目を覚ます前に逃げないと――。
「グルァアアアア!」
「って、起きたああああ!?」
空気の振動が肌に伝わるほどの大音量の咆哮が襲ってきた。
やっばい。これ完全に怒ってるヤツだ。
口の中には火花が見えるし、これ間違い無く火を俺に向かって吹いてくる。
周りに隠れる物は何もない。逃げようにも来た道もただの山道だ。
「えぇい! 一か八か! クラフト! ウォール!」
試しに地面を思いっきり殴ってみると、土の壁がせり上がって俺の盾になった。
炎が盾に弾かれ、逸れていく。
それでも十分な熱が来て、メチャクチャ熱い。
とはいえ、耐えきれない訳でもない。ルッツと一緒に土の影で震えていたら、炎が止まった。
よし、この隙に逃げよう。
だが、逃げようとする俺達の後ろで、土の壁があっさりと砕かれた。
「ですよねー!? 所詮土の壁ですもんねー!?」
ツメを振るっただけで砕けるとか、やっぱりドラゴンは化け物か。
「主様これはいわゆるピンチなのです。生命の危機なのです」
「言われなくても分かってる!」
竜がツメを振り下ろしてきた。
ダメだ。やられる。あんなの食らったら身体が真っ二つか、ミンチになるっての!?
咄嗟に目を瞑ってみたが痛みは訪れなかった。
代わりにドシンと重い音がした。
不思議に思って目を開けてみるとドラゴンが勝手に崩れ落ちていた。
「へ……?」
「もともと限界だったみたいなのです」
倒れたドラゴンが目の前で苦しそうに息をしている。
俺を襲ってきたドラゴンとは言え、何か目が悲しそうだった。
もしかして、何か酷い目にあったのか?
喋れたら何か分かるのかな?
会社にいた時の俺みたいに、理不尽に対して何も言えずに貯め込んでいるだけの目をしている気がしたんだ。
「あ、主様、近づいたら危ないのです!」
「いや、大丈夫。ただ、ちょっと魔法は使う」
「へ? 主様?」
ちょっと痛いかもしれないけど、優しくやるから我慢してくれよ。
「人の形に変えるぞ。リビルド」
俺はハンマーで竜の鼻先を軽く叩いた。
すると、巨大な竜の身体から白い煙が吹きだし、巨体が消えた代わりに、煙の中に一人の少女が倒れていた。
「うぅ……痛いよぉ……。何もしてないのに……。ただ、ご飯食べてるだけだったのに、何でみんな虐めるの? 怖いよ……誰も近寄らないでよぉ……」
竜の姿で浴びた傷は癒えていないのか、かなり痛々しい姿に俺は思わず目を背けた。
全身が血だらけで真っ赤だったんだ。
人が怖いか……。俺も死ぬ前は上司が怖かったっけ。一生懸命やっているのに、机を蹴られたり、怒鳴られたりして、助けようとしたら俺も巻き込まれた。
この子も悪いことしてないのに出会い頭刺されたのか。見た目が怖いってだけの理由で……。
俺の見た目が弱そうだからって理由とは真逆だけど――。
「ルッツ、傷薬と包帯を作るぞ」
「主様ドラゴンを助けるつもりですか?」
「違う。ペットにしたら、面白そうだって思っただけだ。弱った魔物を仲間にするのはゲームの定番だろう」
「主様は照れ屋さんですねぇ。傷薬でしたら、先ほど採取したヨモギンとガママを材料にクラフト出来ますよ」
袋から言われた通りの植物を取り出して、俺は樹の板の上に乗せた。
樹の板を容器にして、その中に塗り薬を作る。
「クラフト!」
ポンと音を立てて、木の板と植物が白い塗り薬の入った小皿が現れた。
「では、次にアサアサの葉を材料に包帯を作りましょう」
続けて、包帯を作るためにやけに葉が分厚かった植物を取り出す。
その葉をもう一度ハンマーで叩くと、見事に白い布が出来た。
葉は少し硬いかなと思ったけど、思った以上に柔らかい布が出来た。
これで材料は揃った。後は、この薬をあのドラゴンの子に塗るだけだ。
「ルッツ、押さえてくれ」
「はいなのです」
「染みるけど、我慢してくれよ」
ルッツに竜の少女を押さえて貰い、俺は作った傷薬を少女の皮膚に塗り始めた。
触れる度に、少女の身体がビクンと跳ねる。
「あうぁ……うぁあああ!?」
かなり痛いようだけど、我慢して貰うしか無い。
「これ効果はあるんだよな?」
「はいなのです。即効性も高い良い薬なのです」
作った本人が薬効を試してはいないのだけれど、物作りの精霊が言うなら信じよう。
俺はそのまま彼女の全身に傷薬を塗りたくり、包帯をぐるぐると巻いていった。
「うん、これで良し」
とりあえずの処置は済んだけど、ドラゴンの娘は気絶しているからか、自力で動く様子が無い。
このまま放置する訳にもいかないし、やっぱり運ばないとダメだよな。
「もしかして主様がこのドラゴンをリビルドして、人型にした理由って」
「これなら治療がしやすいとか、運びやすそうとか、なんて思って無いぞ。竜の姿のままだと暴れられたら怪我させられると思っただけだ。俺じゃ落とすかもしれないし、ルッツが運んでくれ」
「主様は照れ屋さんなのです。では、私もこのままこの子を運ぶのです」
ちょっと予定とは違ったけど、仕方無い。ドラゴンがいたらどちらにせよ道は通れなかったんだ。
「帰ったら道をふさいでたお仕置きをするぞ。この血で汚れた包帯をひんむいて、染みる薬を傷口に塗って、包帯でグルグル巻きにして、動けないようにベッドに寝かせるんだ。んで、起きたら喋れなくなるまで口を餌で塞いで、お腹が苦しくなるまで詰め込む。それで最後に誰もいない山に解き放ち孤独で苦しめてやる」
「ウワー、コワイオシオキナノデスー」
ルッツに棒読みされたせいで、何か恥ずかしくなってきた。
でも、俺は決めたんだ。今度は自分の人生を生きようって。だから、こうでも思わないとまた俺は余計なことに首を突っ込んで、貧乏くじを引いてしまう気がしてならなかった。
もう人助けをして、人に貶められるのはごめんなんだ。




