彼氏の実家
九条があまりに当たり前のように言うから、紘乃はすっかり反応のタイミングを逃してしまった。
(そんな、いきなり過ぎる……)
心の準備もないままに、目の前で起こる展開に、気持ちがついていけない。
急に身体が硬直して、冷や汗が流れる。
(どうしよう、緊張してきた)
その緊張は繋いだ手から、九条にも伝わっていたらしい。紘乃がぎゅっと力を込めた手を、九条も力強く握り返した。
紘乃だけに伝わる体温。たったそれだけでも、ひどく安心出来る。それは紘乃の手を包み込む九条も、同じ気持ちだった。
「九条先輩」
篠宮に呼ばれ、九条は我に返って振り向く。
「美月が限界みたい」
そう言った篠宮の横で、美月は見るからに苦しそうな吐息で俯いている。篠宮が支えていなければ、今にも倒れそうだ。
心配した女子達が声を掛けても返事はない。
「ちょっと大久保ー」
九条が呼ぶと、大久保は如何にも嫌そうな顔を向けた。
「眼鏡さん、運んでやって?」
「なんで俺が」
「誰のために眼鏡さん口説いたと思ってんの。他の子で文句言うのお前だけなんだから」
「……チッ」
大久保はわざとらしく舌打ちをして、美月の前に立った。
「ぅ、あの……あたし、大丈夫なんで――」
「黙れ」
具合が悪いながらもさすがに大久保の不機嫌を察した美月が、慌てて身振り手振りで大丈夫だとアピールする。
しかし大久保は問答無用に振り上げた手を、美月の首筋に振り下ろした。
――ドサッ!
(((えーっ!?)))
手刀の一撃を食らい気絶した美月を、大久保が肩に担ぎ上げる。
あっという間の鮮やか過ぎる一連の流れに、皆口を開けて呆然と立ち尽くすしかない。
「一応病人だから丁重に扱ってやってー?」
九条の言葉も虚しく、美月はそのまま米俵担ぎで連行された。




