駆ける想い
女子の荷物は大抵多い。そして重い。
ましてや一泊ともなれば、その苦労は増すばかり。
それは紗弥加も例外ではない。
目的地に着いたバスを降りると、暑いのが苦手な藤代は早く建物内に入ろうと慣れた足つきでスタスタと歩いて行ってしまう。
置いていかれないようにと慌てて荷物を持ち上げた紗弥加だったが、持ち慣れない重い鞄に足元がもたついた。
「さやか先輩、大丈夫?」
「え、あ、駆くん!」
後ろから掛けられた声に、紗弥加は今まさに持ち上げた荷物を落としそうになる。
素っ頓狂な声をあげた紗弥加に、駆が目の無くなる笑顔で微笑んだ。
(相変わらず心臓に悪い……)
夏休み、様々な困難を乗り越えた紗弥加であったが、今も時々駆には胸の奥を揺さぶられる事がある。それが恋心ではないと、今では胸を張って言える訳だが。
「持ちましょうか?」
「だ、だいじょーぶ! ありがとね?」
紗弥加が断ると、駆の目は明らかに色を落とした。
(もう、そんな捨て犬みたいな顔しないでってば)
思わず構いたくなってしまう気持ちをぐっと堪えて、心の中で突っ込む。
「おらぁ、置いてくぞー! さーやー!」
「あーん! 待ってよーっ、司ーっ」
藤代が後ろを見向きもしないで、大声で彼女を呼ぶ。その声に導かれるように、紗弥加は藤代の背中を追った。
(さやか先輩……)
「邪魔」
落ち込む駆に追い打ちをかけるように、大久保が後ろから蹴飛ばした。
「ちょっ、大久保先輩痛いっス」
駆の言い分など無視して、大久保は自ら蹴散らして開いた道を進む。
「今、大久保機嫌最悪だから勘弁してやって?」
その後ろを熊谷が謝りながらついて行った。
(だけど体調は良いみたい)
いつもなら女子と同じバスに二時間も揺られていたら、声を出すのもしんどそうに不機嫌なオーラだけ撒き散らして押し黙っているのに。
悪態をつきながら足が出るなんて、元気な証拠。
(大久保が元気だと嬉しい)
熊谷は、いつも心配な大久保の体調が良いので心底ホッとしていた。
(……でも)
もう一人の心配な人が、熊谷の心を埋め尽くす。
バスの通れない細い山道を歩いていくと、山奥にぽつんと、しかし存分な存在感のある屋敷がある。重厚な石垣にある表札には『九条』の文字。
「えーと、ここって、もしかして……?」
「うん。僕の実家」




