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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
君に捧ぐソナタ
111/126

第十四番 Reve d'amour

「部活の帰りですか?」

「うん。ずっと定演会の練習さぼってたからさ」


 会話が途切れて、二人の間に静寂が流れる。

 二人でいる時にはずっと音楽が流れていたから。次の言葉を上手く探せない。


「本選、残念だったね……」


 先輩が言う。


「すみません……俺のせいで」


 俺が答える。


「ううん! そういう意味で言ったんじゃなくて、」


 慌てて先輩が身振り手振りで否定する。

 その姿が余りに可愛くて、思わず笑ってしまう。目が合うと先輩は頬を赤らめて、恥ずかしそうに下を向いた。


「あたしからしたら、二次予選まで行ったのも奇跡みたいで」


 下を向いたまま、先輩が続ける。


「駆くんじゃなかったら、きっとここまで来られなかったから……」


『そんな事ない』


 否定しようとした俺を遮って、先輩は『本当だよ』と言って顔を上げた。


「あたしが駆くんの気持ち、受け止めきれなかったんだよね?」


 申し訳なさそうに笑うさやか先輩。

 凍り付いていた嫉妬とか、伝えられない苦しさとか、全部溶けていく。

 あたたかい……こんな気持ちを届けてくれる先輩が、やっぱり好きだと改めて思った。


「少し付き合ってもらってもいいですか?」

「え?」

「一つだけ俺のわがまま聞いてください」



 ***



 音楽室に来たあたし達は、暗くなって楽譜が見えなくなるまで、時間を忘れて演奏した。

 本選で弾くはずだったフォーレの『愛の夢』

 駆くんの持ってきたこの曲。


 ホントはね、知ってたよ。


 最初に駆くんがこの曲を持ってきた時から、あなたの気持ちに気付いてた。

 こんな愛のうたを奏でてくれる人は、きっと世界に一人だけだと思う。

 それほど駆くんの音色は愛に満ちて、だけど今にも壊れそうで、あたしの心を揺さぶり続けた。


 駆くんの奏でる一音、一音が、胸に突き刺さる。

 痛くて、受け止めるのが怖くて、目を逸らして気付かない振りをしてた。

 でもそれがずっと駆くんを傷つけていたんだね?


 本当に怖かったのは、その愛に揺らいでしまう自分自身。

 でも今なら胸を張って言える。

 あたしは司が好き。

 少し離れて、改めてそう思った。


 この想いは、音に乗って。

 きっと駆くんに伝わってしまう。

 

 ごめんね? 駆くん。


 ありがとう。


 でも本当は、ずっとドキドキしてた。


 司には、内緒だよ?





『もし、空に育まれた素敵な芝生があったなら

 そこに一年中、美しい花が咲き乱れ

 そこから思い切り、百合や葛やジャスミンを摘み取ることができたなら

 僕はあなたの歩く道すべてに

 花を敷き詰めてしまうのに


 もし、立派な慈しみ深い胸があったなら

 そこにあなたを愛する心が常に変わらず

 常にあなたを想いながらときめいていたら

 僕はそれをあなたの枕にして

 ゆっくり休ませてあげられるのに


 もし、バラの香りに満ちた愛の夢があったなら

 そこに毎日、素敵なことがみつけられ

 心と心を結び付ける、神様の祝福を受けた夢だったなら

 僕はそれを愛の巣にして

 あなたの心にやすらぎをあげるのに』


◇愛の夢 作品5-2◇

~ヴァイオリンとピアノのための~ より引用

(1862年作/歌詞:ヴィクトル・ユゴー/訳詩:藤井宏行)

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