第十二番 Affettuoso
控え室には、ステージを見渡せるテレビが置かれていて。
また何組目かの発表者が、スタンバイを始めている。
うちらの出番、何番目だったっけ……?
さっきまで緊張して、どうしていいか分からないくらい動揺していたけれど。
一気に緊急事態が訪れたせいか、今は自分でも驚く程落ち着いている。
始まった演奏を、ぼんやりとただ聞いていた。
「ん……」
規則正しい寝息をたてている駆くんが、膝の上で小さく身じろぐ。
今まさに駆くんは、いわゆる膝枕状態。
事の始まりはほんの数分前だ。
美月ちゃんが呼んでいると言うので来てみれば……。
『さーやは何もしないで、ただ座ってるだけでいいから』
そう言って、あれよあれよといううちにこの状態にされ、止める間もなく部屋に二人きりになってしまった。
膝枕なんて、司にもした事ない……。
初めての体験にちょっとドキドキしている自分もいる。
眠ってる駆くんは、いつもの大人びた雰囲気が嘘みたいに、あどけない寝顔。年齢相応の男の子に見える。
その寝顔が愛おしく思えて、目にかかる髪を指で梳いた。
思っていたより柔らかい。
もう少しこうしていたい、なんて。思ってしまう。
そんな自分に、ちょっとビックリしていた。
こういうの、母性本能って言うのかな……?
「ん……せ、んぱ……」
「……?」
不意に名前を呼ばれて。
でも駆くんは未だに目を閉じたまま。
寝言?
固く閉ざされた目尻を涙が伝う。
駆くん……どうして?
胸が苦しい。
あなたは今、何を想っているの……?
その涙は苦しくて、切なくて、見ていられなくなって。
思わず手を伸ばした。
「……ッ、!?」
涙を拭おうとした手を、駆くんの大きな手が包み込む。
「さ、やか……?」
目が合って。
今までの母性本能なんてぶっ飛ぶくらい、心臓が大きく高鳴った。
――コンコン
無造作なノックが二回。
「は、はい!」
「すいませーん! もうすぐ袖にスタンバイお願いしまーす!」
「あ、すいません。今行きます」
慌てて、控え目に返事をする。
ドア一枚挟んで。
こちらの状況など何も知らない係のお兄さんが、もう一度『お願いします』と威勢良く言って去っていった。
今行くと言ったものの、どうしよう――そう思った瞬間、膝の重みと熱が消えた。




