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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
君に捧ぐソナタ
108/126

第十一番 Agitato

 会場のロビーにある椅子に腰掛けると、さやも隣に身を寄せて座った。

 既に最初の組は演奏が始まっていて。

 会場から少し漏れ聴こえてくる音色に耳を傾ける。


 間に合うか……。


 震えるさやの手をぎゅっと握った。


「司」


 名前を呼ばれて顔を上げると、小澤が立っていた。


「駆は?」

「とりあえず解熱はした。でも、」

「でも何だよ」

「ちょっと彼女借りていい?」


 言われたさやは首を傾げる。

 その言葉の意図が分かり眉を顰めた俺に、小澤は人の良さそうな顔でニッコリと笑った。

 


「安倍さんが呼んでるんだ」


 それを聞いてさやが慌てて立ち上がる。

 でもすぐに心配そうな顔で振り向いた。


「司……」


 弱々しい声。

 俺が笑うと、泣きそうな顔で笑った。


「……ったく」

「ちょっ、司!?」


 思わず抱き締めると、『みんな見てる……』と耳元で恥ずかしそうに囁いて身じろぐ。


「大丈夫」

「司……?」

「俺が客席で見てやってるんだから、お前は何も考えずに演奏すりゃいいんだよ」

「うん」

「よしっ」


 頭をぐしゃぐしゃ撫でると、目を細めて笑った。


 そうだよ。

 お前はそうやって笑ってりゃいい。


「ちゃんと聴いててね!」

「あぁ」

「絶対だよ!」

「わーったからさっさと行け」


 手で早く行くように促すと、さやは笑顔で手を振りながら小走りで控え室に向かった。



「…………」


 小澤の無言の目線が突き刺さって痛い。


「……なんだよ」

「別に?」

「言いたい事あるなら言えよ」

「司にしては随分素直に彼女差し出すんだな、と思って」

「あ゛?」


 凄みを効かせて睨んだけど、物怖じしない。それがコイツにどれだけ効果のない事か、俺にだって分かっている。

 でもこのイライラをぶつける相手が今は小澤しかいない。

 小澤もそれが分かっていて、こうしてふっかけてくる。


 マジ、悪趣味。


「じゃあお前だったらどうすんだよ」


 軽く反撃してやる。

 最近、真由と付き合い始めたらしいと、さやが教えてくれた。

 女の趣味も悪いのか?

 あんな顔見たら突っかかってくる女のどこがいいんだよ。


「俺?」


 小澤は一瞬考えるように目を逸らして、だけどすぐにニッコリと笑った。


「俺だったら、男として再起不能にしてやるね」

「うわー……」


 笑顔と台詞が合ってねー……。


 コイツだけは敵に回したくない――心底そう思った。


 良かった。女の趣味合わなくて。


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