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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
君に捧ぐソナタ
105/126

第八番 Allegro

(広っ……)


 たかが高校生のコンクールだと、軽く考えていた。

 しかし会場に足を踏み入れた瞬間、その考えは容易く覆された。


(二階席まである……)


 まだ一次予選だというのに、会場は思っていた以上に人が溢れていた。

 今回のコンクールを主催し、審査員としてやってくるのが有名なサックス奏者だと、目を輝かせて話していた彼女の姿を思い出す。

 そしてこんな会場で演奏する彼女を思うと、少し自分まで誇らしげな気持ちになった。


「なんかすげぇーな」

「うん。俺たち場違いっぽい」


 俺の正直な感想に、熊谷も苦笑いで応えた。


――〜♪


 会場内に響く着信音に、視線が一気に集中する。


「お前、切っとけよ」

「わりぃ……」


 画面を見ると『さや』の文字。俺は慌ててロビーに出た。


「さや?」

『司……どうしよう……』


 聞こえてきたのは、涙まじりの弱々しい声。胸騒ぎがする。


『駆くんが……駆くんが』

「落ち着けって。駆がどうした? 泣いてちゃわかんねーよ」

『倒れてて、すごい熱で、それで……』


(あの馬鹿、こんな時に充電切れかよ。クソが)


『どうしよ、ッ、つかさぁー……』

「分かった。今行くから待ってろ」

『あたし、どうしたらッ、?』

「とりあえず手でも繋いどいてやれ」

『う、うん?』


 電話を切って会場に引き返す。辺りを見渡すと、見知った顔を見つけ駆け寄った。


「紘乃!」

「藤代くん?」

「九条は!?」

「今日は来てないよ。大事な会議とかで」

「んだよ! あの野郎こんな時に限って」

「どうしたの?」

「じゃあ安倍は?」

「美月ちゃんなら、あそこに――」

「さんきゅ」

「あ、ちょっと」


 紘乃が何か言いかけたが、説明している暇はない。

 紘乃の指差した先に、相変わらず篠宮と何やら言い争いをしている安倍を見つけた。その腕を掴むと、目を見開いて固まる。

 最近こいつのこういう態度にも慣れた。


「ちょっと顔貸せ」

「え……」


 なかなか動こうとしない安倍の腕を無理矢理引っ張って歩く。本能的に緊急事態を察したらしい安倍は、よろけながらも黙ってついて来た。

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