第八番 Allegro
(広っ……)
たかが高校生のコンクールだと、軽く考えていた。
しかし会場に足を踏み入れた瞬間、その考えは容易く覆された。
(二階席まである……)
まだ一次予選だというのに、会場は思っていた以上に人が溢れていた。
今回のコンクールを主催し、審査員としてやってくるのが有名なサックス奏者だと、目を輝かせて話していた彼女の姿を思い出す。
そしてこんな会場で演奏する彼女を思うと、少し自分まで誇らしげな気持ちになった。
「なんかすげぇーな」
「うん。俺たち場違いっぽい」
俺の正直な感想に、熊谷も苦笑いで応えた。
――〜♪
会場内に響く着信音に、視線が一気に集中する。
「お前、切っとけよ」
「わりぃ……」
画面を見ると『さや』の文字。俺は慌ててロビーに出た。
「さや?」
『司……どうしよう……』
聞こえてきたのは、涙まじりの弱々しい声。胸騒ぎがする。
『駆くんが……駆くんが』
「落ち着けって。駆がどうした? 泣いてちゃわかんねーよ」
『倒れてて、すごい熱で、それで……』
(あの馬鹿、こんな時に充電切れかよ。クソが)
『どうしよ、ッ、つかさぁー……』
「分かった。今行くから待ってろ」
『あたし、どうしたらッ、?』
「とりあえず手でも繋いどいてやれ」
『う、うん?』
電話を切って会場に引き返す。辺りを見渡すと、見知った顔を見つけ駆け寄った。
「紘乃!」
「藤代くん?」
「九条は!?」
「今日は来てないよ。大事な会議とかで」
「んだよ! あの野郎こんな時に限って」
「どうしたの?」
「じゃあ安倍は?」
「美月ちゃんなら、あそこに――」
「さんきゅ」
「あ、ちょっと」
紘乃が何か言いかけたが、説明している暇はない。
紘乃の指差した先に、相変わらず篠宮と何やら言い争いをしている安倍を見つけた。その腕を掴むと、目を見開いて固まる。
最近こいつのこういう態度にも慣れた。
「ちょっと顔貸せ」
「え……」
なかなか動こうとしない安倍の腕を無理矢理引っ張って歩く。本能的に緊急事態を察したらしい安倍は、よろけながらも黙ってついて来た。




