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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
君に捧ぐソナタ
104/126

第七番 Pathetique Sonata

 夏休みがあと一週間となった。

 ついに一次予選が始まる。


「いよいよだね」

「うん……どうしよ、緊張してきた」

「大丈夫だよ! 今日までたくさん練習してきたんだから」


 応援に来てくれたひろちゃんが励ましてくれる。

 そう、確かに練習は自分でもビックリするくらいこなしてきたのだ。

 演奏に関して全く不安がない訳ではないが、そこは胸を張れる。

 不安要素はそこではない。


「今日一次予選通過したら、明日だっけ?」

「うん。明日二次予選で、本選が今週末」

「本選まで行けるといいね〜」

「それにはまず今日頑張らないとね」

「じゃあそろそろ客席行くね! 美月ちゃん達も来てると思うから。みんな応援してるよ」

「ありがとう」


 ひろちゃんの背中を見送って、小さく溜息をついた。


(控え室にいるの、ちょっと気まずい……)


 夏祭りの日から、駆くんは少しよそよそしくなった。

 練習はいつも通りなんだけど、何か違う……。

 演奏以外はぼーっとしてる時間が増えたし、元々静かな方だけど、口数も減った気がする。

 そして時々苦しそうな顔をする。体調が悪いのか聞いたけど、黙って首を横に振るだけだった。


(このままで本番とか大丈夫かなぁ?)


 妙に静まり返った廊下を歩きながら考える。


(……良い訳ないよなぁ)


 控え室のドアノブに手をかけて、一つ深呼吸。意を決して、そのドアを開けた。


「あのさ、駆くん」


 開けると同時に話し掛けた部屋は無人で返事はない。


(あれ? さっきまでいたのに)


 会場でも見に行ったのかと思ったけど、控え室に戻る廊下で誰ともすれ違っていない事を思い出す。


(どこ行ったんだ……ろ、!?)


 部屋の隅に置いたアルサクを手に取ろうとケースを持ち上げた瞬間、見覚えのある綺麗な手が視界の端に入る。その手を目で追うと、駆くんが床に倒れ込んでいた。


「駆くん!? 駆くん!」


 呼んでも返事はない。その代わりに苦しそうに吐息を漏らした。

 揺らした身体が熱い。


(嘘……ひどい熱)


「駆くんッ!」



 本番まで、あと三十分に迫っていた。


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