ひまわりの愛しさ
「雪菜さん、大丈夫ですか⁈」
千里の登場は雪菜にとっては幸運だったが、ことの顛末をここで正直に話してしまうというのは、それはそれで面倒ごとになる。そう思った雪菜は、ひとまず千里にはとっさに「いや、ちょっと転んじゃって……」と嘘をついて、場を収めることにした。
「けど、いま——」
「本当大丈夫だから、心配しないで」
女中たちに何か言いかけた千里を制して、雪菜はにこりと笑ってみせた。その表情から何かを感じ取ってくれたのか、千里は開きかけた口を閉じて、拳をぐっと握りしめていた。
一方、彼女たちもこのまま、この場にいることは得策ではないと感じたのか、
「わ、私たち、裏庭の掃き掃除のお手伝いをしにきただけですから〜」
「でも、彼女一人で大丈夫みたいなので別の仕事に戻りますね」
と、言って急にしおらしくなった。にこりと愛想のいい笑みを浮かべて千里に一礼し、「じゃあ、頑張ってね」などと白々しい言葉を残して裏庭から去っていった。
あまりの豹変ぶりに雪菜は飽きれ、小さくため息をつく。その隣では、千里が「……嘘ばっかり」と呟いていた。
「大丈夫でしたか?雪菜さん。突き飛ばされる前に、間に合ったらよかったんですけど……」
「大丈夫だよ、ちょっと小言を言われただけだし。それより、千里君がちょうどいいときに来てくれてよかった。ありがとね」
にこりと笑う雪菜に対して、千里の表情は曇ったままだ。
「……雪菜さんは、悔しくないんですか。怪我までしてるのに」
そう言われて千里の視線が向いている方を見ると、地面に倒れこんだときに腕にできた傷が目に入った。「ああ、これね」と呟き、雪菜は小さく笑う。
「この程度の傷なら、すぐに治るから別に平気だよ」
なんてことない、と返す雪菜に、千里は「でも……」と顔を曇らせた。もしかしたら、近所の子どもにいじめられていた自分のことを思い出したのかもしれない。そんな千里に、雪菜は笑いかける。
「……わたしの心配してくれて、ありがとう」
そのまま俯いてしまった千里に近寄り、雪菜はその頭をそっと撫でた。
「千里君、ここぞ!ってときに登場する正義の味方みたいでかっこよかったよ」
雪菜の言葉に、千里の肩からふと力が抜ける。そして、顔をあげたかと思うと、雪菜の手を取った。
「ちゃんと手当てしておきましょう。傷が残ったら大変です」
「そんな大袈裟な!平気だよ、本当に」
笑いながらそう言った雪菜に、真剣な面持ちで「だめです」と言い切る千里。
「綺麗な手なんですから」
手をぎゅっと握りしめながら、そう言われた雪菜は思わず顔を赤らめた。「ほら、行きますよ」と手を引かれると、されるがままに後をついていく。
(綺麗な手って……千里君の方がよっぽど綺麗なのに)
前を歩く千里の後ろ姿を見つめながら、そんなことを思う。雪菜はいつもと雰囲気の違う千里に少しだけどきどきしながら、その背中を追いかけていった。




