ひまわりの愛しさ
「あんた、どういうつもり?」
「時雨様に色目使って誘惑してるって噂なんだからね」
食堂での仕事を終えたあと、いつも任されている裏庭の掃除へやってきた雪菜は、五人の女中に囲まれていた。
「はあ」と気のない返事を返しながら、そういえば使用人の間でも時雨を好きな女中はいる、と藤乃や葵から聞いていたことを思い出した雪菜は、面倒な人たちに目をつけられたなと心の中で思った。
(というか、誘惑って……。逆にどうやってすればいいか教えてほしいくらいなんですけど)
そう思って黙ったままでいると、今度は「何とか言いなさいよ!」と言われる始末。こういう場で発言すると火に油を注ぐ形になると思っていたのだが、何も言わないのも、それはそれで問題らしい。どうしたものか、と考えあぐねていると、「ちょっと聞いてるの!」と大声で責め立てられた。
「聞いてますけど……」
話を聞いていると、どうやら彼女たちの内の一人が、裏庭で時雨と会ったところを目撃したらしい。食堂でのやり取りも見ていたようで、「馴れ馴れしい」というのが彼女たちの言い分なのだそう。
(ここはできるだけ穏便に済ませたいところだけど、どうしよう……)
「とにかく、今後時雨様に近づくような真似はしないでちょうだい!」
女の一人にそう言われ、思わず雪菜は馬鹿正直に「それはできません」と言ってしまった。
「は?何ですって!」
「普通に考えて無理に決まってるじゃないですか!仕事で接する機会もあるんですよ」
「そういうことを言ってるんじゃないわよ!色目を使うなって言ってるの!」
「色目なんて使ってません!」
つい小声で「むしろ、どうやったら色目が使えるようになるのか切実に教えてほしいくらいなのに……」と、本音を漏らす雪菜。だが、不運なことにその呟きは相手の耳にも届いてしまっていたようだ。あまり自分たちの脅しが伝わっていないことに、女たちは「馬鹿にしてるの⁈」と逆上してしまった。
「とにかく、あんたは黙って従ってればいいのよ!」
女の一人が雪菜の体を両手で勢いよく突き飛ばした。思った以上の威力に体がくらりとして、そのまま地面に倒れ込んだ雪菜。そのとき、近くにあった木の枝で腕を切ってしまい、たらりと血が流れるのが見えた。
(あ、血が……)
と思ったが、よく見ると傷口はさほど深くないため、しばらくすれば血は止まるか、と他人事のように考えていた。そのとき──。
「あなたたち、何してるんですか⁈」
慌てた様子で駆け寄ってきた千里が声をあげ、女たちに囲まれている雪菜の前に現れた。




