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炎罪  作者: お終い
第1章
23/33

第22話

 エンブレイズの肩甲骨のあたりから、銀色のいびつな逆三角形の大きな翼が左右に生えてきた。そしてその翼の下から更に二本、同じような翼が生えてきた。


「おぉ……」


 エンブレイズは自身の体から翼が生えたことに驚愕の声をあげる。


 その翼はこの室内では大きすぎて自由に身動きがとれない。なので五人は屋外に出る事にした。


 エンブレイズは翼を一旦しまうことにする。思いのほか簡単にしまう事が出来て、表には出さないものの少し驚いた。

 全員が外の浜辺に出た。みんながエンブレイズと距離をとったのを確認してから翼を出した。

 エンブレイズはその翼を既に自分の手足のように動かすことができることに気づく。まず、四枚の翼を交互に動かす。するとゆっくりとエンブレイズの体が宙に浮いた。そして四人が豆粒のように小さく見えるくらいに高く浮いた。そしてそのまま空中でうつ伏せの体制になる。翼を動かし、前進することが出来た。同様に、前後左右自由に移動することができた。


「すっげ」


 自分が空を飛んでいるという事に感動したのか思わず言葉が漏れた。

 空中でくるんバク宙、前宙、自由に動いてみる。空を飛んでいるという事実に興奮が止まらなかった。


 その後エンブレイズは約二時間程空を自由に飛んでいた。が、体力の限界がきたのか元いた場所にゆっくりと戻ってきた。


「どうだった?」


 フタバが笑顔で聞いてくる。二時間もの間、ずっと待っていてくれたのもエンブレイズは少し嬉しかった。


「これが俺のアルマ……感動だよ」


 エンブレイズは素直な感想をフタバに笑顔で言った。


「それの名前は?」


 サクラ・ハナミズキが翼を触りながら聞いてきた。

 アルマの名前はこの翼が自分の物になった時頭の中に浮かんできた。


「名前は…プラータ」


 エンブレイズは自分の翼をなでながら優しくそう言った。


「どうだ? 明日アルマを使って模擬戦闘でもしてみるか? 相手は俺がするが」


 ダイジロウ・ササキの申し出をエンブレイズは受けることにした。


「今日は泊まっていけ。タロウとハナコには連絡しておく」


 三人はダイジロウ・ササキの言葉に甘えることにした。

 エンブレイズは翼をしまい、みんなと一緒に歩いてダイジロウ・ササキの家に向かう。


 その日は五人で食卓を囲み、仲良く床に就いた。


 夜中みんなが寝静まった時にエンブレイズは目を覚ました。


「トイレ」


 誰に言うのでもなく、寝ぼけている頭を少しでも覚醒させるためにボソッと呟いた。

 用を足し布団に戻った時にエンブレイズはサクラ・ハナミズキがいない事に気づく。


 別に特別用事があったわけではない。ただなんとなく気になって、エンブレイズは彼女を探し始めた。


 ダイジロウ・ササキとサクラ・ハナミズキが住むこの家は地下にあり、部屋も二つしかない。奥の工房と今みんなが寝ている生活スペースだけだ。

 この生活スペースにサクラ・ハナミズキは見当たらない。奥の工房にも同じように見当たらなかった。となるとあと可能性があるのは外だ。

 エンブレイズは井戸の中の梯子を上って外に出る。そして浜辺に出ると、海の上に立つ一人の女性がいた。


「それどうやってんだ?」


 完全に脳が覚醒し目が覚めてしまったエンブレイズは、優しい口調で海の上に立つサクラ・ハナミズキに声かけた。


「……急に声かけないでよ。驚くでしょ」


「ハハハ、悪いな」


 サクラ・ハナミズキは何故か当然のように海の上をゆっくりと歩いてきた。


「眠れないの?」


「トイレに起きたらお前がいなかったんでな、少し気になって」


 エンブレイズはフッと笑った。


「もしかして私の事好きなの? 悪いけど男は趣味じゃないの」


 サクラ・ハナミズキは海の上から浜辺に戻ってきた。


「それにお前はないでしょ? サクラ・ハナミズキって名前があるの。サクラって呼んでね」


 月明かりに照らされたサクラがフフフッと笑う。


「話し戻すけどさ、どうやって水の上歩いてたの?」


 エンブレイズはやはり先ほどサクラが海の上を歩いていたのが気になったが、サクラには「そのうちわかるよ」とごまかされてしまった。


「………」


「………」


 二人の間に沈黙が流れる。

 その沈黙を先に破ったのはサクラだった。


「明日、師匠とアルマ使って模擬戦闘するんでしょ?」


 エンブレイズは軽く首を縦に振る。


「じゃあ一つだけアドバイス、師匠のアルマは近接型の超重量級。遠距離から叩ければいいんだけど、自身のアルマに改良を加えているの」


「改良?」


「そ。普通は完成されたアルマに改良を加えるなんてのはほぼできないんだよ、アルマ自体成長はするけど。師匠はああ見えてこの国じゃ五本の指に入るくらいの職人だから」


 エンブレイズはサラッと言われた事実に驚いてしまう。


「えーとね、なんだっけな。そうそう、改良してるから遠距離にも対応してるの。遠距離からの攻撃は決定打にはならないのが殆どだけど、それでもまともにくらったらちょっとやばいかもね」


 遠距離と近距離の両方に対応していて、パワータイプ。つまり固定砲台のような戦い方をすると考えられる。


 そしてエンブレイズのアルマは翼、機動力のあるスピードタイプ。つまりエンブレイズとダイジロウ・ササキは全く正反対の闘い方をすると考えていい。


 そこでエンブレイズは一つの事に気づく。エンブレイズのアルマは今のところ移動しかできない。恐らくもっとプラータを使いこなすことができれば、移動や飛行だけではなく攻撃や防御に使うこともできるだろう。でも今はまだ移動と飛行しかできない。


 プラータを使ってダイジロウ・ササキに勝てるビジョンが全く見えない。勿論使わないで勝つビジョンも見えない。

 いっそ今回はプラータに慣れる為に戦うつもりで、当たって砕けてみるか? それも十分アリだ。


 エンブレイズはごちゃごちゃと考えるのを辞めた。恐らく今のエンブレイズがどんな作戦をたてたとしてもラッキーがいくつも重ならなければ勝てない。ならばプラータを知るために戦おう、とエンブレイズは思う。



「さ、そろそろ戻ろうか。眠くなってきちゃった」


 サクラは大きなあくびをすると家に向かって歩き始めた。エンブレイズもサクラに続いて歩き出した。

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