第21話
「よし、完成だ」
ダイジロウ・ササキは額の汗を拭って満足そうにそう言った。
アルマは基本的に自分の意思で出したり消したり出来る。ただ例外として自身が極度に疲弊していたり意識を失ったりしている場合は出すことは出来ない。
エンブレイズはたった今長時間にわたり血を抜かれたおかげで、極度に疲弊していてアルマを出すことが出来ない。
ダイジロウ・ササキは慣れた手つきでエンブレイズを片手で抱え上げ、肩に担いだ。そして最初に二人がいた部屋の入口付近にあるベッドの上に放り投げた。
エンブレイズはそんな事お構いなしに静かに寝息を立てて眠っている。よほど疲れてしまったのだろう。
ダイジロウ・ササキはエンブレイズが眠っているのを確認してからフタバとサクラ・ハナミズキの方を向いた。
「フタバちゃん、キミはこれからどうするんだい?」
それはひどくおおざっぱな質問だった。でもフタバはその質問の意味を全て理解した。
「……私は…エンブレイズに協力してあげたい。一緒に国に行き、一緒に戦いたい」
「………本気かい?」
フタバは小さくコクリと頷いた。
「キミは犯罪者になるつもりかい?」
エンブレイズは世間では大犯罪者。それに協力するとなればフタバも当然犯罪者扱いされる。
「最初はただの親切心だった。父さんが遭難していたエンブレイズを連れてきて怪我が治るまでのつもりだった。一ヶ月くらいしてかなぁ、エンブレイズが一家皆殺しにして国を混乱に陥れた大犯罪者だって知ったのは。だから母さんのアルマで記憶を覗いたんだ。したらエンブレイズは被害者だって事がわかって、そしてエンブレイズ本人からも話を聞いた」
フタバは大きく深呼吸してから言葉を続けた。
「誰かを抱きしめてあげたいって思ったのは初めてだった。その時のエンブレイズは私達には絶対に本心を見せずに必要以上に係わらないようにしてた。私もあまり深いところには触れなかった。でもエンブレイズの事がかわいそうに思って、抱きしめてすべてを吐き出させてあげたいって思ったんだ。私は……エンブレイズの事が好きなんだ。だから彼の力になりたい」
フタバはまっすぐとダイジロウ・ササキの目を見つめる。
「フタバちゃんは彼の事が好きだからこの先何年もかかるかもしれない彼の復讐劇に付き合うってことだね?」
「復讐劇なんかじゃ―――」
フタバはすぐさま反論するが、ダイジロウ・ササキの言葉に遮られる。
「復讐劇さ。彼は自分の家族や恋人を殺した兄を止めるために国に戻るんだろ? 止めるってどうやって? その兄を殺すのか? それとも心から改心させるのか? 殺すんだとしたら本人にその気はなくても家族を殺した兄を殺す、という復讐の形ができてしまう。それに改心させるってどうやってやるんだ。人の心を入れ替えさせるっていうのは言うほど簡単じゃないぞ。ましてやそういう思い込みが激しいタイプの人間なんかは、自分が正しいと思ってて曲げようとしないからほぼ不可能だ」
ダイジロウ・ササキの語る言葉は正しく、誰が聞いても正論であることは間違いない。
「だから私が一緒に行って―――」
「他人であるフタバちゃんが行ってどうなる? 人の心が初対面の人間の薄っぺらい言葉で変わるとでも思っているのか? それとも殺す手伝いをするのか? はっきり言うがフタバちゃんが手を汚す必要などない」
「…………」
ダイジロウ・ササキの言葉は間違いなく正論であり、同時にフタバの身を案じての言葉である。それを分かっているフタバは反論ができない。
「彼が復讐劇を繰り広げるのは構わない。だがこれは彼の問題であり、よそ者である我々がその復讐劇に巻き込まれる必要はない」
「それでも私は……エンブレイズの力になりたい!!!」
フタバの強く覚悟のこもった瞳と言葉。
「……そうかい。もう俺が何を言っても無駄なようだね」
「ごめんなさい」
フタバは小さな声で申し訳なさそうに謝った。
「ただし条件がある」
予想外のダイジロウ・ササキの言葉にフタバは驚いて目を丸くする。
「その旅には俺とサクラも同行する。親友の娘をみすみす危険な目にはあわせられないからね」
サクラ・ハナミズキはこの言葉を知っていたかのように全く動じる様子はない。
「俺とサクラはフタバちゃんとイツハちゃんを守るために行くのであってエンブレイズを助ける為ではない。だからキミが危なかったら助けるけどエンブレイズが例え死にそうになってても俺は助けたりはしない」
これが当然なのだ。世間で犯罪者と呼ばれている人間をを助けるなんてどうかしている。でもフタバの心に迷いはなかった。
エンブレイズが疲れ果てて眠ってから三時間程経った。未だにエンブレイズが起きる様子はない。静かに寝息を立てている。
「ところでフタバちゃん、イツハちゃんは?」
今日ダイジロウ・ササキのところにはエンブレイズとフタバの二人で訪れていた。
「なんか用事があったみたいで、後から来るって言ってた」
フタバがそう言うと、狙ったかのような完璧なタイミングでゴゴゴという音をたてて大きな門が開いた。
ドアを開けたのは案の定イツハだった。イツハはペコリと小さくお辞儀をしてから大きな門を閉めた。
そしてそのゴゴゴと言う音でエンブレイズは目を覚ます。
「ふぁーあ」
エンブレイズは大きなあくびをしてから、水道でコップに水を汲んで一気に飲み干した。
「体力は大丈夫?」
フタバが水を飲んでいるエンブレイズに聞いた。エンブレイズは水を飲みながら首を縦に振った。
「じゃあアルマを出してみて。出し方は…もう分る筈だよ」
エンブレイズは大きく深呼吸をする。そして背中に力を入れた。




