第23話
「昨日はよく眠れたか?」
エンブレイズと向かい合う形で立っているダイジロウが聞いてきた。
「ま、それなりには」
「そーか、じゃあ始めるか」
ダイジロウはそう言って右腕を肩の高さまで上げて腕を伸ばし、手を開いた。そしてそこからはとても巨大な、まるで巨人の使う武器のような鎌が出てきた。
その鎌は柄の部分だけでも大人より長く、そして刃こぼれ一つしていない刃は少なくとも柄と同じくらい大きい。刃は半楕円状曲げられているので正確な大きさは分からないが。
それは鎌としてはいびつなバランスであった。
「うし、いくぞ」
ダイジロウは自分よりもはるかに大きな鎌を軽々と肩にのせる。
エンブレイズも巨大な鎌の迫力に気圧されながらもプラータを出していつでも飛べるようにしておく。
「じゃあ一応私、サクラが審判します。気絶したり『まいった』と言った方の負け。まぁやりすぎないように、以上」
かなりざっくりとした説明だったなと思いつつも気を入れなおす。
「じゃあいくよ。レディ……ファイト!!」
サクラの掛け声を合図にしてエンブレイズはその場から垂直に飛び始める。まずは敵の頭上をとってしまおうという策だ。そして上空からヒットアンドアウェイで攻撃を仕掛けていく。エンブレイズはまだ遠距離攻撃ができないため、一番仕留める確率が高そうな策を選んだのだ。
一番仕留める確率が高い。それはつまり敵であるダイジロウにとって最も予測しやすいということ。
エンブレイズが垂直に上昇した瞬間、ダイジロウは既にエンブレイズの更に上まで飛び上がっていたのだ。
「なっ!!」
エンブレイズは地上にダイジロウがいない事に気づく。左右前後を見渡してみても当然いない。
「上だ」
エンブレイズは自分の頭上から聞こえた声につられて、ほぼ反射的に上を向く。
「がっ!!」
エンブレイズが上を見た瞬間、顔に強い衝撃を感じた。
ダイジロウは鎌の刃の反対側でエンブレイズの顔を強く叩いたのだ。
当然エンブレイズは地面に向かって落ちて行く。ズドーンという大きな音と共に砂浜の砂が宙に舞う。
数秒程して砂埃がはれると、そこにはうつ伏せに倒れているエンブレイズが落下中のダイジロウの視界に入る。
飛行能力のないダイジロウは当然空中にいるわけもなく、すでに地上で立っている。
エンブレイズは立ち上がり、ダイジロウとすぐさま距離をとる。
そしてプラータを広げ、ダイジロウを指さした。すると無数の銀色の羽根のがダイジロウに向かって飛んで行く。ダイジロウ・ササキは鎌の柄の真ん中あたりを持って高速で回して羽根を全てはじいていく。
エンブレイズは羽根の攻撃が効かないとわかり、すぐに別の攻撃方法に切り替える。
が、羽根の攻撃が止んだ一瞬の隙にダイジロウは攻撃をしかけてきた。二人の距離は軽く十五メートルはある。なのにダイジロウ・ササキは鎌を振り下ろした。すると半円の透明ななにかがエンブレイズに高速でむかってきた。
それがなんなのかエンブレイズは分からなかったが、それがとてつもなく危険なものであるという事は一瞬で理解した。
エンブレイズはその場で垂直に飛び上がって半円の何かをかわした。エンブレイズは自身の後方に広がる海に視線をやると、海が真っ二つに割れていた。
「は!?」
決して比喩や例えなんかではない。本当にエンブレイズの後ろに広がる海が二つに割れたのだ。
「ぼけっとしてんなよ!!」
割れた海を見て固まってしまっているエンブレイズに向かってダイジロウは跳躍した。そして鎌を横に薙ぎ払う。エンブレイズは今度は躱さずに防御する。プラータで曲げた左腕を包む。ガキィィンと大きな音が響く。ガードしたことでエンブレイズは少し油断してしまった。
風を切る音と共にダイジロウの蹴りがエンブレイズの右の脇腹に命中する。
「ぐふっ…」
エンブレイズは苦しそうな声をあげ、僅かに距離をとる。
そして呼吸を整える。が、その隙をダイジロウが逃すはずがなかった。
「うらぁ!!」
ダイジロウは鎌を振り下ろしエンブレイズの額の前で寸止めした。
「チェックメイト」
ダイジロウはニッと笑った。
「……まいった」
エンブレイズも悔しそうにニヤッと笑った。
エンブレイズがダイジロウに肩をかし、ゆっくりと降りてきた。
「やっぱ勝てねぇか」
「正直驚いたぞ」
地面をゆっくりと歩くダイジロウはポンポンと自分の服を叩いてほこりを落としている。
「初めてであそこまで使いこなせる奴なんて見たこと無いぞ」
「いや、まだまだだ。正直ギリギリだった」
エンブレイズとダイジロウは握手を交わした。
そしてその後エンブレイズとダイジロウは先ほどの戦闘の反省に入ってしまって、サクラとフタバは全く話に入れない。
男二人はかなり盛り上がっている。
「自分のアルマの事を良く知る事が強くなる事に繋がる。自分のアルマの形、大きさ、材質、性能、道具としてではなく相棒として考えるんだ」
「成程、自分の生命線だもんな」
どうやってもサクラとフタバは話に入れなかった。
その後、男子二人は二時間は話していた。




