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Fクラス異能者は謎を解く  作者: 人鳥迂回


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9/10

文芸部事件・解(2)

「ちげえよ。そもそも十二時三十分には教室にいた。それは浮鉄も知ってる」

「うん。編縫くんは授業を受けてたし、その時間に文芸部には行ってないよ。そもそも鍵を持ってないし」


 編縫くんは淡々としていた。

 自分が犯人と言われたにもかかわらず、怒りも焦りも感じさせない。先ほどまでの喧嘩腰が信じられないほどだ。

 その様子を浮鉄さんと滑川さんは心配そうに見ているが、聞かれたことに答えるだけで、それ以上話に割り込んでくることはしなかった。


「トイレに行って鍵をなくしたことに気が付いたってやつかな」

「そうだよ」

「なんでトイレ?」

「は?」

「部室の前とかじゃなくてなんでトイレなんだろうって。普通、気が付くのは部室前じゃない? トイレで鍵を出す必要なんてないんだからさ」

「それは……」

「僕の推理はこんな感じ」


 最初から編縫くんは鍵を忘れていなかった。十二時三十分に授業が終わり、浮鉄さんに鍵を忘れたことを伝えるまでの間に、編縫くんは文芸部の部室に行っていたんだ。

 当然、鍵を持っているから部室に入る。すると、そこには椅子に座って異能を使っている本宮さんの姿があった。編縫くんは本宮さんを起こそうとして、肩を揺するなり押すなりした。その衝撃で本宮さんは前のめりに倒れてしまう。額を強く打ったことで完全に意識を失った本宮さんに驚き、編縫くんは隠蔽工作を図った。

 教室にいる浮鉄さんは、編縫くんが席を外した理由がトイレだという言葉を信用していた。つまり、そのタイミングで編縫くんが教室にいないことを知っていたんだ。本宮さんの時計が止まっていることに気がついた編縫くんは、その時間に教室に居なかった自分が疑われてしまうことを恐れたんだろう。

 だから異能を使ったんだ。――『針を動かす』異能を。

 編縫くんの異能にはデメリットがあって、それは『半径二メートル以内の物は影響を受ける』というもの。編縫くんは異能の力を使って、本宮さんの時計の長針を動かした。針には変わりないから、編縫くんの力で戻っていく。だが、十二時三十分で長針を止めたとき、二メートル圏内にあった部室の時計も、十二時三十分で止まってしまったんだ。

 アリバイを作り終えた編縫くんは部室に鍵をかけて教室に戻り、その後、三人で文芸部に赴けば、倒れている本宮さんを第一発見者として発見できるというわけだ。


「大方、本宮さんに危害を加えたとなれば評価ポイントが落ちることを気にしてごまかそうとしたんじゃないかな。評価ポイントを気にしているようだったし」

「ちが……俺は……」


 やっと編縫くんの表情が崩れた。

 僕の目から発する光が熱を帯びるように強くなっていく。ゴールへの筋道を一歩ずつ辿っている証拠だ。

 僕が異能を使っているのに編縫くんが真実を話さない理由はスイッチが足りていないからで、合図をしなければ完全な発動はしない。

 スイッチとなる言葉は使い古された探偵の決め台詞。誰しもが追い詰められたと分かるひと言。

 例に漏れず、僕も編縫くんを指差して声を張り上げる。


「さて、後は僕の異能に真実を話してもらうよ。――犯人は君だ」


 瞬間、黄金の光が編縫くんを包んだ。編縫くんの焦っていた表情が一瞬にして能面のように変わっていく。虚ろな目をしながら僕の方を向いた。

 何度も見ている景は得意げだが、初めて僕の異能を見る浮鉄さんたちは編縫くんの急な変化に戸惑っている。二人の対応は景に任せて、僕は僕のやるべきことをやらなければならない。


「どうかな? 僕の推理は間違ってる?」


 編縫くんに問いかけるとゆっくり口を開く。


「間違ってない。揣摩の言う通り、トイレに行っていると誤魔化していた時、俺は文芸部の部室に行った。本宮を呼ぶだけなら二人が付いてくる必要はない。部室の鍵を開けると白目を剥いて涎を垂らしている本宮がいたから、体を揺すれば起きると思って肩に触った。そうしたら受け身も取らずに床に頭をぶつけたんだ。俺はこれ以上評価ポイントが下がったらDクラスに落ちるから、俺の居た痕跡を消すために異能を使って本宮の時計に偽装をした。デメリットのことを忘れてたから、部室の時計も変わってるとは思わなかった」


 編縫くんが語った内容は僕の推理通りだった。推理が当たっているから真実を語っているんだけど、本人の口から詳細を聞くことに意味がある。


「すぐに二人の所に戻って鍵を忘れた振りをしながら文芸部に行った。後は揣摩が知ってる通りだ」


 語り終えた編縫くんは無表情のまま顔を動かさない。若干怖いけど、今の彼は意識が宙に浮いているような状態だから質問に答えるだけの傀儡だ。


「なんですぐに助けなかったの? 倒れている生徒を助ければ評価ポイントの事なんて考えなくて良かったのに」

「俺が触ったから本宮は意識を失った。俺が加害者になったと思ったから隠蔽工作をしたんだ」

「考えすぎだったね。その場で保健室に運んでいれば、ただの事故で済んだのにさ」


 固く口を噤んでしまった編縫くん。

 事件の詳細について語り終えれば、僕の異能で聞き出せることはない。喋り終わったなら、数秒もすれば編縫くんの意識は戻ってくる。


「焦っていたのに時計のトリックを思いつくなんて、流石Cクラスだね。自分の異能をよく分かってる」

「デメリットを忘れるようじゃまだまだだけどね」

「景は忘れられるようなデメリットじゃないじゃん。下手したら死んじゃうんだから」

「私が異能使うときは理解くんの指示があった時だけ。私を殺すのは理解くんだけだよ」

「うーん、思いが重い」


 喋らなくなった編縫くんが心配になったのか、浮鉄さんは編縫くんの元へ近付いて肩を揺すっている。呼びかけもあってか、虚ろだった瞳に光が戻り始め、編縫くんは意識を取り戻した。


「俺の意識はあるのに身体が動かなくて口だけ動くって変な感じだった」

「推理くんの異能の力だからね。Fランクでも異能は異能ってこと」


 何度か手を開閉して体の自由が戻ったことを確認すると編縫くんは僕に目を向けた。睨むような目付きは鳴りを潜めて出方を観察するような視線を感じる。

 僕の行動によって自分の進退が決まるのだ。異能の力によって自白しているから言い訳もできない。


「――それでどうすんだよ。揣摩は俺を教師に報告するのか? Fクラスなら評価ポイントは喉から手が出るほど欲しいだろ」

「確かにあったら嬉しいね」

「理解くんは本宮さんの謎が気になって、異能を使うチャンスだから謎解きをしただけだよ。編縫くんを使って評価を上げようなんて考えてないの。本当に不服だけど」


 景は僕を信じてくれている。でも評価を上げようと考えてないなんてひと言も言った記憶はない。


「みんな無事ならそれで万事解決。報告をするほどのことでも――」


 異能を使って真実を明らかにできたことで満足した僕はこれ以上求めない。僕が興味で首を突っ込んだ事件で評価ポイントが貰えるわけないと半ば諦め気味だ。

 編縫くんたちとの話を切り上げようとした時、隔離された空間になっていたカーテンが開く。


「あら。それなら私が上手い具合に揣摩くんの評価ポイントが加算されるように申請してあげるわよ?」

「……四百先生。いつから聞いてたんですか」


 開かれたカーテンから現れたのは四百先生。


「あのねえ。保健室で大きな声で喋ってたら聞こえるわ。他に生徒がいないからいいけど、気を付けなさいよ」

「すみませんでした」

「それは置いておいて、話は聞かせてもらったけど、編縫くんの起こした事はただの事故。寧ろ本宮さんを運んでくれたから不問にしてポイントの減少は無し。隠された事実を暴いてわだかまりを解消したってことで、教師の私が揣摩くんのポイントを申請する。これに異論はある?」


 腕を組みながら壁に持たれて意見をまとめる。

 編縫くんの評価を落とすつもりで推理したわけじゃないから、彼のポイントが減らずに僕のポイントが増えるなら言うことはない。 


「俺は不問にしてくれるならそれ以上は望まねえ」

「僕もポイントがあって困るわけじゃないですし、ありがたく貰いますよ」

「それならこの件は解決。申請に当たって、揣摩くんは放課後にでも保健室に来てちょうだい。あと、一応貴方たちは連絡が取れるようにしておいたほうがいいわ」


 四百先生のひとことで全員がスマホを取り出す。

 僕は連絡先の交換方法がよく分からないから、景にスマホごと渡して三人の連絡先を登録してもらった。


「分かりました」

「次の授業が始まる時間よ。寝ている本宮さんの邪魔になるから全員教室に行きなさい」


 ポケットからスマホを取り出して時間を確認すると十三時二十七分。あと三分で授業が始まってしまうが、急いで移動すれば間に合うかもしれない。


「急げば遅刻しないね。早く行かなきゃ」

「ちょっとぐらい遅刻しても大丈夫だよ」

「景はAクラスだからそんなこと言えるんだよ。僕はFクラスだから遅刻はポイントにも響くんだ。折角ポイントを貰えるのに変なことで減らしたくないからさ」


 僕はスマホを仕舞ってからベッドに背を向ける。


「ポイントが大切そうだが、やっぱり揣摩も上のクラスを目指してるのか?」


 授業をサボるつもりなのか、椅子に座ったままの編縫くんが僕に聞いてきた。上のクラスになれば授業に遅れても口うるさく言われることはないはずだ。


「FクラスがCクラスに話すことなんてないよ。でもポイントがあって困ることはないでしょ? 先生からの評価も上がるからね。――そんな事よりも僕は授業に行きたいからお先に失礼するよ」

 

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