表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fクラス異能者は謎を解く  作者: 人鳥迂回


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/10

文芸部事件・解(3)

ブクマや評価待ってます!

 Aクラスに上がりたい。その理由は人それぞれだけど、Fランクになってしまった生徒はEランクに上がれるのもごく一部の生徒だけ。それほどまでに持っている異能が使えないのだ。

 クラスが上がれば、教室の設備が良くなり、自由時間が増え、生活の質が上がる。寮の設備もクラスで違うらしいから、上に上がる理由にはそれだけで充分かもしれない。おそらくクラスが上がることで得られる恩恵は想像を超えているはずだけど、薫染先生から聞いたことはない。Fクラスが上がれないと内心では諦めているのだろう。それにFクラスと関わろうとする上のクラスなんて殆どいないから噂も入ってこない。

 僕みたいにAクラスになって楽な暮らしを保証されたいから成り上がろうとする生徒は少なく見える。上のクラスの生徒たちは必死すぎるのだ。

 

「ふふっ」


 僕が保健室から出ると景も後ろを付いてくる。

「機嫌良さそうだね」

「理解くんの推理が真実を明らかにしたから。私にとっても嬉しいよ」

「僕も異能を使えてよかった。それよりもひとつ聞きたいんだけどさ」

「何?」


 廊下は走っちゃいけないし、階段も走っちゃいけない。

 早歩きをしながら教室へ向かっていく。廊下の一番奥にあるFクラスへの移動を考えるとペースを上げなきゃいけない。

 ただ、遅刻よりも一度気になった疑問を聞かなければ授業にも集中できなくなってしまう。


「なんでみんなAクラスを目指したいんだろう?」


 薫染先生に聞くのが一番だけど、Aクラスの景がいるなら丁度いい。Aクラスはトップのクラスだから一番の恩恵を受けているはず。

 僕の歩くスピードに合わせてスリッパを鳴らす景は足を止めずに答える。気が付けばAクラスは通り過ぎているが、僕との会話を優先してくれたみたいだ。


「理解くんって校則を読んだりしてる?」

「校則? 読んでないけど」

「詳しいことは校則に書いてあるけど、クラスが上がると恩恵がすごいの。理解くんも毎日私が作ったお弁当食べてるでしょ?」

「お弁当が恩恵と関係あるの?」


 毎日いつの間にか鞄に入っているお弁当。景の作ってくれるお弁当はプロの食事と遜色ないくらい美味しい。


「私たちって寮生活じゃない? 買い物に行くのもお金が掛かるし荷物も多くて大変」

「分かるよ。Fクラスの寮なんて校舎と校門から一番遠いし」


 異能学園は全寮制の学校である。

 休日になれば遊びに行くこともできるが学園の許可が必要になる。勿論平日は学園の外には出られない。

 寮の設備もランクごとに格差がある。Fランクの寮は安アパートのような外観をしているがAランクの寮になれば高級マンションのような建物に変わる。強い異能を持つ生徒が不自由なく暮らせる空間を提供することで海外への流出や、心身に余裕を持たせようとする魂胆らしい。


「Aクラスになるとスマホで頼むだけで食材とか買ってきて貰えるの。高級食材でもね。理解くんが食べているお弁当の値段を聞いたら気を失っちゃうかも」

「そ、そんなに高いの?」

「私の部屋は広いし調理スペースも広いから。Aランクになると衣食住に何も困らないの」

「僕も困ってはいないけど……」

「人間っていうのは甘えを享受するために努力をして、一度得た幸福を手放すことが怖くなる。だからみんなランクを上げることに必死になるし、下がることに恐怖を抱く。理解くんが異質なだけ。私だってAランクから下がっちゃうと理解くんのお弁当を作れなくなるから困っちゃうしね」


 美味しいお弁当が食べられなくなるなら景がAクラスから落ちないように応援したい。


「それだけじゃ上がりたい理由には弱いと思うけどなあ」

「私は理解くんに来てほしいけど」


 景が足を止める。

 授業まで時間がないから立ち止まられても困る。かといって、僕だけが進むわけにもいかないから僕も足を止めた。授業間際で廊下には誰もいないが、教室内からは生徒たちの騒がしい声が聞こえてくる。からかうような目で景に見つめられた僕は、周りの音が雨音のように意味のない雑音に聞こえていた。

 僕が振り返ると、窓から差し込む日差しによって景の髪が夜空のように光を反射していた。からかう様な笑み、だけど何処か真剣だというのは幼馴染だからわかる。


「強い異能だって認められたら承認欲求を満たせるよね? 私の場合はほかの誰かに認められるよりも理解くんに認めてほしいけど」

「景がすごいのは分かってるよ。なんたってAクラスだし」

「Aクラスも良いことばかりじゃないけどね。どのくらい異能が使えるかを他のクラスよりも事細かに調べられるし」

「そうなの?」


 頭を殴られたような衝撃を受ける僕を他所に、景は喋り続ける。


「私にも分からないけど、それがAクラスとして様々な恩恵を受けている対価なんだって。Aクラスでも下のクラスに落とされるかもしれないって思うと、みんな成果を見せたいのかもね。先生も国への報告義務があるからギリギリまで止めない」

「生徒の安全性とかどうなってるのさ。仮にも教育機関なのに」

「Aクラスの先生は国からの指示で来てる人だからね。異能者を研究しようとしてるだけ。流石に命の危険があるところまではやらないけど、私たちを生徒って言うよりも研究対象として見てる感じ。このことは内緒にしておいてね。学校側も外聞っていうものがあるから」


 景は立てた人差し指を口元に持って行き、喋らないようにジェスチャーで伝えてくる。

 和気藹々と異能を鍛える学校だと思っていたのに、その実態は異能者を国の利益に使おうとする大人たちの箱庭だと景は言っている。

 異能を持たない人からすれば、異能の研究は脅威を減らすことに他ならない。だが、研究への興味も命あっての物種である。強い異能を持つ人ほど異能のデメリットは大きく、死の危険性が付きまとう。


「Aランクは国の要職に就くことが決まってるようなものだから、そういう事もやってる。上級生たちはみんな知ってると思うし、あと数ヶ月もしたら一年生もみんな知ることになる。国の機関っていうのはそういうところなの」

「それなのにみんな上を目指すの?」

「それでもお釣りが来るぐらいの好待遇なんだよ。それに異能者は異能を使いたがる。授業っていう名目で制限なく異能を使えるのはAクラスぐらいだから……」


 異能学園は異能者を育てる学校。

 国の作為的な想いがなければ作られるはずもない。

 Aクラスにいる景が使い潰されて死んでしまう未来を想像してしまって、僕の心に影を落とす。異能が優秀だからといって幸せなことばかりではない。

 思い悩む僕を見て、景は一歩僕に近づいた。

 ふんわりと香る僕にはない香り。昔から近くにある包み込まれるような優しさ。

 僕を悩ませる景は、僕を奮い立たせる言葉も知っている。

 さらに一歩僕に近づくと、端から見たら抱き着いているような距離感で僕の耳元に声を落とす。微かな息が耳を擽った。


「デメリットの大きいAクラスとデメリットの少ないFランク。もしもFランクがAクラスに上がることができればすごいと思わない?」

「すごい? 僕が?」

「だってAランクになれるぐらいの異能を小さなデメリットで沢山使えるんだよ? 少ないリスクで高い報酬を得る――理解くんはそういうの好きでしょ?」

「確かに好きだけど……」

「Aクラスになるにはポイントをかなり稼がないとね。理解くんはFクラスだからポイントがゼロだとして、三〇〇〇ポイントは溜めないといけない。所持ポイントによって半年ごとにクラスが変化するからさ」


 異能学園ではポイント数によって所属できるクラスが決まっている。FクラスからEクラスに上がるには三〇〇ポイントが必要だけど、無能ばかりのFクラスでは三〇〇ポイントを稼ぐことすら難しい。異能の実用性を教師に証明することすらできないからだ。

 

「……FランクからAランクになったらすごいの?」

「学園のランク制度が始まってから一ランクくらいの進退は合ってもFランクからAランクになった人は居ないもん。そんなことになったら――」

「なったら?」

「美味しいものが沢山食べられるし、いっぱい遊んで暮らせるよ。優秀すぎて国からも使いつぶされることはないと思うし、理解くんの理想の生活ができると思う」


 僕の夢は楽していい生活をすること。その夢自体は景に話しているし、『それなら私が養ってあげる』と言われたこともあるくらいだ。

 そんなことよりも異能学園に幼馴染が使い潰されて死んでしまうかもと想像した時に、背筋が凍りつくような恐怖を覚えたのだ。


「Aランク――ならなきゃいけない必要が出来てきた」

「何か言った?」


 小声で呟いた僕の興味を景は聞き取ることが出来なかった。

 授業と称して異能を使っているということは、その度に景の身体は止まっているということ。景の異能のデメリットは『呼吸が止まる』。過去を数分も見ようものなら死に直結する。

 楽に生きていくことも大切だけど、景のことも大切なのだ。


「いいや、なんでもない。まあ出来るだけ頑張ってみるけど期待しないでね」


 Aクラスに上がりたい理想はあるけど、今の僕では現実が追いついてこないから保険を張った。


「それがいいよ。高級食材も二人分貰えるしね」

「目指してはみるけど、僕の異能は事件が起こらないと意味がないからね。それでも前よりはやる気になってきた」


 楽な将来を目指すこと、それにAクラスで異能を使わされている景が心配なこと。その二つだけでも僕がAクラスを目指す根拠としては充分なくらいだ。

 何よりAクラスに上がらなければ発言力も伴わなず、どんな授業をしているかも分からないから不用意な行動もできない。


「それじゃ、まずは評価ポイントを落とさないために授業に行くよ。景も遅れないようにね」

「分かってる。理解くんも頑張ってね」


 あと一分で授業が始まる。

 僕は景に背を向けて教室へと駆け出した。廊下を走らないように怒られても遅刻するよりはマシだろう。

 後ろでニンマリと意地悪い笑みを浮かべた景には全く気付かずに、僕は目の前の道を走り始めた。 

 


ランクポイントについて

・生徒たちが異能による貢献度によって与えられるシステム。申請をして受理されると付与されて生徒手帳アプリで確認できる。

・半年ごとに査定があり、所持ポイントによってクラスが変わっていく。

・FクラスからEクラスに上がるには300ポイント必要だが、Eクラスは300ポイントを下回るとFクラスに落ちてしまう。Aクラスになるには3000ポイントが必要。


・ランクが上がれば学校から与えられる恩恵が大きくなる。国が優秀な異能者を育てると同時に国から出ていかないための処置。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ