05
もう無駄なのに。生き伸びて、他の大陸にたどり着くことなんてできないのに。
頭ではそう分かっているのに、ほんの少しでも生き残る方法を探してしまう。
意識が遠のきそうになるが、すんでのところで持ちこたえる。気絶しては駄目だ。気絶してしまえば、魔術は解除され、わたしは再び水の中へ。気絶した体でそんなことになれば、確実に死ぬ。
恐怖でカチカチと歯が鳴る。
魔物の全容は分からなかった。ただ、じっとこちらを見ているような気もするし、そうでない気もする。ぼんやりと赤く光るそれは、感情のないものに見えた。
食べないのであれば、早々に逃げるべきだ。けれども、この魔術、呼吸はできるようになれど素早く動くことはできない。熟練の者はまた別だが、こんなところでも結果が出ないというフィオディーナの実力が足を引っ張る。
この魔術を使っても、わたしができるのは水中で呼吸ができる空間ができるだけ。
どう逃げたものか。
そう、目の前の魔物の動向を探るべく、凝視していたからか。背後から迫るものに気が付かなかった。
視界に、背後から伸びているであろう手が映ったとき、ようやく気が付く。無論、その時にはもう、遅いのだけれど。
「ひ――」
身をよじれど、球体の中では逃げ場もない。そのまま引きずり出されるか、と思ったのだが、逆だった。誰かが球体の中へと入ってきたのだ。
『――あんた! 魔術が使えるのか!?』
入ってきたのは一人の青年。暗くくすんだ緑の髪と茶色の瞳。髪は束ねている、というよりも、髪留めが引っかかっているといったほうがいいほうなくずれっぷりだった。水中で動いたのなら、仕方のないことだが。
「こ、殺さないで――」
わたしはそうこぼす。
青年が何と言っているのか、わたしには全く分からなかった。
エンティパイアで使われる言葉ではない。当然、前世に生きていた国の言葉でもない。頑張って外国の言葉を学ぼうとした時期もあったが、いかんせん帝国外の情報は入りにくい。外の国の言語で話されたら、わたしには全く分からないのだ。
青年は言葉を繰り返すが、わたしには分からない。
『話す、知らない。できない。理解、ない』
わたしは貴方の言葉が分からない。そう、伝えようとして、わたしは必死に、エンティパイアで使われる、エンティ語以外の言葉を思いつく限り並べる。ほんの数冊だけ、学園に置かれていた、外国の言葉の本を読み、かろうじて得た言葉。エンティパイア以外の国すべての国で使われている言語に関する本がその程度しかないのだ。
自分でも恥ずかしくなるくらい拙い発音だったが、そのうちの一つが、彼にもわかる言語だったらしい。ようやく彼に伝わったようだ。
『転移、する、可能?』
ゆっくりと、青年が聞き取りやすいよう言葉を切りながら、少ない言葉で会話をしてくれた。




