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「女神が冒険者というのは心配だけれど、一緒にいる理由があるのはいいねえ。ほら、行こう、女神。ぼくにどうしたら冒険者になれるか教えてくれる?」
「え、ええ……それはいいけれど……」
ちらり、とアルベルトを見れば、むっすりと、いかにも不機嫌だと言わんばかりの表情をしていた。
「ずるい! 俺もフィーと組む!」
対抗するように、アルベルトは叫び、わたしの手を握りしめた。成人男性らしからぬ、子供のような抵抗だった。
実力は高くとも今から冒険者になり、下級から始めるウィルエールのランクは下級だが、アルベルトは既に上級冒険者。わたしとパーティーを組むのは無理だ。
わたしが上級冒険者になる、というのも到底厳しい話だろう。どうすれば昇格するのかは分からないが、わたしに戦闘は無理である。そもそも成人まであと一年ある。既にエンティパイアの人間ではないので、あと一年、と言っていいのか分からないが。
それをどうやんわりと伝えたものか、と考えていると、わたしが言うより先に、「無理だよ」とバッサリ言う声があった。
「お前は上級だろ、アル。フィオディーナさんと組めるわけがない」
そうきっぱり言ったのは、マルシだった。どうやら彼もまた、仲裁に来たようだ。
「じゃあ今から下級冒険者になる! 登録のし直しだ」
「馬鹿なこと言うなよ。それこそ無理だろ」
呆れた、と言わんばかりにマルシは盛大な溜息を吐いた。
「フィオディーナさん、馬鹿は僕が見ておくから、彼の冒険者登録手続きを手伝っておいで」
「え、ええ……そうさせてもらいます」
まだ駄々をこねそうな雰囲気のあるアルベルトをマルシに任せ、わたしはウィルエールを連れて受付に向かう。
「ねえ、ぼくの女神。彼らは貴女の友人かい?」
「ええ、そうよ。ここでいろいろとお世話になっているの。あまり邪険にしないでくださいまし」
そう言うと、ふうん、とまだ何か言いたそうな顔をしていた。
「……深緑の髪の男性がアルベルト、丸眼鏡の男性がマルシという名前ですわ」
今度しっかり紹介しますね、と言えば、ウィルエールはおとなしく頷いた。
「ねえ、女神が親しいのはあの二人だけかな?」
「え? ええ、まあ……」
確かにこの冒険者ギルドではあの二人を頼って声をかけることが多い。親しいのはあの二人だけ、と言われれば、その通りである。折角だし、もう少し交友関係を広めたいところではあるが……。
「じゃあ、気を付けるのはとりあえずあの二人か……」
ぼそりと低い声で何かつぶやかれた気がするが、気にしないことにした。わたしは何も聞いていない。