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「なあ、これ頼めるか?」


 オルキヘイを無視して、アルベルトはわたしに片手剣を差し出す。彼が愛用している剣はいまだ修理中。その代わりに使っているものらしいのだが、いまいち使い勝手が悪いらしい。

 早く彼の剣を直さねば、と思う気持ちはあれど、フォイネシュタインがないと完成しない。そして、そのフォイネシュタインを取りに行くための武器が不調……とまあ、悪循環だった。

 わたしの依頼につき合わせなければもっと早く直せたのに申し訳ない……と思いつつ、わたしは剣を受け取る。

 少し検分するも、わたしにはさっぱりだった。もともと知識はあれど経験はないのだ。どこが悪いのか分からない。

 ただ、わたしが昨日込めた魔力はすっかりなくなっていた。どこに消えたのだろう。

 そのおかげでなんとなく使いづらく感じるのだろう、ということは分かるのだが……。もう一度魔力を込めなおすのは構わないが、原因を突き止められない以上、また一日かそのくらいで同じように不調になる可能性は高い。

 どうしたものか、と悩んでいると、ふと、オルキヘイが剣をじっと見つめていることに気が付いた。

 言い方は悪いが、彼だって腐っても宰相一族の人間。もしかしたら何か分かることがあるのかもしれない。


「オルキヘイ様、何か分かったことがあって?」


「……いや全く分からん! どう見ても普通の術具だろ」


「…………」


 思わず吐きそうになった溜息を、ぐっとこらえた。駄目だこれ、と頭を抱えなかっただけ褒めてほしい。

 同じことを思ったのか、アルベルトが顔をしかめている。


「フィー、こいつは?」


「ああ、彼はヴァイセン家の――」


 わたしが紹介しようとしたところで、オルキヘイがきらりと目を輝かせた。


「フィー! フィーだって? へえ、君、フィオディーナの何なの?」


 野次馬根性とはこのことか。場を引っ掻き回すだけなら本当にとっととエンティパイアに帰ってほしい。

 エンティパイアにいた頃は、彼とほとんど接点がなかった。と言うより、ヴァイセン家とのかかわりなんて、現宰相のニストロか、カルファ王子経由でグリオットと顔を合わせるくらいだ。

 だからだろうか、こんなにも彼がやかましい人間であると知らなかったのは。いや、エンティパイアにいた頃はもう少しマシだったような……ううん、なんとも言えない。


「別に……彼はただの友人ですわ」


 わたしがそう言うも、彼は「ほんと~?」とあまり納得した様子を見せない。

 まあ、確かにフィー、と愛称で呼ぶ人間はほどんどいない。それほどまでに親しい仲の人間はあまりいなかったし、わたし自身、王子と婚約していたからか、皆遠慮して呼ぶことはなかった。異性ともなれば、なおのこと。

 だからこそ、オルキヘイは勘ぐりたくなるのだろうが……それはアルベルトに失礼というものだ。

 わたし自身、恋愛は諦めているところが少しだけある。今――フィオディーナの時だけでなく、前世ですら婚約破棄をされているのだ。そういう運命にあるのだろう、と悟っているというかなんというか。

 できたらいいな、とは思っているが出来なかったらしょうがない、と思っているのもまた事実である。


「……じゃあフィオディーナは今好きな人いないのか? そういうのに興味はない? 折角自由になったのに?」


 しつこいくらいにオルキヘイは質問を連ねる。なんなんだこの人。

 男性はこういう、いわゆる恋の話というものには興味がないとばかり思っていたが、彼は違うのだろうか。まあ、たまにいるよなあ、恋愛話が好きな男。


 ――自由、か。


 貴族の令嬢である以上、自由恋愛なんてそう望めなくて、爵位の低い令嬢か、あるいは長女でなければまた話は変わってきただろうが、自我もないだろう頃にカルファ王子との婚約が決まり、ずっとカルファ王子の婚約者なのだと自覚を持たされてきたわたしは、彼に気に入られることこそがすべてだと思っていた。

 けれど、今は自由に恋愛ができて、あるいは結婚すらせず孤独に生きることを選択肢に入れることもできる。

 少しだけ、想像してみる。

 家で料理をし、子供と一緒に夫の帰りを待つ。……悪くない。

 あるいは、結婚後もこの修理店を続けて、終業時間になったら夫が迎えに来てくれる。……こっちの方が今は想像がしやすいかも。

 ただ、どうにも、夫の想像がつかなかった。


「――オル! お前!」


 グリオットの怒鳴り声にハッと我に返る。本日四度目のお迎えのようだ。


「……グリオット様、目を離さないようにしてくださいまし。いい加減、作業が進みませんわ」


 わたしがそう言うと、グリオットは顔を青くして、何度もぺこぺこと頭を下げ、オルキヘイを回収していった。

 グリオットに引きずられるオルキヘイは、へらへらと笑っていて反省の色が全く見えない。あれは五回目の訪問を考えている顔だ。

 二人がいなくなったのを確認し、わたしは再びアルベルトに渡された片手剣へと視線を落とす。

 五回目の訪問が来る前に、出来るだけ作業を進めておかないと。

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