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アルベルトさんの姿を認識したのであろうウィルエールさんが、ふ、と顔を曇らせる。ほとんど前髪で目元が見えないが、じ、と目を細め、見定めているような空気を感じた。
「貴方こそ誰です? 随分と我が女神と親しいようですが……」
アルベルトさんを上から下まで見ていたウィルエールさんの視線が、多分、わたしとアルベルトさんの手元で止まる。頭の位置的に、わたしたちが手を繋いでいるところを――。
「こ、これは! 違います、のよ! あの、迷子! 迷子防止です!」
わたしは反射的にアルベルトさんの手を振りほどいて、わたわたと両手を振って弁明した。普通に考えたら、それなりの年齢をした男女が手を繋いでいたら、カップルに間違われるのも違いはない。
でも、だって、本当にこの街で迷子になったら困るんだもん……! わたしはイヤーカフ型の翻訳術具があるから聞き取ることはできるけど、相手はそうじゃない。話は一歩通行では成立しないのだ。はぐれたらそう簡単に再会できない以上、不安要素は取り除いておくべきで……!
「い、いや、そんなことよりも、ウィルエール、さ、あ、貴方! どうしてこんなところに! どうやって!? 王宮術士は一体どうしたんです、のよ!」
焦りと驚きで語気が強くなってしまう。別に怒っているわけではないから、そんな口元を緩ませないで……! これこれ! みたいな表情しないでよ! ……うわ、昔からこうだ、この人。
「ああ、王宮術士なら辞めました」
「やめ、辞めたぁ!?」
声が裏返ってしまった。
「王宮術士長になったのは、女神のそばにいるためでしたので。王妃ともなる令嬢に近づける男は限られてくるでしょう? その限られた男になるために術士長になったんですから、女神がいなければ王宮術士長という肩書に何の価値もない」
驚いてもはや何も言えないわたしに、「ちゃんと引継ぎは済ませてきましたので」とウィルエールさんが言う。そう言う問題でもない。
「ですが、まあ、王妃だの婚約者だの、そんなことを気にしなくていいのは嬉しいものですね。正々堂々、正面から口説いても誰にも文句を言われないし、罪にもなりませんから」
「は……」
まさかの言葉に理解が追い付かない。
頭が真っ白になりながらも、わたしが思い出せないだけで、フィオディーナには分かっていたのかも……と記憶をなんとか引っ張りだしてみるが、該当するものは見当たらない。びっくりするほど最初からそういう態度だったウィルエールさんの好意に気が付いていなかった。
鈍感にもほどがある!
わたしがあわあわしていると、彼は「これからよろしく頼むよ、女神」と言って、わたしの手を取り、その手の甲にキスをした。
自分の手を握られ、キスまでされているのに、どこか他人事のように見ているわたしがいた。
キャパオーバーともいう。




