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 少し早めの朝食を終え、わたしたちはエステローヒの主街の中でも、一等賑やかな大通りへとやってきていた。

 店が開くにはまだ早い時間かと思っていたが、既に開いている店もいくつかあって、人で賑わっている。

 これからもっと人が多くなるのかと思うと、今くらいがちょうどいいのかもしれない。


「フィーは何か見てみたいものとかあるか?」


「そう言われても……」


 エンティパイアにいた頃はオヴントーラの屋敷内や王城など、決められたところにしか足を運ばなかったし、ランスベルヒにやってきてからも、ギルト周辺くらいがわたしの行動範囲だった。

 こうして観光地へ足を運ぶのは初めてで、勝手が全く分からない。

 きょろきょろと辺りを見回していると、アルベルトがわたしの手を取り、にかっと笑った。


「フィーがロッゼに行っている間、俺この辺の散策済ませておいたからさ。よければ案内するぜ」


 どうやら下町や観光地を全く知らないことが伝わってしまったらしい。

 まあ、アルベルトがそう言うのなら、大丈夫だろう。


「じゃあ、お願いしますわ」


 わたしがそう言うと、アルベルトは心得た! と言わんばかりに顔を輝かせ、わたしの手を引いた。

 ぎゅっとわたしの手を握りしめるアルベルトの握力は強く、わたしの手を放すつもりはないようだ。強いと言っても痛いほどではないのだが。

 カップルが多い観光地のようだし、このまま手をつないでいたら勘違いされるのでは、と思ったけれど、あまりにもアルベルトが楽しそうに先を歩くので、水を差すのもアレかな、と、わたしはそのまま手を引っ張られるまま、彼についていくことにした。


「って言っても、この時間じゃあ食い物の屋台がほどんどなんだよなー」


 確かに時間帯的には朝食どきで、客層としては朝ごはんを求めている人ばかりだろう。いろいろなところからいい匂いがしてくる。食べてみたいな、という気持ちがないわけではないが、お腹がいっぱいなので胃は食事を拒否している。

 しかし、そんな中でもアルベルトの歩みは迷いがない。目的地があるのだろうか。


「食い物は昼飯代わりに食べ歩くのもいいが、今は流石になあ。お、あったあった」


 ちらほらと食べ物の屋台ではなく、雑貨の屋台が目立つようになってきたところで、アルベルトが足を止めた。

 そこにはアクセサリーを扱う屋台があったのだが……。


「あらまあ……」


 わたしは思わず声をあげてしまった。その屋台に並ぶアクセサリーは、ただのアクセサリーではない。術石を使って作られたアクセサリーだった。

 こんな露店で売られるようなものではない。珍しいにもほどがある。

 天然の術石は普通の宝石と変わらない価値と値段があるし、人工の術石だってそう安くない。

 目をぱちぱちさせながら並ぶアクセサリーを見ていると、店主が朗らかに笑った。


「珍しいだろ? ウチの息子が術士として働いてるんだが、練習作をよこしてくるんだ」


 なんでも、天然の術石と同じように色とりどりで澄んだ人工の術石を作る研究をしているのだという。

 人工の術石は魔力で術式を書き込むので、どうにも黒くなりがちで、色を付けたとしても濁って汚い色になってしまう。

 練習作、というだけあって、完全に透明なわけではなく、まだらの濁った模様が走っているが、これはこれで綺麗だ。わたしが見たことのある、色付きの人工術石とは全然違う。

 確かに装飾品にしても映える出来栄えである。


「フィーはプリラーノが好きなんだったよな……じゃあこの辺か?」


 そう言ってアルベルトはプリラーノに似た石のついたイヤリングを手に取った。


「本物のプリラーノが付いたイヤリングを贈るのもいいが、折角エステローヒに来たんだ。思い出になるよう、現地で買ったもんもいいだろ?」


 わたしが遠慮する間もなく、パパっとアルベルトは会計をすませ、そのイヤリングをわたしにプレゼントしてくれた。

 買う前だったら多少は遠慮したものの、もう買ってしまったのならありがたく受け取るほかない。

 でもやっぱり、もらうだけはなんだか悪い気がしたので、わたしは男性がつけていても大丈夫そうな、シンプルデザインの腕輪を買う。依頼の報酬金、持ってきておいてよかった……。


「これは、今回の思い出に、わたしからも」

 

 そう言ってアルベルトに渡すと、彼は少し戸惑った素振りを見せたが、笑顔でそれを受け取ってくれたのだった。

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